甘すぎて味が分からないことってあるよね…
また元いた場所でアランを眺める。
変わらず無表情だが、チラリと渡したメモを盗み見たのが分かる。
『紅茶に薬が混入される可能性あり』
長文を書く余裕は無かったからそれだけ書いた。
伝わっているといいのだけど…。
アランの表情は変わらない。
「ただいま戻りました。大丈夫でしたか?」
「フランツさん。おかえりなさい。問題ありませんでしたよ」
スッと私の横に来たのはフランツさん。
私は微笑んで返す。
フランツさんはホッとした顔をし…甘く微笑んだ。
「さすがです。いきなりお願いしてすみませんでした」
「い…いえ……」
うっかり甘い笑顔にドギマギしていると…フランツさんがそっと手を伸ばしてきて…私の乱れた髪を直した。
「ひゃっ」
な…なにを…!!
この人、髪を整えた流れで首筋撫でた…!
私が顔を赤くして、艷やかな笑顔のフランツさんを睨んでいると…
バキッ。
……………?
アランの方から何か変な音が…。
「あぁ、すまない…つい」
「「「!?」」」
…『つい』!?『つい』って何!?
『つい』で金属のフォークって折れるものなの!?
さ…さすが勇者…ってこと?え、勇者ってだけで理由になる??
アマーリア様もフランツさんもフォークを凝視したまま………固まっている。
……もちろん、私も。
「………………………………今、新しいものをお持ちします」
一番初めに我に返ったのはフランツさん。
さすが執事の鑑!
持ち直すのが早いね!
薬を用意していた張本人だということも忘れ、フランツさんを尊敬の眼差しで見ていると…。
ヒヤッ。
「!?」
な、なんか…寒気…が…?
なんだろう…なんだか…アランの方から…視線を…感じ…?
「ひっ」
アランが不敵な笑みを浮かべて見ている…私を。
え、なんで私!?
私はアランを助けようとしてるのに!味方なのに!
なんか恨まれるようなことした!?
私がぷるぷると震えながらアランから目を離せずにいると…スッと目の前に黒い壁が。
「何か彼女に御用でしょうか?」
「…あぁ、御用だ」
壁だと思ったのはフランツさんの背中だったのか!
フランツさんは私をアランの視線から守ってくれたらしい。
………あれ?なんでだ?逆じゃない?
どっちかって言うとフランツさんは敵じゃない?
「…私は貧乏な男爵家の次男です。ですが…魔王を倒せば確固たる地位が手に入る」
「え…」
硬質な声が妙に響く。
アランは権力に興味無いかと思ってたのに…なんで今、そんなことを…?
もしかして…アマーリア様と結婚したくなった…とか………?
「そうすれば、ある程度の願いは自力で叶えられるようになる。例えば、好きな女性と結婚するとか」
「………」
やっぱり、そう…なん、だ。
自分と結ばれる訳ないとは分かっていても、目の前で他の女性と結ばれるのを見るのは辛い。
なんて浅ましいのかしら…。
私が俯いていると、フランツさんを退かし、アランが目の前に来ていた。
驚いて顔を上げると…
(うわぁ…)
蕩けそうな笑顔のアランと目が合う。
「仕方のない子だね…。俺を追って来たのかい?」
「…えっ?」
「危ないから安全なところで待っててほしかったのに…。でも…心配して追い掛けてきてくれて…しかもメイドの振りまでして俺に会いに来てくれたなんて…嬉しいよ」
「!?!?」
アランが私の頬に手を添える。
そして愛おしそうに…するりと撫でた。
………………ほゎぁぁぁ!?
たぶん…いや、確実に私の顔は真っ赤だ。
間抜けヅラな自覚はある!
「…………可愛い」
「はぅっ!」
もうダメ…。
「おっと」
「!」
アランがよろけた私の腰をぐっと支えてくれる。
わー!わー!
なんか…抱きしめられてるみたいで恥ずかしい!!
アランの右手は私の腰を抱きかかえ、左手は頬に添え…密着度が半端ない!!
あぁ…間近で見るアランの甘やかな笑顔にあてられ、なんだか…ぽーっと、してくる…。
「ちょっとお待ちなさい!」
アマーリア様の声にハッとする。
そうだ!他にも人がいるんだった!!
私は我に返り、アランの腕から…アラン、の、腕、か…ら………………んんっ!?抜けない!!
ドラゴンの私の力を持ってしても抜けない…だと………!?
力いっぱいもがくが、アランの腕はびくともしない。
…………勇者の潜在能力どんだけ!?
最早人間の粋を超えている!!
もしや…アランも幻獣の類か…!?
いや、んなバカな!
…………………お願いだから落ち着け!私!!
「……………何か?」
アランの声が硬質なものに戻る。
アマーリア様は一瞬怯むも、わなわなと震えながら…私を睨む。
えっ?また私!?
「あなた、平民でしょう!?勇者と結婚なんてできるわけないじゃない!それ相応の地位が無ければ許されない!お分かり!?」
「ハイ!!スミマセン!!」
………………ハッ!つい謝ってしまった!!
目の端でアランがじとりと私を見ているのが見える………が、私は振り向かない!振り向かないぞ!?
どうやっても振り向かないと悟ったのか、アランが溜め息をつく。
「先程言ったはずです。勇者として名を上げればそんなことは些事なこと。彼女を身分の高い家の養子にすればいいだけの話です。勇者の嫁になる前提ならどこの家も喜んで迎え入れるでしょう」
「嫁!?養子!?」
私は目も口も全開だ。
いや、そもそも種族が……って話はここでしちゃダメだよね、多分。
って…落ち着け、私。
そうだ………アランは私がドラゴンって分かってるんだから、本気な訳ないじゃない。
(やだ、私ったら!…………私のバカバカバカバカー!!)
そうか。これはここを脱出する演技なんだ。
アマーリア様は結婚するためにアランを引き止めてるんだから…他の女がいるって分かれば、それが揺るぎないって分かれば、アランを開放するしかないものね。
もーーーーーーーーっ!!
私ってば真に受けてバカみたい!
危ない危ない。恥ずかしい勘違いをするところだったわ。
(ちゃんと想い合ってる感じを出していけばいいのね!心得たわ!)
「それに彼女は聖なる導者です。勇者に嫁がないとしても、養子にも婚約者にも引く手数多でしょう。……………………まぁ、俺の嫁になるのは決定ですが」
「………………………」
「爵位と彼女、どちらかを取れと言われれば…私は迷わず彼女をとります」
「…………………………………」
「もう、彼女なしでは私は生きていけませんから…彼女を手に入れられるならなんでもしますよ」
「………………………………………………」
いや、やっぱムリ!
甘すぎるからぁ!!!!




