エスコート
読んで下さり、ありがとうございます!
間が空いてしまってすみません…
と、意気込んだものの。その前に私達には夜会に参加するという重大?なミッションがあるんでした…!
夜会…てことはダンスも踊るのよね?私、ダンスなんて踊れないのに…。
「ご心配には及びません。既にダンスの先生を手配してございます」
さすがアンナさん!はい、フランツさん!悔しそうな顔しない!アンナさんと張り合わないのよ!アンナさんは王城がホームなんだから勝てるわけないでしょうが。
夜会まであと2日しかないのに…というか練習は実質1日しか出来ないのにダンスなんてマスターできるものなのかしら!?
「夜会の始めの曲は簡単なものにして頂いております。一曲だけなんとか仕上げましょう」
「わ…分かりました」
簡単な一曲ならなんとかなるかしら…。ううん、なんとかするのよ!イリーネ!頑張れ私!
「当日はどなたと踊るのでしょう?その方にはご迷惑をお掛けしてしまいますね…」
一曲だけというなら、ダンスもエスコートしてくれる男性が相手なのだろう。相手は誰になるのかしら?
表情をあまり表に出さないアンナさんが、珍しく眉を少し顰め、ため息をついた。クールビューティーの憂い顔も素敵。
「それがまだ決定していないのです」
「それは…やっぱり皆さん、庶民や素人とは踊りたくないっていう感じ…なんですか、ね…?」
そーだよね〜。私以外お貴族様ですもの。相手が庶民だなんて屈辱よね。分かってはいたけど寂しいなぁ…。
「違います!!」
「!?」
クールビューティーがいきなり吠えた!?
「そんなわけないではないですか!こんっ…………なにもっ!見目麗しいイリーネ様と踊るのが嫌だなんて…そんなやついたらわたくしが張り倒して差し上げますわ!」
「おおぅ…」
「そ・れ・に!聖なる導者様はもはや貴族階級とはまた別の特別枠!魔王を討伐すればイリーネ様は王族とも結婚が可能な高貴な身分なのです!決して卑下してはなりません!」
「へ…へぇ〜?」
「分かってます!?」
アンナさんが怖い。
前のめり気味に説明するその目がちょっと血走っているのは決して気のせいじゃない。怖い。
「わ…分かりました。でも…それならなぜ皆さんエスコートしてくださらないんでしょう………」
あ…もしかして身分とかじゃなく私個人の問題…?
アンナさんとか周りの皆は褒めてくれるけど…私、髪白いし。連れて歩きたくない的な感じ?
それとももしかして私、気付けなかったけど性格に難ありなのかな…。
悲しい。
「………また変な風に考えてますね?」
ジト目なアンナさん。出来の悪い子を諭すように、ずずいっと顔を近づけ、目を真っ直ぐ見て説明してくれる。
「イリーネ様は妖精のように麗しく、性格も穏やかで所作も美しい完璧な淑女と言えます。確かにダンスはこれからですがそんなものはなんとかなります。というかエスコートする男性の腕でなんとかしやがれって感じです」
「おおぅ…」
じゃあなんでみんな私のエスコートを嫌がるの?
口にするのが苦しくて、どんどん俯いてしまう。
思い浮かべるのは愛しい人の顔。
番になりたいって言ってくれたのに…。でも、拒絶したのは私。それなのに勝手に傷付いている。なんて勝手なんだろう。拒絶されたアランの方が辛いに決まってるのに。追いかけてきてほしいだなんて…なんて勝手な女なんだろう。自分で自分が嫌になる。
もんもんとしていると、頭上からクスッと笑い声が………笑い声が!?
ガバリと顔を上げると、そこにはふわりと笑ったアンナさんが…!
はぁぁぁん!クールビューティーが見せる幻の笑顔!見よ、この破壊力…!!もう、アランなんてどうでもいい!私は百合に生きる!!百合…どうすればいいのか分からないけど!!
私は熱に浮かされたまま、アンナさんを見つめる。
「ご指導、お願いします………」
「……………」
あ。スンてなった。笑顔一瞬だった。そうだよね。何の指導だよって感じだよね。でも。うん。冷静になった。ごめんなさい。ほんとごめんなさい。暴走しました。
「イリーネ様がお望みとあらば何でも…手取り足取り…丁寧にご指導致しますが…………」
「おいっ!」
あ。フランツさんいたのね。
ていうかアンナさん、聞いといてなんですが…何をご指導下さるんですか!?アンナさんの顔が赤く、鼻息が荒い気がするのは気のせいですよね!?
望んでしまったらもう、戻れない気がする…。禁断の扉。開くか、否か…。いや、否でしょ。しっかりしろ、私。
アンナさんはひとつ咳払いをすると、すっと背筋を伸ばす。
「イリーネ様はご自身が思っているよりもずっと、素敵でございますよ」
「でも…」
「現に、イリーネ様のエスコート役が決まらないのは皆様が拒絶しているからではございません」
「………と、いうと?」
「エスコート役に立候補が多すぎて決まらないのでございます」
「………嘘でしょう?」
「事実でございます」
な…なんと!?まさかまさかの思わぬ展開!
「アラン様を筆頭に、ラヴィル様、マルク様、ウィルフレッド王子が名乗りを上げておられます」
「王子!?」
なぜそこに王子!?さっき会ったばっかりだよ!確かに初対面でものすごく結婚を迫られたな…。でもロイヤルファミリーの仲間入りなんてお断りだよ!?
「王子と結婚なんて…そんなにこの国は魔力の強い人間が欲しいの?」
「いえ、イリーネ様に一目惚れなさったそうです」
え、それ本当に本当なの?ガチ??まさかの政治抜きの求婚!?
王子のエスコートで会場に現れたら…これって王子とのあらぬ噂が流れちゃったりするんじゃないの…?そんな風にどんどん外堀を埋められてしまったら…逃げられなくなるのでは!?
「王子は無いとして」
無いんかい!
無表情のまま王子を否定したアンナさんに心の中でツッコむ。
「ラヴィル様にエスコートをお願いしたとしても噂や憶測が飛び交うでしょうし」
あー…確かに。隠し子とか?若い恋人とか?恰好の的よね。事実、隠したつもりはないけど隠し子だし。でも皆様に身を削ってまで話題を提供するつもりはない。
でも別々に会場に入ったとしても他人にマジマジと瞳の色を見られたらアウトかも。あー、でも幻覚の魔法っていうものがあったな。あれ使って行こうかな。紫色を隠そう。
「なので現実的なのはアラン様とマルク様でしょうか」
そうか…。アランは私のエスコート、してくれる気あるんだ…。
浅ましく喜んでしまう自分はとても汚らわしい。
でも。私の人生において、好きな人と踊れることなんてもう無いかもしれないから。長い人生で、これっきりかもしれないから。
汚い。分かってる。それでも…。
「……アラン様にお願いしてもよろしいですね?」
アンナさんの笑顔が優しいから。
これで最後だから。
そう自分に理由をつけて…私はゆっくりと頷くのだった。




