晩餐と思惑
部屋ではアランとアマーリア様の食事が始まったところだった。
私は部屋の隅に控える。
こうして見ると…美男美女でお似合いね…。
それに比べて私は…。
どんどん気持ちが沈んでいくのを感じる。
(ダメダメ、何考えてるの)
アランを助けるんでしょ!
しっかりしなさい!私!
背筋をぴんと伸ばし、前を向く。
アランの視線は料理にしか向いておらず、私のことも…目の前のアマーリア様のことすら、見ない。
ふたりの会話に耳を傾ける。
「このジュレ、美味しいでしょう?わたくし大好物ですの!」
「左様ですか」
「一晩掛けて煮詰めたスープで作っておりますのよ!」
「左様ですか」
「うちのシェフはもともと王都で有名なお店の一番弟子でしたの」
「左様ですか」
アラン…会話する気無いわね?
ていうかよく見たらアランの目が死んだ魚のようだわ…。
不憫!!
なんとかしてあげたいけど…メイドの私は今、空気だからなぁ。
追い出されても困るし、ここは申し訳ないが我慢してもらおう。
「トームのスープでございます」
フランツさんが給仕する。
そういえばご当主はどこかしら?
勇者が自分の屋敷で食事をとるって言ったら普通、同席するわよね?
「そういえば……………」
アランが初めてアマーリア様を見る。
絶世のイケメンと目が合ったからか、アマーリア様の頬がほんのりピンク色に染まる。
……………なんだろう、胸がチクッとする。
「ブランデル家の当主は王都で愛人と屋敷に住み、夫人は病気療養と言ってはいるがその実、駆け落ちで所在不明。跡継ぎは領地で女遊びに余念がない…という噂を聞いたな。そんなデタラメな話が流れるとは…人の噂とは怖いものですね」
「なっ………!」
「娘の噂も聞きましたが…聞きたいですか?」
「ーーーーーー!!」
ちょっとちょっとちょっと!!
センチメンタルになってる場合じゃなかった!!
アランてば突然なんてものぶっこんで来るのよ!
娘って…アマーリア様のことでしょ!?
しかもこの流れでいい話な訳ないじゃない!
「わたくしは…!」
さっきまでニコニコしていたアマーリアさまが眉を釣り上げ、顔を赤くしてプルプルと震えている。
「わたくしは、あの者たちのようにはなりませんわ!必ずや、確固たる地位の方と婚姻を結び、わたくしを放って出ていった…あの者たちを見返してやりますのよ!」
「………左様ですか」
「っ…!」
アマーリア様の顔が歪む。
アランは言外に「自分には関係ない」と言っているのだ。
「自分を巻き込んでくれるな」、と…。
確かにアマーリア様は可愛そうだけど、だからってアランを犠牲にしていいわけない。
薬なんか使って縛っていいわけないのだ。
アマーリア様は暫く顔を歪ませ、アランを睨んでいたが…突然表情をフッと解き、ゆっくりと口元に笑みを作る。
背筋がゾクッとした。
…なんだか不気味だ。目が全く笑っていないから、余計に。
「わたくしったら取り乱してしまって…失礼致しましたわ。噂は所詮、噂。社交界で流れる噂は根も葉もない噂ばかりですもの。事実とは異なることがほとんどですわ。勇者様もご存知でしょう?さぁ、お食事を続けましょう。今日のメインディッシュのお肉はとっても美味しいんですのよ」
「……………」
「カーロ肉のロースト、オランジェのソース添えです」
アマーリア様が給仕していたフランツさんにチラリと目配せをする。
「!」
もしかして、薬の用意をさせる合図…?
やっぱり薬を使ってアランを籠絡するつもりなんだろうか。
それって…幸せなんだろうか…。
フランツさんは心得たとばかりにしっかりと頷くと、私の横に戻ってくる。
そして顔は前を向いたまま、視線だけを私に向けてきた。
「あなたにも料理を出してもらいましょう。付いてきてください」
「っ!はい!」
小声で会話をすると、そっと部屋からふたりで出る。
そこにちょうどもう一品のメインディッシュ料理が届いた。
「私はお茶の用意をしなければなりません。いきなりですが、料理をお出しすることはできそうですか?」
「はい、大丈夫です」
「料理名は、『マニテのムニエル』です」
「『マニテのムニエル』ですね。かしこまりました」
「お出しするタイミングは…」
フランツさんが細かく指示をくれる。
なるほど。フランツさんはお茶の用意をするから席を外すのね。
さっき入ったばかりの私に給仕を頼んでまで。
そんなに…そのお茶が重要なのね?
…これはチャンスなのでは?
アランにお茶が危ないって教えられるんじゃない!?
問題はどうやって伝えるかね…。
「それでは、くれぐれもよろしくお願いします」
フランツさんが説明を終え、去っていく。
(……………あ!そうだ!)
私は急いで空間ポケットを開き、必要なものを取り出すのだった。
*********
「メインディッシュ二品目、マニテのムニエルでございます」
もうひとりのメイドが前の料理のお皿を下げた後、私が二品目のお皿をアランの前に出す。
「っ…!!」
アランが思わず声を上げそうになったのを感じる。
かろうじて堪えてくれたようだ。
そして振り返った顔は驚愕の表情を示していた。
それって…、それって………。
(声で…声だけで………私だって分かってくれたの?)
瞬間、今まで感じたことのない多幸感を感じ、うち震える。
他人に…女性に一切興味を示さないアランが、気付いてくれた。
アランにとって私は…少しは心を許す存在になってる?
(嬉しい…………………)
あぁ、ダメた。
この感情は、ダメだ。許されない。
アランを見つめたまま固まりそうになる体をなんとか動かし、私は何食わぬ顔で………小さな手紙をアランの膝の上に落とし、下がる。
アランはハッとした顔をしたが、すぐに何食わぬ顔をして前を向く。
アマーリア様は気付かない。
良かった…これで最悪な自体は避けられるはず…。
痛む胸から目を逸らし、前を向く。
大丈夫。私は、間違えない。
暗い内容になってしまいました…。
なので早めに次話を上げたいと思います!
次回はアランくんがたくさん喋ります!w
アラン「左様ですか…」




