side イリス 2
「魔王まで案内してほしい」
洞窟に突然やってきたその勇者はとてつもなく横柄な男で、第一声がこれだった。
赤い髪に金色の瞳。
見るからに自信に溢れており、仁王立ちで両手を腰にあてて満面の笑みで…言葉では頼んではいるが「さぁ、来るんだ!」と命令されている気分だ。
パーティーの他のメンバーは彼の行動に狼狽している。
それはそうだ。
私は今、人間の形をとってはいるが溢れ出る殺気と魔力を垂れ流している。
勇者や勇者のパーティーメンバーともなれば容易く感じることが出来ているだろう。
ひょっとしたら何の訓練も受けていない人間でも何かしら…悪寒のようなものを感じるかもしれない。
後ろの戦士であろう金髪の女は「おいバカ!やめろ!」と必死に叫び、神官の緑の髪の男は小刻みに震え、ローブをすっぽりと被っている魔導師の男は「あの…ちょっと…待って…お願いだから…」と涙声で懇願し…カオス状態である。
そして全員に言えることは、顔色がすこぶる悪いということだ。
…気の毒に。
今は亡きお母様から聞いていたから、すぐにこの男が勇者だと分かった。
いつか魔王が生まれたとき、勇者がここを訪れておまえも一緒に行くことになると言われていたのだ。
魔王は確かに邪魔だ。魔王の手によってあの戦うことしか頭にない魔物に棲みかを奪われるのは耐え難いからだ。
だがなぜ人間と手を組まねばならない?
私は小さい頃に人間に捕らえられ、喰われそうになったことがある。
その時はお母様が助けてくれて事なきを得たが…人間は野蛮だ。
自分達のことしか考えていないのだから。
「イヤよ。人間はキライよ」
私はつーんとそっぽを向いた。
ふん、いい気味だわ。
この自信家の男は憤慨するだろうか?
狼狽するだろうか?
それとも…
「ははははは!イヤか!まさか断られるとは思ってなかったなぁ!」
…笑った。
え、この男は…もしかしてバカなの?
「お前が礼を欠いたせいだ!」
後ろにいた女戦士にスパーン!と叩かれている。
「先ほどはこのバカが失礼した。彼はこんなんだが一応勇者のテオドール。私は戦士のヴィルマだ」
「一応ってなんだ!…うっ」
「神託を受け、貴殿をパーティーに聖なる導者として入ってもらいたく参上した」
この男の態度はいつものことなのだろう。
途中の勇者の突っ込みを華麗にスルーし、肘鉄を喰らわせながらヴィルマという女戦士が丁寧に説明する。
…見事な肘鉄だ。
分かってはいるのだ。
私の力がどんなに強大でも、魔王は聖剣でしか倒せないということは。
でもいいように利用されるのはごめんだ。
そんな思いが私を素直にさせてくれない。
「貴殿も魔物が増えると困るだろう?ここは協力してくれないか?」
「………」
女戦士の言うことは尤もだ。
私ひとりでどうこうできる問題ではないし、私こそ彼らを利用して魔王を倒すべきなのだ。
いや、分かっている。そもそもこれは利用ではない。同盟なのだ。
どうしても人間と手を組みたくない私が穿った見方で捉えているだけなのだ。
「…お前たちと手を組むつもりはないわ。これは一時限りの同盟よ。魔王討伐が終われば私たちは他人。それを覚えておいて頂戴」
「…十分だ。恩に着る」
「ちょっと待て!!」
…空気を読まないな、ホントにこいつは…。
「パーティーに入るならお前も仲間だ!俺はそんな乾いた関係は認めないぞ!!」
「お前は本当に黙っててくれ!!」
女戦士が泣きそうだ。
…うん、なんかすごく同情心が…って、何絆されてんの。ダメダメ。
「ともかく、お前のことは仲間だと見なすからな!」
「…どうぞご勝手に。私は見なさないわ」
「って、おい!」
「ホントにお前、黙ってくれ!!」
…カオスだ。




