紳士か!
いつの間にかドラゴンに戻って眠ってしまっていたらしく、目が覚めるとまたも先程のベッドの上。
あぁ…太陽の光がカーテンの隙間から燦々と…燦々…と…………?
「わぁ!寝すぎたぁ!!」
恐らく太陽は真上。お昼過ぎてる!?
急ぐ旅だっていうのに私ってば…!
「イリーネ!もう大丈夫なんですか?」
「フランツさん!」
部屋の隅に控えていたようで、フランツさんが駆け寄る。
…って言ってもそこまで広い部屋じゃないから足の長いフランツさんが大股で数歩歩いただけなんだけど…。
アランも部屋の隅にいたようで、こちらに駆け寄る。…もちろん、大股で数歩。
ちなみにふたりとも部屋の隅にはいたんだけど、フランツさんはドアの前の隅。アランは窓の前の隅。…つまりはこの狭い部屋の中、極限まで離れた場所にそれぞれいたってこと。
そして今、ベッドの前でかち合って火花を散らしている。何がしたいのよ、もう…。
フランツさんは今朝、私が一度目覚めたときは武器屋に行っていて不在だったらしい。暗器が歯が立たなかったのが悔しかったようだ。
って、のんびり話してる場合じゃなかった!!
「早くしないとアランの仲間に追いつけないわ!!」
「そのことなんだが…よく考えるともう、彼らは王都に着いているかもしれない」
「なんですって!?」
「途中、イリーネに飛んでもらったのに追いつかなかっただろう?もしかしたら急を要すると踏んで早馬か何かを使ったのかもしれないなと思って…」
「な、なるほど…」
あの日、仲間の方々が歩きか馬車なら追いついていたはずだ。でも結果はあまり間を詰められずに終わった。ドラゴンの私が飛ぶ速さまでとはいかなくとも、早馬で移動していたのなら理由がつく。くぅっ!なぜ気付かなかったのか…。
そりゃ勇者が死んだら一大事だもの!急ぐよね!
勘違いだけどね!生きてるけどね!
「じゃあいよいよ急がなくちゃ!国中パニックになっちゃう!」
「あぁ…うん。そうだね…面倒だけど仕方ない…」
アランが遠い目をする。
勇者になりたくてなったわけじゃないって言ってたものね…。確かに虐げられてたのにそいつらもまとめて守れ!って言われても心の整理ができないわよね。心中お察しします…。
私の体調ももうバッチリだし、今すぐにでも出られることをみんなで確認し合う。
「いろいろ思うところはあるけど…まぁ、イリーネも一緒だしな…頑張るよ」
「ふぐっ」
そんな蕩けるような目で見ないで…!!気持ちを自覚してしまった今となっては、その色気は殺傷能力抜群です。
そんなアランをなぜかギロリと睨んだフランツさんは一転、真面目な顔で私を見る。
「その前に確認しても?イリーネはドラゴンだったんですね?」
「そうなんです…。黙っててごめんなさい。人間の姿にもなれるんですが結構魔力を使うんで、いつもはほぼドラゴンの姿でいるんです。…アランも、人間になれること黙っててごめんなさい」
「問題ない。人間のイリーネも美しいな。まるで妖精のようだった」
「うぐっ」
アラン…私を殺す気?あんなお婆ちゃんみたいな私を美しいだなんて…なんて紳士なお口なの!
照れて固まる私を眺めながら顎に手を当てて何事か考えるフランツさん。私がドラゴンだと何か不都合なのかしら…?確かにこんなちんちくりんなドラゴンに従属しているのは不安か。
ここはもう一度フランツさんの意思を確認した方が…というかもう従属関係は必要ないし、解消してしまおう。そうしよう。
「従属を解消…」
「で、ぶっちゃけ人間の姿なら人間の男との性交は可能なんですか?」
「………え?」
セイコウ?成功?精巧?
何を言っているのかさっぱり分からなくて、首を傾げてフランツさんの端整な顔をじっと見つめる。
「あ、性交…分かりませんか?動物で言うと交尾ですね。つまりは子供を作る行為です」
「〜〜〜〜〜!?」
なななななな何をぉ!?
わざわざ出発を送らせてまで話す内容がこんな…セクハラ的な内容だなんて!!しかもアランだっているのに!!アランも顔を真っ赤にしてるじゃない!!
「…………ノーコメント」
これが精一杯よ!!
この返答に、ニヤリと笑うフランツさん。
「なるほど。分かりました」
え、何が分かったの!?ノーコメントって言ったよね!?何も分からないはずだよね!?
「さて、モチベーションも上がりましたし、サクッと行きましょうか?勇者殿。導者殿。」
なぜにこの会話でモチベーションが上がったのかが気になる…けど、聞いたら後悔しそうな気がする!
私は羞恥とか疑問とか顔の火照りとかもろもろを圧し殺して出発の支度をするのだった。
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「これから歩いてたんじゃ遅いと思うの」
街を出たところで潜んでいたアランの鞄の隙間から言う。
「戻って早馬を用意しますか?」
「いえ、それよりも早い方法があるわ」
「……………」
アランの頬がピクリと引き攣ったのを顔を逸らし、そっと見なかったことにする。
そして私は鞄からするりと出ると、人間の姿になる。もちろん、同時に空間ポケットから洋服を着用するのは忘れないよ!
今日も背中が開いたワンピースだ。
この前のはボロボロになっちゃったから違うのだけどね。今日のは紺色で落ち着いた色合いのものだ。
って、ワンピースなのはどうでもいい。本当なら動きやすいTシャツにデニムとかがいいんだけど…そんなのこの世界にはないからね。ワンピースなのは仕方なくだ。
重要なのは背中が開いてること。
母様が昔、やっていたのを見たことがあって…それを試してみたいと思っているのだ!
「ドラゴンで飛ぶんじゃないのか?」
「まぁ、見ててね」
私は背中に意識を集中する。
「…一部、解除」
私は羽だけドラゴンになろうとする力を開放する。
「っ!」
「これは…美しい……」
「あまり見ないでください……」
私は人間の姿のまま、ドラゴンの羽を出すことに成功した。
『人間に羽が生えている』と聞くと天使のようなイメージを抱くかもしれないが、色は白銀とはいえ、例えもふもふとはいえ、形は爬虫類の羽だ。天使というより悪魔だ。
「いや、天使だろう。この美しさなんだから」
「天使以外に見えるわけないでしょう、その顔で」
紳士か。
こういうところはふたり、似ているなって思う。私が傷つかないように言葉を選んでくれる。
もう一度言おう。紳士か。
「とにかく、これでなんとかふたり運べると思うの!」
「…ちなみになんで前回はやってくれなかったんだ?」
アランが若干のジト目で見てくる。
「………忘れてたからよ」
嘘です。人間の姿を…素っ裸を見られた直後だったから恥ずかしかったのです。
でもそんなこと言えるはずもなく、すいっと目を逸らす。
…感じる。アランの視線を感じる。
「さ…さぁ!とにかく、急いで出発するわよ!」
私はふたりの美丈夫をくっつけ、飛び立つのだった。




