死闘
「っ!!イリーネ!!!!」
「はっ……、はっ……、はっ………」
「息も絶え絶えだネ。ねぇ、今、どんな気持ち?痛い?辛い?悲しい?憎い?見てよ、この血の量。もう助からないヨ?絶望シタ?ああ…ゾクゾクするナァ!」
恍惚とした表情でアガリアレプトがイリーネを見つめる。
イリーネは俯き、浅い息を繰り返している。
その腹には今だアガリアレプトの腕が埋まっており、そこからは血が滴り落ちている。
っ!!許さない………!
「き…さまぁぁぁあああ!!!!」
殺す!殺す!殺す!殺す殺す殺す!!!!!
「オット。動かないでヨ。この子の体が裂けてもいいのかナ?」
「っ…!」
「もう、助からないとは思うけどネ」
いや、まだ望みはある。
イリーネはドラゴンだ。
普通の人間なら貫かれ、あれだけ血を流せば命はない。
だが、彼女の回復力があれば、もしかしたら…。
イリーネがいなくなってしまうかもしれないという現実なんて見たくなくて、なんとか可能性を見い出す。
下を向きたくなる顔を上げる。
今まで守ることを強要されてきた。
人。貴族。王族。国。
でも、彼女は違う。
強要なんかじゃない。俺が、守りたいのだ。
心の底から、俺が守りたいのだ。
隣で固まっているフランツなんかに…クソ執事なんかには任せたくない。
俺は利己的な人間だ。
守りたいのは他人じゃない。俺の側で笑ってくれる人だ。
守りたいのは国じゃない。俺の手の届く範囲の世界だ。
そして、彼女はそんななかでも…特別で、唯一無二の存在だ。
もう彼女なしでは生きていけそうにない。
なんとしてでも、助ける!
「ふふっ…、ふ、あははっ!」
俺が決意を固めていると、突然イリーネが笑い出した。
その場の全員がイリーネに注目する。
腹にはまだアガリアレプトの腕が埋まっており、俯いたままで表情は見えない。
アガリアレプトも笑みを消し、イリーネを見据える。
「わた…しが、っ……、どんな…気持ちか…って………?」
そこでようやく顔を上げ、アガリアレプトを見据える。
その顔には……痛みで歪んではいたが、笑みが浮かんでいた。
「はっ…、はっ…、歓喜して…いる………わ」
「!?」
力強くガシリとアガリアレプトの腕を掴む。
…腹に埋まっている、その腕を。
「はっ……、はっ………、こうして……あなたを、捕まえられたんですもの!」
最後、勢いよく言い切った直後、アガリアレプトを光が包む。
「っ!?光魔法カっ!まだそんな力が!?」
イリーネの光の魔法がアガリアレプトを完全に包み込み、捉える。
意図を理解したアガリアレプトが逃れようともがき暴れ、それにより腹に埋まった腕も大きく動き、傷口から血がごぽりと溢れる。
「ふっ…あ……っ!アランッッ!!!」
「任せろ!!」
イリーネが悲鳴のように俺の名を呼ぶ。
早く、早く、解放してあげたい!
既に走り出していた俺は、光の魔法を纏った聖剣を振りかざす。
「っ!!ヤメローーーーーーっ!!」
「死ぃねぇぇぇぇえええ!!!!」
ザシュッ!!
(やったか!?)
腕に確かな手応えが伝わる。
そして…目の前には頭のてっぺんから腰にかけて、左右に切られたアガリアレプトが…。
切り口から血が流れることはなく、そこはただ、闇だった。
力を無くした腕がずるりとイリーネの腹から抜け、腹の穴から向こう側が見えた。
「イリーネ!!」
後ろへ倒れそうになるイリーネを抱きとめる。
腹からは血が流れ続け、顔色は真っ白だ。
一刻を争う自体だ。
「イリーネ!!大丈夫か!?何か…何か俺に出来ることは!?」
「だ…じょぶ………」
小さく微笑むのを見ても、この状況だ。とてもじゃないが不安は拭えない。
その時、イリーネが淡く光り…ドラゴンの姿に戻った。
恐らく人間の姿が保てなくなったのだろう。
それほど消耗している、ということで………。
嫌な想像を消すために、軽く頭を振る。
素早く自分のマントの裾を短剣で少し切り、それより先は手でビリリと切り裂く。
それを包帯代わりに腹に巻いてやる。
何か…何か、出来ることはないのか?
焦るばかりで何も浮かばない。
考えろ…考えるんだ。
「……ドラゴン?」
そこまでずっと固まっていたフランツが小さく呟いたのが聞こえた。
そういえば知らなかったな。
特段反応はしてやらんが。
俺はイリーネが言うような優しい男ではないのだ。
その時、イリーネが薄っすらと目を開ける。
「光…よ、癒やせ……」
か細い声で唱えると、光がイリーネを包み込む。
やがてそれが収まる頃には、浅い息をするばかりだったイリーネの呼吸が安定したものへと変わり、安らかなものへと変わっていた。
そして眠っているのか、穏やかな顔で目を閉じていたのだ。
もしかして…?
俺はそっとイリーネの包帯を外す。
そこは血はべっとりと付いてはいるが、穴が完全に塞がっていた。
治癒魔法を使ったとはいえ、驚異の回復力だ。
そこでようやく詰めていた息を吐き出す。
肩にも力が入っていたらしく、どっと体中から力が抜ける。
良かった…。
安堵し、今頃になって手が震えてくる。
イリーネに何かあったらと思うと生きた心地がしなかった。
気付けば心臓もすごい速さだ。
良かった。本当に良かっ………
「へぇ…スゴいネ?ドラゴンの力と魔力かイ?」
「「!?」」
するはずの無い呑気な声に反射的に振り返れば、アガリアレプトが…脳天から腹まで切られた状態で、上半身が左右に別れた状態で…こちらを見ていた。
半分ずつに切られた顔が笑みを浮かべていて、とてつもなく不気味だ。
切られた状態でも倒れないと思えば…まさか死んでいなかったとは!
イリーネを左手に抱き込み、右手で剣を構える。
目の端にフランツも暗器を構えたのが見えた。
光の魔法を纏った聖剣で切っても死なない相手に、いったいどう立ち向かえばいい…!?
読んで下さりありがとうございますー!!




