先見の未来
そうして、“先見の魔女”の名を持つ彼女は自身が考える“未来”を語る。
「国王は逃げるだろうね。けど、王都まで逃げるには距離がある。それでもラカヤンからほど近い都市に行ったところでルラン王国に対抗しうる勢力が集まるとは見込めない。それどころか戦の事を結局最後まで黙っていた国王に対して国民達が反旗を翻さないとも言い切れない。リディーラン王国の国王様は正に四面楚歌状態になるだろうね」
自業自得だ、と。笑うクラリナにハインも頷く。
「それで? それなら王様はどうする?」
「ここに来る」
「“ここ”って、マンリーニャかい?」
「そうマンリーニャに」
「へぇ。そりゃまた何で?」
「だってマンリーニャには聖女様が居る。そしてシルティとアル君も。ついでに王子様とバルラトナ公爵家の次男もね。そしてたぶん、今マンリーニャに居る騎士団の人達にはシルティ達を連れて来いって命令の他にもう一つ、別の命令が出されてるはず」
「別の命令?」
「浄化された後のマンリーニャを騎士団の管轄に置き、聖女様ご一行の身柄確保に努めよ。とかじゃないかな? たぶん。だから王様はマンリーニャに来る。そうしてここに残していた騎士たちと、シルティ達を戦力としてまたルラン王国に挑もうとするんじゃないかな。まぁ、もしかしたらシルティ達を盾にルラン王国に味方している双翼の剣を自分の方に寝返らせようとするかもね」
そう楽しそうに語ったクラリナが堪えきれないといった風にとうとう声を立てて笑い出した。
「ふふふふ! あはははは!! マンリーニャにうち等が居る事を知らない可哀想な人達!! そうして彼等は二度目の絶望を体験するんだよ!! そこからは彼等に希望など一切ない! ただひたすら続く絶望が彼等を追い詰める! 楽しみだね! 楽しみだよ! やっと、シルティを傷付けた彼等に復讐出来る!! どれだけ待った事か!」
心底楽しそうに、そして嬉しそうにクラリナは笑う。
そんなクラリナにハインも笑みを深めた。
「全く、俺の仲間達はいい性格してるよね、本当。“終わり”が近くなればなる程皆生き生きしてくるんだから」
「それってハイン君の事も含まれてるよね、勿論」
「当然」
笑い合う二人に野営地に居る仲間達が何とも言えない視線を送っていた事を当人達は知らない。
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ーーー
ー
「うわぁ、楽しそうっスねクラさん達……」
丘の上で楽しそうに笑い合うクラリナとハインを見ながらレインは逆に引き攣った笑みを溢す。
そうしてその笑みのまま、自身の正面にある魔法陣に浮かび上がる人へと報告した。
「てな具合でこっちは問題ないっスよ、マスター」
『みたいだね、安心したよ』
そんなレインの報告にこちらも苦笑で答えたのは、傭兵ギルド〝双翼の剣”のギルドマスターであるアイト・ブルランテその人であった。
『僕達の方も明日にはマンリーニャに着くよ』
「そうなんスね! あ、けどゆっくりは出来ないんスよね?」
『そうだね。ルラン王国の兵士達の制圧を任されてる人達は三日後にはラカヤンに向けて発つからね』
「結構大変な日程っスよね」
『僕は残って止まり木の盾で待機しとくけど、エレインさんと一緒に行く人達は大変だね。僕達もラカヤンから上陸出来れば良かったんだけどね……』
「流石に怪しまれるっスよねぇ、それじゃあ」
『うん。だからちょっと大変だけど一度マンリーニャの方から上陸して、ラカヤンに向かう事に決めたんだよ。行く人達にはクラリナさんに不可視の結界も張って貰いたいしね』
「不可視の結界ならマスターも張れなかったっスか? てか、そっちにも他に張れる人居るっスよね?」
『まぁ、そうなんだけどね。やっぱりクラリナさんの結界の方が安定するし、なんせ規模が規模だからさ。得意な人にお願いした方が安心なんだよね』
「そうは言ってもクラさん“指揮官”なんスけどね……」
『僕としては“魔法使い”でも良かったんだけどね。まぁ、剣も魔法も指揮も出来る何て双翼の剣じゃ対して珍しくもないしね』
「いや、クラさん剣はからっきしっスよ」
『あれ、そうだったっけ?』
「俺一回、クラさんの剣の稽古に付き合わされたんスけど、クラさんの手からすっぽ抜けた剣で殺されかけったっス……」
『それはそれは……』
その時の事を思い出したのか、青い顔で身震いするレインにアイトは居た堪れない気持ちになる。
得意分野があれば、勿論苦手な事もある訳で……
アイトはクラリナにだけは剣を持たせない様にしようと心に決めたのだった。
「それじゃあ、また明日会いましょう、マスター」
『うん。まぁ、そう言っても僕は直ぐに止まり木の盾に戻っちゃうんだけどね……君ももうすぐ大詰めだか気を抜かないようにしてね』
「心得てるっスよ。てか、どっちかって言うと今からが本番っスからね!」
『そうだね。これからが本番だ。必ず成功させようね』
「はいっス!!」
元気に頷いたレインにアイトが満足気に笑って連絡は切られた。
「さぁて、いよいよっスね」
どこか弾んでいる声でそう言ったレインの顔は、先程彼が“楽しそう”と形容した丘の上の二人と同じ表情をしていた。




