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第十四話【魔術師】

「いらっしゃいませ、店内でお召し上がりですか?」


 オレンジジュースを注文した。

 スモール、レギュラー、ラージでサイズを選ぶらしい。


 那覇の方から国道五十八号を真っすぐ北上すると名護市街の入口にある老舗ファーストフード店。


 話に聞いていたが、敷地内には屋根が伸びていて停車したまま注文できるドライブインスタイルで、店内に入らず、車内で食事している人達がたくさんいる。店内に入るとオールディーズが流れ、レトロでロカビリー調なアメリカを彷彿させるような雰囲気に包まれている。見たところ観光客の数も多い。これなら初めて来店する自分でも浮いてしまう心配はなさそうだった。

 

 オレンジジュースを受け取って辺りをキョロキョロすると、奥の窓側に際立った女性をみつけた。


「ゴメン、早くきたつもりだったんだけど」


 音無小春──。

 同じ名護第二高校の同級生で学年でもとりわけ美人。一人座っているだけで絵になっている。


「ううん、私の方がだいぶ着くのが早かったみたい」


 紫系統の淡い色合い(パステルカラー)のブラウスとフレアスカートでコーデされた少し大人っぽい恰好に胸の鼓動が少し早くなる。


 対面に腰かけ、添えてあったストローの包みの封をきり、硝子のごっついジョッキに差してオレンジジュースを飲み始める。


 間が保たない。ポテトも注文すればよかった……。


「朔くん、いいかな?」

「あ、うん……」


 なんだろう?

 数日前に手紙をもらって音無さんとSNSが繋がった。手紙には二人きりで直接会って話がしたいと書いてあった。


 これってもしかして……期待していい?

 でも待て、相手を見ろ。どうみても自分とは釣り合わない。 

 期待して違ってたらショックが桁違いだ。


 今日の朝、SNSで待ち合わせ時間を確認した時に寿姉に「チビっ子以外とも女の子とデートするの? お姉ちゃんはこんな子に育てた覚えは、よよよっ」とささやかな抵抗にあったが、アドレナリン大量分泌で、多少の精神攻撃にも耐えられる仕様(こころ)となっている。


「実はお願いがあるの」

「うん?」


 あれ、ちょっと思ってるのと話が違う方向かもしれない……。


「一週間だけ私とつきあって(・・・・・)

「んんん!?」


 ビックリした。

予想していたものの中で一番嬉しい予想。

やっぱりコッチ系の話だった。でも一週間って……。


「ゴメンね、急な話で驚いちゃうよね」


 音無さんは少し考え事をしながらなのかたどたどしく説明を始めた。


 ここ最近、学校が終わり校門を出ると何となく視線を感じるようになったそうだ。

 音無さんはとにかく目立つ。ストーカーに付きまとわれてもなんらおかしくない。

 でも……。

 

「なんでオレなの?」


 そう、恋人のフリでいいなら他にも男子はたくさんいると思うけど。

 

「その……朔くんじゃないとダメなの……」


 え? なにどうゆうこと?

 音無さんが少し視線を逸らし窓の外を見た。

 これって……。


☯☯☯


 結局、音無さんの要望について承諾して、一緒に彼女の家まで送ることになった。

 音無さんは母親と二人暮らしで、母親は名護市内の病院で看護師をしているそうだ。母親と二人暮らしだが母親が夜勤もあるので生活のリズムが合わないそうだ。


 皆、色々大変だな~。女の人しかいないんだったら尚更、危ない。自分で良ければ彼氏のフリをさせてもらう。


 ──いや、むしろ大変光栄です。

 

 周りから見ると自分達は高校生カップルにみえているだろうか?舜歌と歩いていると兄と妹と思われてないか気になっていた。そういえば舜歌にはなんて話せばいいんだろう?


「音無さん、舜歌にはなんて言えば」


 横を歩く黒く艶のある髪が振り向きざまに、ほのかに甘い香りが鼻の奥に届く。

 

「舜歌の名前がどうして出てくるの?」


 ストレート過ぎたか。どうしよう? 

 悪霊退治の話や「結婚する」と舜歌がのたまっている話しをしていいのか判断ができない。


「瑛守もそうなんだけど、最近放課後に舜歌の家で勉強を教えてもらってて……」


 苦しいか? でも、これ以上はなにも浮かばない。


「私は……」

「トロロロロ~♪」


 音無さんが何か言い掛けた瞬間、マナーモードの筈のスマホが最大着信音で鳴りはじめる。


 寿姉ちゃん、こんな時に……。

 スマホを耳にあてると、寿姉から低い声で警告される。


「朔ちゃん、あとを尾けられてるよ」


 バッと振り向くと同時に傍の路地に誰かが隠れる影がみえた。


 路地裏まで駆け寄り、覗くと奥に走って逃げていく男の背中が見える。

 追いかけようとすると後ろから音無さんが「危ないから待って」と制止する声を振り切り、男の後を追う。

 顔だけでも見れたら今後の対策がしやすくなる。

 

 男は路地裏を熟知してるかのように右に左に建物の隙間を縫って走っていく。

 角を曲がると袋小路になっていた。ようやく男の顔を拝む。


 コイツは確か数日前に自分に声をかけてきた男。

 全身黒ずくめのコートに山高帽を被った男は追い詰められたはずなのに口許が反り返った笑みを浮かべている。


 ここに誘い込まれた!?

 黒ずくめの男は、ゴルフボールくらいの風船玉を左右の壁と地面の三か所に叩きつけ割ると、中にはいっていた泥状のものが壁や地面にこびりつく。


「proklínat ho」


 視える。

 男が呪文のようなものを唱えた途端、泥の塊から全身が焼きただれた姿の悪霊が姿を現すとこちらに走って向かってくる。


「寿姉!」


 スマホから飛び出し、手にもつ大鎌で一振りで消し飛ばした寿姉が自分の前に立ち、黒ずくめ男に大鎌を向ける。


「〝高位霊体の筐体(きょうたい)保存〟……か、とんでもない術師がいるな……」


 男はそう独り言を呟き、ばっと両手を広げる。

 身構えたが何も起きない。


「閏弥生朔くん、これは警告だ」


 男は山高帽を深く被り直し、鋭い眼光でこちらを射抜いてくる。






「音無小春から手を引け」



 「イヤだ」と確かにそう言い返すつもりだった。が、できない

 首にいつの間にか何かが巻きつけられ、身体が持ち上がり、足先が地面を離れる。


 糸? いつの間にこんなものが……。


 さっき両手を広げてみせた時?

 苦しい。『う、ぐぶっ……がぁ』と呻き声が勝手に口から漏れ出る。



「その気になればこういうこともできる」


 意識をなくなるなか、男の声が聞こえた。




「キミでは音無小春を守れない」




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