別れ
「これは…母様の魔力?」
色が白銀になっただけではなく…力が…魔力が漲っている。
ということは、先程の宝石はきっと母様の魔力の結晶だ。
恐らく母様の色が白銀から茶色へと変化したのも魔力が低下したせいだろう。
あぁ…だから…
「…だから空間ポケットのものを整理してたのね」
「さすがイリィちゃんね」
「…どういうことだ?」
「空間ポケットの大きさは魔力の大きさに比例するの。だから魔力を失うと空間ポケットが小さくなって、中のものが押し出されちゃうのよ」
「…なるほど。空間には制限があるのだな」
ちなみに空間ポケットの保有者が死ぬと中身は全部押し出される。
死んだら物に埋もれるのか…。
死ぬ気は無いけど…出来るだけ空間ポケットの物は厳選して少なくしよ…。
「イリィちゃん…ごめんね…私…」
「か…母様?」
「イリス殿…?」
母様が…ゆっくりと目を閉じていく。
「………母様!!そんな…まさか…イヤ!母様…!!」
「イリス殿!?」
そんな…!
この世界では生き物は少なからず魔力を保有している。
それを利用できる量と技術を持っている者が魔法を使えるのだが、魔法を使えない者にもほんのちょっとは必ず魔力がある。
それは生命を維持するのに不可欠で、無くなれば…死を意味する。
「…っ!!」
イヤ…!
私が生きて帰ってきても…母様がいないんじゃ意味がない。
16年間ずっと…ずっとふたりで生きてきた。
楽しいときは一緒に笑ってくれた。
私が悲しいときには慰めてくれた。
美味しいものを一緒に食べて、一緒に喜んで…不味いものも食べて…一緒に大笑いした。
魔法がうまくいけば自分のことのように…本人の私より喜んでくれて。
私、中身は子供じゃないのに…褒められてものすごく嬉しかった。
いつだって隣には母様がいてくれて。
いつだって私のことを見守り続けてくれて。
なのに…
まただ…前世に引き続き、また私は親に感謝を伝えられずに終わってしまう。
あんなに後悔したのに。
あんなに悲しかったのに。
どんなに言いたくたってもう言えないんだって…あれほど悔しい思いをしたのに。
胸が苦しくて苦しくて息も浅くなる。
「母様…母様ぁ…!!私…私………!!」
「…はっ!ごめん!寝てたわ!!」
「………………………うそでしょう!?!?ちょっと!私のセンチメンタルな気持ちを返してよ!!!」
「イリス殿………」
「ごめんね…魔力が少なくて起きてる状態を維持していられないのよ…」
そうか…ギリギリまで魔力を私にくれたのね…。
でも母様!紛らわしいわ!!
…ううん、そうじゃないわ……そうじゃない。
「母様、ずっとずっと…見守ってくれてありがとう。育ててくれてありがとう。」
「…イリィちゃん?」
「一緒に笑ってくれて、一緒に泣いてくれて、一緒にごはんを食べてくれてありがとう」
「………イリィちゃん?」
「私…母様が大好きよ。母様の子で本当に幸せ」
「イリィちゃん…」
「いつでも言えるからってずっと言わなかったから…。いつでもがいつまでも続くとは限らないのに。そんなこと分かってたのに…。私、母様に甘えてずっと言わなかったから。私…」
「…いいのよ。その『いつでも』を…次に会うときまで維持してくれれば」
「!」
「これが最後ではないのだから…ね?」
「うん…うん…!」
あぁ…泣きそうだ。
ドラゴンだから涙は出ないのだけど。
なんだか目頭が熱い気がする。
アランはさっきから私たちのことを目を細めて見守っている。
ねぇ…アラン。
私たちは最高の親子でしょう?
そんな意味を籠めてアランに微笑む。
私の分かりづらい微笑みが通じたらしく、アランがより一層笑みを深めて私を見つめ返す。
「本当に…いい親子だな」
ほら、伝わった。
短期間ではあるが私たちには…小さくても、絆のようなものが確かに生まれている。
私の心は暖かくて仕方がない。
「イリィちゃん…。私、魔力を回復させるために眠らなきゃいけないの」
「そう…そうよね。じゃあ母様が起きたら出発するわ。アランもそれでいい?」
「もちろんだ。イリス殿にはきちんと挨拶をしてから行かねば」
「うーん…それだと…10年くらい先になっちゃうかしら…」
「「………10年!?」」
え、魔力ってそんなに回復に時間かからなくない!?
底を尽きるまで使っても、せいぜい一晩眠れば回復すると思うんだけど…。
「うん。私、魔力ほぼあげちゃったし…聖なる導者になって魔力の器が大きくなってたから…回復するのにすごく時間がかかるの」
なるほど。
母様の魔力の器の大きさは聖なる導者になることによって押し広げられてたのね。
それで普通の空っぽ状態よりもかなり魔力が少ないと…。
でも…。
アランが私の疑問を代わりに聞いてくれる。
「でも一杯にならなくても起きて…普通の生活はしていられるんじゃないか?」
そうなのだ。
魔力は満杯じゃなくても生活できる。
確かに極限まで少なければ眠って回復するしかないが、ある程度あれば生活はできるはず。
「でもね…聖なる導者で広がった器を縮めないといけないから…体が言うことを聞かないのよ…」
「なるほど…体の中身が変化しているのか…」
なるほど…。
母様の器が一生懸命小さく…今の魔力保有の限界量に見合う大きさに縮小しているのね。
「だから…見送りはできないわ。イリィちゃん…必ず…必ず生きて帰ってきてね…」
母様の目がもう開けていられないという風に、少しずつ閉じていく。
「…!必ず!必ず帰ってくるわ!!だから…待っててね!!」
「必ずや無事にイリーネを帰します!」
「「いってきます!!」」
私とアランが急いで言うと、母様はふっと目を細めて…ゆっくりと瞼を閉じた。
静寂が私とアランを包む。
必ず…必ず帰って来る!母様の元へ!!
眠る母様を見つめ、決意を新たに…いざ、出発…!!
読んでくださってありがとうございます!
本当に本当に嬉しいのですよ!!




