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第十三話【六つの教え】


「ギャァァァぁぁ~~来世は大物を釣りたい~~」

「よし、完了♪」


 名護市の西側に広がる本部半島──最西端には全国的に超有名な美ら海水族館を擁する沖縄記念公園がある。

 その少し手前の海岸側に張り出したバイパスの親水式護岸の(へり)で溺れて亡くなった釣り人の霊のを祓い終わった。


「ふ~ん、勉強ね……」

「いや、違うんだ、てっきり瑛守は知らないと思っていたからつい……」

「うん、知らんけど?」

「え?」

「朔~瑛守は視えないよ~」


 最近、霊視眼鏡(ユーカガン)無しでも悪霊や浮遊霊などが視えるようになった。


 ってかあれ?

 瑛守、幼稚園の頃から“このこと”を知ってるんじゃ……。

 

「俺は視えないし、視たいとも思わない。だから最近舜歌が朔に近づいてるのか」


 来る途中で順宋さんに自販機で買ってもらった炭酸飲料を開けて口につけながら月夜に照らされた静かな海を眺める。


「うん、朔は私と将来結婚するの」


(「「ぶぶぅっ~~っ」」)


 瑛守と二人、手に持っていた炭酸飲料をド派手に口から吹き零す。

 ってかあれ……もう一人吹いてたけどダレ?


 あ……スマホが着信入ってないのにバイブ機能が止まらない……。

 寿姉落ち着けぇ~~~、今は瑛守がいるから。

 

「舜歌……朔と結婚って」


 なんだか瑛守もプルプル震えてる。

 あれ、舜歌が構わないならそれでいいって言ってなかったっけ?


 舜歌が瑛守に結婚を決めた経緯……セジ=霊力のことを説明しはじめる。


「舜歌は霊力があれば相手は誰でもいいのか?」

「うん、いいよ~瑛守に霊力があれば瑛守と結婚したのに」


 そうなんだ。本当に誰でもいいんだ。


「霊力って生まれ持ったもので鍛えても霊力は身につかないのか?」

「ううん素質さえあれば大丈夫、鍛えれば鍛えるほど強くなるよ~」


 瑛守が舜歌にするとすぐに答える。


「俺は?」

「えーっと……瑛守も素質はあるね~」

「よかった、じゃあ俺も手伝う」

「え? 野球部が忙しいでしょ?」

「いや……実は野球は二年の夏の大会までって親と約束してたんだ。」

「なんで? 瑛守ならプロになれるのに」

「俺の場合は早熟だから今がピーク……プロでは通用しないよ」

「瑛守らしくない、諦めちゃうってこと?」

「野球と同じくらい小さい頃からの“もういっこ„の夢があるんだよ」


 完全に会話に入れる雰囲気じゃない。静かに二人の会話を見守る。

 瑛守のもう一つの夢とは建築士。

 親が設計事務所を開いているらしく、父親の跡を継ぐなら資格取得のために専門の学校に行かないといけないそうだ。


 スゴいな……。

 野球だけでもすごいのに、もう自分の進むべき「道」を決めている。

 

 自分は「からっぽ」……。

 最近までロクに人とコミュニケーションすらままならなかった。


「朔~大丈夫?」

「あっうん」


 いつの間にか俯いていたみたい。

 舜歌が気にしてくれている。


「朔~、六諭って知ってる?」

「りくゆ? 知らないよ」

「六諭ってのはね~六つの教えのことなんだ」


 舜歌の先祖にすごく有名な琉球時代のお役人がいたそうで『程順則(ていじゅんそく)』という人が大昔に中国からその教えを持ち帰ったそうだ。

 その教えの中にある一つを教えてくれた。


『各安生理』……自分のやるべきことを成し遂げなさい。


 これは、天職を見つけることにも通じるそうで、舜歌は家業に迷いなんてないだろうし、瑛守は「道」を既に見定めている。


 ──そうだ!


 卑屈になっててもしょうがない。早くても遅くても関係ない。自分が本当にやりたい道を見つければいいのだ。


 ポンッ


 瑛守がニコニコしながら肩をたたく。


「っということで朔よろしくなっ!」

「あっうん、こちらこそ」

「俺たち高校生なんだ。く・れ・ぐ・れも間違いは起こすなよ?」


 いやいや幼女相手になにも起きる訳ないし。

 ってか寿姉に続き監視者がまたひとり増えた気がする……。



 ☯☯☯


「そうか瑛守も手伝うことになったんだね」

「はい、順宋さんも知ってるんですよね?」

「まあね、それが“程家„の男の役目だからね」


 帰りの車の中で瑛守が助手席で順宋さんと話していて、舜歌は車に乗ると後部座席ですぐに爆睡しはじめた。そういえば最初に会った日も爆睡してたような……。


「朔くん、舜歌からプロポーズは受けたかい?」

「えっ、あっ……はい」


 信号待ちしてる間にルームミラー越しに小説家をしている順宋さんと目があった。

 嘘をつくわけにはいかない。素直に答える。


「〝あれ〟はまだ子どもだ。結婚のことをよくわかってない」

「……」


 順宋さんは今は深く考えないようにとアドバイスを送ってくれる。

 そうだよな……さすがに何でも舜歌のいう通りな訳はないよな。


『ヴヴッ』──ん、着信?


 スマホのロック画面を解除するとSNS上で寿姉から通知がきてる。


『──順宋さんに付き合っている人がいるのか聞いて』


 ──ぇ。

 聞けるわけないでしょぉぉぉぉ!


 なに? 寿姉ちゃんオレのことが大好きだったんじゃないの?


 あんな大人で優しくて、背が高くて頭のよさそうな……ってあれ、マイナス面が思いつかん。


 まあいい、そうか……寿姉ちゃんもお年頃。今頃やって来た初恋。でも寿姉、今「スマホ」だからね? どうやって生身の人間と恋愛するつもりなんだろ。


 ポチポチっと文字で返信すると、秒で返信が戻って来た。はやっ!

 えーっとなになに……『彼が死ぬまで見守って来世で結婚する』──寿姉ちゃん逞しい。


 瑛守は程家の近くらしいから自分が先にアパートに送ってもらった。

 順宋さんにお礼を伝え、瑛守にバイバイと手を振る。


「ただいま~」


 家のドアの鍵をあけると親父が先に家に帰っていて、リビングの明かりが玄関の方まで漏れ出ている。


「朔、お帰り、はいコレ」


 部屋で着替えてリビングに顔を出すと、先に夕食を食べて晩酌しながらテレビを観ていた父親がニヤニヤして俺に振り向きあるものを手渡す。


 なんだろう……手紙?

 手紙をひっくり返して差出人をみた。



 ──音無小春。



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