第三十一話【上位悪霊】
「ありがとうね、坊やたち愚痴を聞いてくれて」
「いえ、じゃあそろそろ逝きますよ?」
「はぁぁい、来世はイケメンの良い男と結婚できますようにぃぃ~~♪」
『カシャ』──ロクでもないクズ男と結婚し、半生をどぶ底に捨ててしまった女性の霊の愚痴をしばらく聞かされた後、無事成仏したのでデジカメで浄痕を撮影する。
これで七体目。
一階の部分は今の女性の霊で最後だった。
一般霊というのはだいたい、こんな感じで未練を残していても大した未練ではない。
今みたいに愚痴を聞いてあげたらスッキリして「じゃあね~♪」と軽いノリで成仏していく。
──診療所跡。
一階を隈なく歩いていると診察室や処置室などがあり、当時使われていた道具なども少し残っている。
じゃあ次は二階に行こうか。
かなり腐った木造の階段はギシギシと軋みグラついて足元が不安定なため、ひとりずつ登っていくことにする。
イヤな感じ。
これは以前、大宜味村の廃ホテル騒動の時に感じた肌に粘りつくような空気。
一階に診療所としての機能がほとんどあったので上に病床があると思う。
霊がいない……。
四部屋あるうちの三部屋まで霊が見当たらない。
一番奥の部屋の横開きの建付けが悪くなった扉を少し強引に開ける。
よかった。
自分が一番前にいて……。
開けた瞬間、黒い針のようなものが、自分の右目に突き刺さる瞬間、「キンッ」と舜歌に第二の守護霊に命じられた比嘉用高さんの巨大フライパンが防いでくれた。
もし、他の人が先頭だったら今ので失明していた……。
ヤバい。
それだけはハッキリわかる。
水族館で見たことがあるガンガゼというトゲトゲの生き物にそっくりな上位悪霊。
人間よりも少し大きいくらいで体の針がグニャグニャと蠢いている。
コイツがいたから二階に誰も霊がいなかったのか。
自分達、研修生にはリスクが高い相手。
舜歌や蔡姉弟じゃないと負傷、あるいは死ぬことだってあるかもしれない。
「悪霊もーらいッ♪」
撤退しようと、前に出ている用高さんのうしろで静かに退がり始めたのに銘苅若菜さんが悪霊に突撃する。
嘘だろ……。
彼女の武器は“仙木剣”と呼ばれる桃の木から作られた退魔用の木剣でシュンシュンっと伸びてくるトゲを切り裂き前に進んで行く。
後ろから符札に霊力を込め着火したものを数枚、山入端さんが投げると青白い炎の弾となってトゲトゲの悪霊に当たると、触手を引っ込めるように当たった部分のトゲが縮み戻らなくなった。
「獅子毛、出番よ」
平安山さんが右腕の長手袋を取ると、斑模様のオレンジ色のアザがあり、そこから毛がゾワゾワと伸びて、トゲトゲの悪霊を捕まえ動きを鈍くさせる。
「いっけぇぇぇッ!」
銘苅さんが飛び上がり上段に構えた仙木剣でトゲトゲの悪霊を両断しようと振り下ろそうとした瞬間。
バァァァン!!
長いトゲトゲの針の奥にある本体が爆発して、爆風で銘苅さんが天井に吹き飛ばされ激突し床に落ち、山入端さんや平安山さんも壁まで吹き飛び、気を失う。
山入端さんは通路の壁、平安山さんは部屋の入口付近に倒れていて、銘苅さんがトゲトゲの魔物の足元にいて一番危険な状況に曝されている。
自分だけ前に立ちはだかっている用高さんとその手に持っている巨大フライパンで爆風の直撃を避けることができた。
………フライパンってどうなの? って以前思ってゴメンナサイ。
イヤイヤ、そんなことは今はどうでもいい。
くそっ。
三人とも意識を失っているから逃げることもできないし、スマホを取り出し助けを呼ぶ暇も与えてくれない。
「もう、朔ちゃんの仲間、手が掛かるわね……」
ヒョイッ
そう言いながらいつの間にか自分の影から出てきた寿姉が、気を失って銘苅さんの手から離れて床に落ちた仙木剣を念のようなものを飛ばし、自分に引き寄せてくれたので拾い上げる。
「今の爆発タメがあったわね」
寿姉ちゃん、よく見てる。
確かに銘苅さんを攻撃しながらも風船のように徐々に膨らんでいた。
そうか。
寿姉の言いたいことがわかった。
「用高さん」
「はい、わかりました」
寿姉と用高さんがトゲトゲの悪霊に突撃する。
すかさず自分は入口手前に倒れている平安山さんを通路の死角になる部分まで引きずり出す。
その間にトゲトゲの悪霊の爆発がおきる。
自分はそのタイミングで室内に仙木剣を持って突入する。
室内はトゲトゲの魔物に突撃したと思わせて銘苅さんをフライパンの影に隠した用高さんと寿姉が爆風に耐えていた。
すぐにフライパンの内側から寿姉が飛び出し大鎌を振るい、トゲトゲを片っ端から根こそぎ削いで本体の部分を暴き出す。
露わになった本体に自分が深々と仙木剣を突き刺すと、頭に直接響くような共鳴音とともに悪霊が塵になって爆散した。
「やった……」
うしろにへたり込む。
危なかった。
もし寿姉と用高さんがいなかったら自分達はどうなっていた?
想像するだけでも背筋が寒くなった。
すぐにスマホで舜歌に電話をかけ、助けを呼んだ。
これに懲りたら、相手の力を見誤らず、慎重に行動して欲しい。




