出発…?
私とアランは洞窟を出る。
もちろん私はアランの肩に乗って。
洞窟を出る時に魔力の壁を抜ける感覚が。
どうやら中から外へは出られるが、外からは中へは入れないようだ。
「これは…イリス殿の結界か?」
「眠る前に結界を張ってたのね…さすが母様だわ!」
私が鼻息荒く母様を自慢するとアランに笑われてしまった。
だって母様を自慢できるのが嬉しいんだもの!
そう言うと、尚一層笑われてしまった…。
「俺は親と仲が良くなかったからね…とても羨ましいよ。俺の両親は長男にしか興味が無かったから」
一通り笑った後、なんてことないように語った内容は私にとってとても衝撃的だった。
だって私は前世でも、もちろん今世でも親に愛されている。
それが普通で…当たり前なんだと思っていた。
「アラン…」
「そんな悲しそうにしないでくれ。君にそんなそんな顔をさせたかったわけじゃないんだ」
そんな顔って…どんな顔だ。
私はドラゴンで、表情筋の動きには限界があるはずだが。
「気付いたときからそうだったから、もう何とも思ってないんだ」
「………」
気付いたときからってことは…小さいときからってこと?
小さい子供が親から蔑ろにされるなんて…。
小さい頃のアランの心を想像するとそれだけで心臓がぎゅうっと痛いほど切なくなる。
前世で私には年の離れた可愛い弟がいたから余計だ。
「………」
「………」
私はまたしっぽでアランの頭を撫でる。
撫でる。
撫でる。
たくさん撫でる。
ものすごく撫でる。
「あの…イリーネ?」
「………」
「ははっ、気を遣わせてしまったな」
「…違うわ。私が…小さい頃のアランを撫でてあげたかったなって思っただけ。今までの分を今、撫でてるの」
「!」
アランが目を丸くする。
そして両手で顔を覆い、「あー」とか「うー」とか唸っている。
うん…どうしたどうした?
あ、大の大人が撫でられて恥ずかしかった?
このへんで止めておくか…。
ぐちゃぐちゃになったアランの頭からそっとしっぽを退かす。
ん…?耳がほんのり赤い。
そんなに恥ずかしかったのか…それは面目ない。
今も頭、鳥の巣状態だしね。
そんなことを考えてボーッとしていたのだが、アランの咳払いで我に帰る。
「しかし本当に…イリーネは白銀に…プラチナブロンドになったんだな」
「えぇ…吃驚ね。母様とは似てないって思ってたけど…こういう仕組みだったのね」
「でも…ええと…その…」
「?」
アランがなんだかモゴモゴしている…珍しい。
少しの間何かを思案した後、チラリと視線を寄越して聞いてくる。
「その…父親とは似てないのか?」
「あぁ…なるほど」
なるほど。
確かに私は母様には似ていなかった。
でも父親とは?という疑問を抱くのは当たり前だ。
「あ…いや、でも言いたくないんならいいんだ!すまん、余計なことを聞いて…」
「あぁ。いえ、いいのよ。父様とは会ったことがないの。でも似てないみたい」
「会ったことがない?まさか…もう、死…」
「母様が愛想尽かして逃げたらしいわ」
「あ、そう」
父様について母様は語りたがらなかったけど、大体の事情は聞いている。
まぁアランに詳しく話すつもりは無いけどね…。
そこでふとアランが私の瞳をまじまじと覗き込んできた。
え…な、なに!?顔が…顔が近いよ!
「イリーネ…瞳の色が…」
「え?」
瞳の色って…安定の水色でしょう?
「紫が混じってる」
「え、紫?」
「いや、混ざってるというよりは…見る角度によって紫が出てくるって感じか」
「紫………」
「…キレイな色だな」
ふっと微笑みかけてくる。
その微笑みはとても甘くて…。
そんな…蕩けるような目で………見ないで!!
顔を近付けないでぇ…っ!!
「~~~~っ!!
いやーーーーーーーーーーーーっっっ!!!!!」
「えぇっ!?イリーネ!?」
逃げるが勝ちだぁぁぁぁ~~~!!!!!!
***********
「ぜぇっ…ぜぇっ…ぜぇっ…ぜぇっ…」
「ぜぇっ…ぜえっ……お…おち……ぜぇっ…落ち着いた…か…?」
ハイ、確保されましたー!
さっすが勇者!!
ダッシュの早さがハンパなーい!!
私がビュンッと飛んだあとをズバーッと追いかけてきてガッバーって飛び付き…ハイ、確保です!!!
全力で飛んだおかげでテンションが!!テンションがオカシイよ!!
「と…とに…かく、日が…暮れる…前に…、街に…着きた…い」
「っ!…そうね、行き…行きま…しょう!」
そうよ…いよいよ旅が始まるのね!
もうなんだか体力がもつかどうかが疑問だけども!
ずっと洞窟で暮らしてたから…広い世界を思うと不安と期待で胸がドキドキするー!
*********
そんな壮大な旅を夢見ていた頃がありました。
「…森!どこまでも森!!」
そうだった…!棲みかの洞窟は山の奥も奥、街に出るのに歩いて行けば相当時間が掛かるんだったわ…!
「これは今日中に森を出るのはムリだな…」
そういえばアランが森に来た方法は…。
「ねぇ、アラン…パーティーに移転魔法を使える人はいる?」
「移転魔法?あれは相当な技術と魔力が必要だから…使えるのは魔道師のマルクだけだな。恐らくこの国にマルク以外で使える人間は2、3人ってとこだろうな」
「マルク様は…人を飛ばすこともできる?」
「いや、飛ばすのはムリらしい。一緒に飛ぶことなら出来ていたが…一回にひとりしか運べないな。しかもかなり魔力を使うから1日に一回しか出来ないって言っていた」
「そう…」
おかしい。
一番怪しいのはもちろんマルク様だけど、アランの言う通りならマルク様にアランを飛ばすことは無理だ。
母様が言うには移転魔法が使われたのは一回きり…しかもひとりだけだ。
アランだけを飛ばすことができないなら今回アランを飛ばしたのはマルク様ではない。
ただ、マルク様が本当のことを言っているとは限らないのだが…そうなると嘘を言っていたということになり、飛ばした理由がかなり後ろ暗そうだ。
では第三者が飛ばしたという線はどうだろう?
あり得ない話ではないが…魔物との戦いを見届けた後で瀕死の勇者をわざわざ移転魔法で飛ばす意味が分からない。
「うん、とりあえず…ここは飛んでみましょう!」
「…え?」
「私、母様から魔力を大量にもらったから…移転魔法、使えると思うの!」
「待て待て待て待て!!『思うの!』ってことは…やったこと無いのか!?」
「ないわ!でも誰でも初めてってあるのは当たり前でしょう?何事も挑戦よ!」
「リスクが大きい!!それにあれは行ったことがあるところじゃないと行かれないだろう!?街に行ったことはあるのか?」
「大丈夫!あるわ!母様のバッグに潜んで…一度だけだけど!」
「信用できない…!!」
「体がバラバラになったりはしないから大丈夫よ!ちゃんと私につかまっててね。移転中に私と離れるのは危ないわ」
「~~~っ!」
「きゃぁっ!」
やめ…やめて!心臓に悪い!!
アランがやけくそ感いっぱいに…ガバッと私に抱きついてきたのだ!
離れるなとは言ったけど!!
「やっぱ離れて!!」
「なんでだよ!!」
私の心臓のために決まってるでしょう!!!!
なんか…わちゃわちゃした…だけ…?




