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第三十四話【崩落】


 危なかった。

 数メートル前を走っていたら巻き込まれて大惨事になっていた。


 マイクロバスに戻った直後、また大雨に変わる。

 スマホで雨雲レーダーの予測をみると、夕方まで雨足が弱まることは無さそうだった。


 もう一台。舜歌が乗っている大型バンの蔡碧芭さんから、短髪十四歳、銘苅若菜さんに連絡があり、予定を繰り上げて研修所に帰ることが伝えられた。


 こちらのバスは授業で格闘術を教えていた南部の支援員の男性で、向こうの大型バンはたしか順宋さんが運転していたはずだ。


 舜歌と何があったのかを瑛守と音無さんに詰め寄られてタジタジになっていた自分は、マイクロバスの急ブレーキで前の席の椅子の後ろに頭をぶつけた。


「おい、アレ……」


 急ブレーキの衝撃を素早く受け身を取って免れた瑛守がバスの前方を指差す。


 土砂崩れ。

 左側の斜面から右側の下り勾配に向けて、表面の木ごと根こそぎ地面の底が滑るように崩れ落ちていく。


 バスが数秒早く、もう少し早く走行していたら……。


 崩壊の規模が大きい。

 道路の部分がゴッソリ抉り取られていて、先には進めない。

 当然、今、この場所にいることも危険だと考えられる。


 後方を走っていた大型バンがバックを始めると、自分達が乗るこのマイクロバスも同様に後ろにさがっていく。


 先ほどの村の入口まで戻って来た。


「舜歌なんて言ってた?」


 舜歌に連絡を取った音無さんは訊ねた瑛守に首を振る。


「舜歌のお兄さんが村役場に連絡したけど、今日の大雨で色んなところが通行止めになってすぐにはココに復旧に来られないって言われたんだって」


 嘘だろ?


 この廃村は大きな県道から長く続く一本道だったし、迂回路のようなものも途中見当たらなかった。


 何日もこの場に救援が来るまで待ち続けられるのか?


 朝、この場所に来る前にバスは大型車が駐車可能な道の駅に寄り、お昼の分の弁当を買ってたし、ガソリンも満タンに近いはずだ。


 だけど、トイレとかはどうする?


 こんな何もない山の中で、と思ったが、川沿いの砂地の部分に”ゆうな„(オオハマボウ)という木がたくさん自生していて、尻ふき用に手分けして取りにいくことになった。


 夜になるとハブが出そうなので、夕方になるまでに済ませた。

 少し前に代表者として順宋さんのスマホに役場から連絡があり、明日の朝には復旧作業にくることになったそうだ。

 なんでも崩れた砂利道は人が住んでいない廃村なため、そもそも村道ではなく、道として登記すらされてないそうで取り扱いが難しいらしく、役所の手続きに時間が掛かるため、農林水産省と自衛隊の出動が決まったそうだ。


 それだったら心配ない。

 明日の朝まで待てば地震などの大規模災害ではないのでピンポイントで物資等をヘリから投下したり、風が吹かなければピックアップも可能だろう。


 夜、催してしまい、バスの中で少しだけ倒したシートの背もたれを音を立てずに元に戻し、バスの前の部分に置かれているゆうなの葉っぱを数枚手にバスを降り、一人、廃墟の中を歩いていく。


 この辺でいいかな?


 建物の陰に入り、スマホのフラッシュモードの状態のまま近くに置いて、用を足す。


 ふぅー。


 スッキリしたところでバスに戻ろうと建物の陰から出ると正面に小さな女の子が立っていた。


 色が白く生気を感じない肌に、錆色の目。


 人ではない「なにか」

 これは先ほどの古い手帳に記されていた于児ユイヤル


 寿姉と用高さんがまだ呼んでもないのに出てきて身構えてるが二人とも顔色が悪い。


「久しぶりの贄、これはまた随分と美味そうじゃ」


 舌なめずりした于児が口を開くと何故か口の中が真っ黒で舌だけが血のように赤い。


「退け、邪魔じゃ」


 無防備に近づくなにかを寿姉が大鎌を横振りする。

 ズルッと胴体を真っ二つになり上半身が斜めに地面へズレ落ちる。


 落ちようとした上半身を用高さんがフルスイングで遠くへ吹き飛ばした。


 おかしい。

 手応えが無さすぎる。

 寿姉も用高さんも構えを解いてない。


 ざらざらっと、上半身も下半身も黒いホチキスの芯のような何かのように崩れてまた一つに集まり人となる。


「邪魔じゃと言うとろう?」


 なにかはそう告げると、もう一度ゆっくり歩み寄る。


「朔ちゃんに近づかないでッ!」


 寿姉は袈裟斬りでもう一度、真っ二つにしようと大鎌を振り落とす。


 ボコボコボコッ


 腕が電柱の柱のように膨れ上がり、寿姉の大鎌を受けそのまま寿姉ごと真横の山の方へ吹き飛ばす。


 ゴオオオオォォォ


 音を立てて迫る拳を用高さんがフライパンで受け止めたが威力は殺し切れず、自分の頬を掠りはるか後方へ吹き飛んでいく。


 二人が体勢を立て直して戻ってくるまで数秒かかる。

 しかし、そのたった数秒が永遠に感じてしまう。


 自分を守る盾がなくなった。

 背中を向けた瞬間、一気に襲われると思う。

 飢えた野獣を相手にしている気分になる。


 あまり何も考えていない。

 ただこうするしかない、と感じた。




 一日前。

 呪学で魔物(マジムン)の使役ができると習った。

 昨日班のミーティングの時に互いの術を説明していた時に平安山百香(へんざんももか)さんの右腕の上位悪霊は平安山家の先代当主、彼女の母親がまだ若い頃、祖母、曾祖母と三代で力を合わせて上位悪霊”獅子毛„を調伏して、平安山家の使い魔として使役することができたそうだ。


 昨日の喚魂術の時間で調伏方法は舜歌から習っていた。

 それはやり方は簡単だが、難易度は極めて高い。



「オレに……」



 身体の中の霊力を全身に行き渡らせ、熱く燃やすように(たぎ)らせ強く念じる。






「オレに従えっ!」






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