埋められる外堀(但し本人に自覚はない)
「あ…あの…っ!すぐに着替えるので、外で待ってて下さいませんか…!?」
お願い!壁ドンから解放してぇ~!
恥ずかしさで涙目になりながらも、フランツさんの顔を見上げてお願いする。
「涙目の上目遣い…」
「え?」
「あぁ…本当に君は…!」
右手で顔を覆って天を仰ぐ。
え、『本当に私は』…何なの!?
「……………分かりました。では外にいるので声をかけて下さい。シェフを待たせているので早めにお願いしますね」
「ありがとうございます!」
フランツさんが部屋を出ていく。
とりあえず急いで着替えねば。
私は着ている服を空間魔法に入れ(着たままで入れることもできるのよ!)、与えられたお仕着せを着る。
うん、やっぱり可愛い!
姿見がないのが残念だわ。
(そうだ、鏡!!)
いい加減自分の見た目を把握したいわ。
私は部屋にあてがわれている小さな鏡を恐る恐る覗く。
……………………っ!!!
そんな…そんな………………
「お、お婆ちゃんみたい…!」
そう!そうなのだ!!
決して顔がお婆ちゃんみたいなのではない。
プラチナブロンドが…なんだか…前世のお婆ちゃんを彷彿とさせる。
いや、確かに顔は比較的整っている方かもしれないが…お婆ちゃんみたい!!
あぁ、泣きそうだわ…。
急がないといけないと分かっているのに体が固まってしまって動けない。
コンコンッ。
「あ、はい!」
「準備できましたか?」
「あ…着替えは終わりました!」
「では入りますよ」
ダメダメ、いつまでもこうしている訳にはいかないよね。
私は慌てて気持ちを立て直す。
入ってきたフランツさんは目を細めた。
「とても似合ってますよ」
「………………ありがとう、ございます」
無理してない!?無理してるんじゃないかな!?
お婆ちゃんがメイド服って…イタくない!?
でもそんなことを聞くわけにもいかないので言葉を飲み込む。
あぁ…可愛いメイド服なのに気分が上がらないわ…。
「髪は纏めなければいけませんね」
私の髪は腰につくぐらい長い。
確かにこの長さでの仕事は無理だ。
「あ、でも纏めるものが…」
「用意してきました。そこに座ってください」
「ふぇ!?」
いつの間に!?
そしてあれよあれよと椅子に誘導され、座らせれてしまった…。
え、フランツさんが纏めるってこと!?
「いやいやいやいや!そんな、自分で…」
「私がやった方が確実に早いです。ほら、時間もないのでじっとしていて下さい」
「………………ハイ」
なんかもう、抵抗する気力もないのでお願いすることにする。
フランツさんは櫛で丁寧に且つ素早く髪を梳かすと、左右から流れるように編み込み、後ろの下の方でひとつに纏め上げた。
は…早い!
「あとはこのヘッドドレスを付ければ…よし、完成です。しかし本当に珍しい髪色ですね。光に透かすとキラキラとして…とても美しい」
「………………ありがとうございます」
フランツさんは優しいね!
でも大丈夫。勘違いしたりなんてしないよ!
お婆ちゃん、自分を弁える!
「とても可愛いですよ。…誰にも見せたくないくらいに」
「はい?」
「…なんでもありません。では最後に少し化粧をして参りましょうか」
ちょいちょいフランツさんの言葉が小さくて聞き取れない。
…まぁ、なんでもないならいいか。
*********
「すみません、遅くなりました」
「フランツさん!いえ、こちらこそわざわざすみませんねぇ」
ゴツめのおじさんがフランツさんにペコペコしている。
…さすがにシェフにまで美しさは求めないか。
私は…クビになっちゃったりするのかな〜。
どうにかアランを助けるまではクビになるわけにはいかないんだけど…。
「かまいませんよ。で、相談とは?」
「今日のお客様はどういう方なんで?メインディッシュをどうしようかと悩んでおりまして…」
「そうですねぇ…」
フランツさんとシェフの会話が始まる。
私はぐるりと厨房を見渡す。
さすが辺境伯家の厨房!
全てピッカピカだわ!
壁も一面白いタイルで…染みひとつ無い。
薬…みたいなものは見当たらないわね。
いつ、どこで入れるのかしら。
私がキョロキョロしていると…ふと、いろんな人に見られていることに気付く。
皆一様にポカンと呆けた顔をしている。
気まずいのでとりあえず微笑むと…ババッとみんな目を逸らしてしまう。
うっ。傷付くわぁ…。
ふんっ。どうせお婆ちゃんですよーだ。
私が内心やさぐれていると、どうやらフランツさんたちの会話は終わったらしい。
にこやかに…甘やかに振り返る。
うっ。慣れないわぁ…。
「もうすぐお嬢様と勇者様のお食事が始まります。勉強のために一緒に行きましょう」
「っ!!はいっ!お願いします!」
これは願ってもない申し出!!
なんとかしてアランを助けるわよ!!
「あぁ、そうそう…」
フランツさんが厨房の方を振り返る。
私からはフランツさんの顔は見えないが…なんだろう、厨房の人たちの顔が…恐れ慄いている。
「この子は今日、入ってきた新人のイリザベスです。…手を出したらいけませんよ?」
「あ!新人のイリ…ザベスです!よろしくお願いします!」
『手を出したら』って…私の毛色が変わってるから、みんなからイジメられないように釘を刺してくれたのね…!
厨房の人たちがカクカクと首を縦に振っている。
いつの時代も毛色が変わってるヤツはイジメに合いやすいものね。
フランツさん、優しい…!
「あとは執事連中と、庭師と、御者と…抑えるところはたくさんあるな…」
「?」
フランツさんの声は相変わらず聞き取りにくい。
…………ま、いっか。
*******
「では、私が給仕するのを見ていて下さい。今日は見ているだけで大丈夫です」
「分かりました」
「この扉を開けたら我々は空気です。会話は禁物ですよ?お嬢様と勇者様の会話の邪魔をしてはいけません」
「分かりました」
扉の外でフランツさんに念を押される。
さぁ、やっとアランのところへ行かれる!
…そういえばアランには一度だけ人間の姿で会ってるけど…私だって分かるかしら?
流石に察するかしらね…。
…………もっと違う髪色たったら良かったのに。
アランはどう思うかしら?
やっぱり…お婆ちゃんみたいって思うかしら…。
顔立ちはそこまで悪くないと思うんだけど…。
少しでも、ほんの少しでも可愛いと思ってもらえないかしら…。
って…ダメダメ。何を考えているのかしら。
私は所詮ドラゴンなのに。
どうせ人間と添い遂げることはできないのに…。
ドラゴンの寿命は気が遠くなるほど長い。
人間と共には歩めない。
歩もうとしたとして…取り残されるのは私ひとり。
ドラゴンは一度誰かを愛したら、もう他の誰も愛することはできない。
孤独と悲しみを抱えて長い時を生きるのだ。
私は背筋を伸ばす。
うん、大丈夫。間違えないわ。
アランを助けること…それが目的。
「では、行きますよ」
フランツさんが扉を開ける。
アランは私が守ってみせるよ!
アランさんとよりもフランツさんとの方が進む恋模様。
書いといてこんなこと言うのもなんですが…なぜだ!w
次回からアランとも絡む予定です!
(“予定”ですからね!?)←保険。




