朝っぱらから なんやかんやありまして。
まどろみの中、暖かい何かに包まれているのを感じる。
すごく安心して…気持ちがいい。
もう少しそうしていたくて、暖かいそれにすり寄る。
すると何かに背中を優しく何度も…撫でられた。
……………撫でられた!?
バチリと目を覚ますと目の前には布の壁。
そこから伸びた腕が何度も私の背中を往復している。
ギギギッと上を見ると…甘く蕩けそうに細められた…深い空のような青と目が合う。
「おはよう、イリーネ。体はどうだい?」
「おおお…おは…おはようございます!?!?」
何これ!?いわゆる朝チュン!?朝チュンてやつなの!?
え、『体はどう』って…もしかしてそういうこと!?
越えちゃった!?一線、越えちゃった!?
私、初めてだったのに…覚えてないなんて!!
ていうか顔が尋常じゃないくらい熱い!!
アランが背中を撫でていた手で今度は頬を撫でながら、甘く艶っぽい声で囁いてくる。
「きのうは俺も(移転魔法は)初めてで勝手が分からなくて…イリーネにムリをさせてしまった」
「!?」
「でも君も(移動が早かったし)…良かったろ?」
「えっ!?なんっ…えぇ!?」
「また、体が万全になったら…(移転魔法)練習しような」
「ぴゃーーーーーーーっっっ!!!」
********
爆笑してひーひー言ってるアランを睨め付ける。
考えてみれば私、ドラゴンなんだからアランと朝チュンなんてあり得ないのよ!
完っ全に!遊ばれたわ…!!
乙女の純情を弄ぶなんて~~~!!!
「いや、ごめん…イリーネの反応が可愛いからつい調子に乗ってしまった」
「最低よ!」
ぷいっと顔を背ける。
アランが涙を拭っているのが目の端にみえた。
「でも、本当に体は大丈夫か?きのうは心配した」
「…大丈夫よ。ありがとう」
チラリとアランに視線を戻すと…安心したとでも言うように目が細められる。
んもぅ!ドキドキしちゃうからやめてよ!まだ怒ってるんだからね!!
「ぐぅ~」
「…」
「…」
「ぐぉ~くるるるる…」
アランのお腹がものすごく自己主張している。
ばつが悪そうに視線を外す。
その頬がほんのり赤い。
…くそう、可愛いじゃないか。
「………ごめん、きのうの夜から食べてなくて…」
「え、きのうから!?…ごめん、私のせいだね…」
そうか…倒れた私を看てたからごはん食べられなかったんだね…。
さっきの怒りもすぐに萎み、今度は申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「いや…それもあるが、イリーネの寝顔を見ていたらなんだか離れ難くなってしまって…」
「んな!?」
なんて爆弾を落としてくれるの!
もふもふなドラゴンはそんなに可愛いか。
異性として見られていないと分かっていてもそんなことを言われれば緊張しちゃうじゃない!
だって免疫無いんだもの!
「とりあえずごはんにするか。2人分宿の食堂で買ってくるから部屋で一緒に食べよう」
「あぁ…うん、そうよね…」
そっか…私は食堂で食べるわけにはいかないものね。
せっかく森の外に出たのに街の雰囲気を味わえないなんて残念だわ…。
あ、そういえば…少し試してみたいわね。
「じゃあちょっと行ってくる」
「行ってらっしゃい」
「…外に出るなよ?」
「うん?うん、分かった」
「誰か来ても開けちゃダメだぞ?」
「う、うん…」
「誰か入ってきたらとにかく大きな声を…」
「大丈夫だから!いってらっしゃい!」
「…行ってくる」
アランてあんなに過保護だったかしら…?
アランが行ってしまってから、さっき思い付いたことを試してみることにする。
それは…そう!人間になること!!
この魔力量があればいけるんじゃないかなぁ!?
ずっとその為に頑張ってきたんだもの!
今こそ試す時…!!
自分の中の魔力量を確認する。
…うん、だいぶ回復してるわね。
意識を集中する。
んー、普通に魔法を使うのとはちょっと違うかな?
いつもよりより一層感覚を研ぎ澄ませ、ドラゴンになろうとする力を抑え込む。
全身が光って…キタキタキターーーー!!!
ガチャッ
「イリーネ、パンとパスタの二種類買って来たがどっちが…い…い…」
「………」
「………」
しまった。
こんなに早く帰ってくるとは…。
というかどうすればそんなに早く行って帰って来れるんだ…。
アランももしかして移転魔法が使えるんじゃない?
ってそうじゃない…そうじゃなくて…。
パタン
開けたままの体勢だったアランは、そのままドアを閉める。
…すなわちアランはドアの外だ。
今のうちに…!!
もう一度集中し、ドラゴンに戻る。
戻るのは簡単だ。
ガチャッ
「…………あれ?」
「どうかした?」
…とりあえずしらばっくれてみる。
「いや…なんかさっき…」
「うん?」
「全裸の女の子がいたような…」
「……」
バッチリ見られてた…!!
そう…人間の姿になったはいいけど…私、裸だったのよ…!
そりゃそうよね…いつも洋服着てないんだから。
内心冷や汗ダラダラだが…ここはなんとしてでも嘘を通さねばならない。
…私の沽券に関わる。
「アラン…願望かしら?」
「っ?…願望!?」
…うん…ごめん。
「そうか…願望…そうなのか…」
え、納得しちゃうの!?
願望ならあり得るとか思っちゃうの!?
言っといてなんだけどそれはそれで引くんだけど…。
「確かに…プラチナブロンドで水色の瞳で…イリーネに似ていたな。そうか、なるほど。願望か…」
「ЭΨ§@#φ~!?」
ななな…ななななな…何それ何それ!?
私が人間で全裸なのが願望で納得なの!?!?
「…とりあえず朝ごはん食べるか」
えぇ!?
置いてけぼり感が半端ない!!
私はまだ動揺が全然収まらないよ!!
動揺しまくりな私は…アランの耳が真っ赤なのに全く気付かないのだった。
**********
「とりあえず仲間を探そうと思う。この街にいるか…もしくは王都に戻っているかのどちらかだろうから…今日は街で聞き込みだな」
「分かった!」
「イリーネは1日バッグの中にいることになるけど…」
「大丈夫よ。バッグの中で聞いてるわ」
「すまない」
食後の作戦会議。
やっと私の動揺と羞恥心が収まってきたわ…。
パーティーの誰かにアランが飛ばされたんだとしてもまだ確証は無いし、悪意があって飛ばされたんだとしても理由を確認しなければならないだろう。
危険は伴うが…王命で集められた面子なのだから明確な理由が無ければ避けては通れない。
いざとなれば私がアランを守るのよ!
私は密かに気を引き締めるのだった。
アランくんがイリーネを好きすぎる件。
自覚しちゃえよ!
てかホントはしてるだろう!?




