彼等の定期報告
「もぉー!! まだ着かないの?」
アカリがそう声をあげたのはフィミナンを発って二週間程経った頃であった。
「次の浄化地であるフユネまでは後一週間ほどです。我慢して下さい」
「もうずっとちゃんとしたお布団で寝れてないし、移動も夜でお肌も荒れ放題なのよ!! 立ち寄る村だって寂れた所ばかりじゃない! いつまでこんな事続けるのよ!?」
「旅が終わるまでですよ」
「はぁ!? 何よそれ!? 旅が終わるまで私にこんな生活続けさせる気!? 信じられない!!」
「……」
「ま、まぁまぁアカリ、旅も後少しじゃないか」
「ユト……」
「後二カ所の浄化が終われば、君はこの国の救世主になるんだよ。そしたら今度こそ皆君に感謝してくれるさ。だからもう少し我慢しよう? ね?」
「ユトがそう言うなら……」
アカリの発言に笑顔のままこめかみに青筋を浮かべたシルティーナに代わりユトがそう慰めれば途端に大人しくなる。
そんなアカリの態度にシルティーナが拳を握り締めた。
「殴るなよ? 頼むから、殴るなよ?」
「あはは。いやだなぁアル。殴る訳ないじゃない」
「そうだよな。うん、そうだよな? なら、その拳下してくれないか?」
二人だけの世界に入ったアカリとユトの傍でアルハルトが必死に拳を振り上げるシルティーナを止める姿があった。
『私達の方はこんな具合よ』
「あはははは!! シルティ達大変そうだね!! お疲れ様」
映像魔法に映し出された映像を通して溜息までもがこちらに伝わってきそうで、クラリナは笑うと同時にシルティーナにねぎらいの言葉をかけた。
『まったく、他人事だと思って……』
「ごめんごめん。けど何だかんだ順調そうでよかったよ。これなら丁度ルラン王国との戦が終わる頃に浄化も終わるかな」
『そうね。戦もいよいよ始まりそうだし、これからは更に気を付けて移動しないといけなくなるわね』
「あ、それなんだけどね、最近マンリーニャの周りを騎士団の人達がうろつき始めたんだよね。たぶんアル君とシルティを見つけ次第王様の所に連れて行くっていう命令を遂行する為に待ち伏せしてるんだと思うよ」
『へぇ。そっちに着くのは戦いも終盤にさしかかった頃なのにね』
「まぁ、彼等は念のためなんじゃない? 本命はシルティ達が今向かっているフユネの方だと思うよ」
『あーそうだよね。どうしよっかなぁ……』
「うちが行こうか? 不可視の結界張ってあげるよ?」
『うーん、でもそれってこっちからは向こうが見えるんでしょ? 私達はいいけど、聖女様と王子様がうるさくなりそうで……』
「あー、そっか。面倒だね」
二人揃って何か良い手は無いかと考えていると、一人の男が声をかけて来た。
「あの、私達が行きましょうか?」
黒髪黒目の眼鏡をかけたその人物は二週間程前にクラリナと共にマンリーニャの近くに敷いている双翼の剣の野営地に来た男である。
『あなたは?』
「初めまして、シルティーナ様。私は特務遊撃隊の軍師を務めております、キハトと申します」
『あぁ、ファーラの隊の……初めまして、シルティーナです。それで、あの、あなたが来るというのは?』
「私達、特務遊撃隊は騎士団長直属の部隊というのと、その並外れた実力から、所属している隊員は騎士団分隊長と同等の発言力を持っています。つまり、一般兵くらいになら私達が命令する事が出来るのです」
「成る程。つまり君達がシルティ達がフユネに居る兵と鉢合わせする前にその人達をよそにやってくれるってわけか」
「はい」
『それはすごく良い案ですけど、でもマンリーニャからフユネまでだと私達の方が確実に早く着きますよ?』
「そこはほら、うちのマイラがいるじゃないか」
『あぁ、成る程』
「では、私と他二人で向かいますので」
『分りました』
「一応映像魔法用の魔法陣渡しとくね。ついでだからキハト君達そのままシルティ達と合流してマンリーニャまで一緒に来たら? その方が道中他の騎士の人達にもし見つかった時とかも融通ききそうだし」
『確かに。お願い出来ますか? キハトさん』
「えぇ、勿論です。では、フユネに着いたら連絡しますね」
『分りました。お願いします』
「んじゃ、もう少しだ、頑張りなねシルティ」
『そっちもね』
ひらひらと振られた手と笑顔を最後に映像魔法が切れる。
それを確認したクラリナが後ろを振り返りそこに立っているキハトへと目を向けた。
「一緒に行くのはやっぱりルナード君とサーシュラ君?」
「はい。彼等と組むのが一番やりやすいですので。構いませんか?」
「大丈夫だよ。魔法陣描かないとだから、明日出発になるけどいいかな?」
「分りました。二人には私から伝えておきます」
「じゃあハイン君にはうちから話しとくね。結構重要な役回りだから頼んだよ」
「はい」
しっかりと頷いて背を向けたキハトを笑って見送ったクラリナがグッと伸びをして立ち上がる。
双翼の剣が敷いている野営地を一望できる丘の上にいたクラリナはそこから見える光景に笑みを深めた。
「全ては計画通り。後は国同士の戦がルラン王国の勝利で終わって、シルティ達の浄化の旅もマンリーニャを最後に終われば最後の仕上げをするだけだ」
数か月前、クラリナとレインがこの地に上陸した時には、二人の他には共に来た数人の仲間達しか居なかった。
それが今やリディーラン王国に居る時にシルティーナが作っておいた“味方”の持つ勢力のほぼ全てと、各地に散って物資調達を行っていた特務遊撃隊の隊員の内の約半数近くが集まり結構な大所帯へとなっている。
「こんなに大勢の移動にも気付かないとは、この国の人達は無能ばかりだねぇ」
笑ったクラリナがパチンと指を鳴らせば、その音に呼応する様に野営地全体を覆う何かが僅かに光った。
「ま、気付かせない様に先見の魔女が色々と手を回したんだから当然と言えば当然の結果か」
問題なく野営地全体に発動されている“不可視の結界”に満足そうに笑ったクラリナが丘を登ってこちらにやって来る人影に気付き大きく手を振った。
「おーい!! ハイン君、ちょうどいいところに来てくれた!」
「いいところに来たって……何か嫌な予感するからこのまま何も無かった事にして戻っていい?」
笑顔で手を振ってくるクラリナに苦笑しながら返したのは銀の短髪に臙脂色の瞳を持った人物。
リディーラン王国騎士団副団長にして特務遊撃隊の副隊長を担うハイン・ミルベリアであった。
「冗談だって!! 戻っちゃダメだよ。ただの報告だからさ、聞いてよ」
慌てて引き留めるクラリナに声を立てて笑ったハインがそのまま話を促す。
「キハト君とルナード君、後サーシュラ君の三人が明日からちょっと別件で抜けるよ」
「ああ、あの三人ね。了解。何か頼んだの?」
「頼んだって言うよりは自ら引き受けてくれたのよ。シルティ達の次の目的地に居るであろう騎士団の人達を他所にやって貰うの。ついでにそのままシルティ達と合流して一緒にマンリーニャまで来て貰うんだ」
「成る程。あの三人ならちゃんとやってくれるだろうし安心だな」
「うん」
「他の人から連絡は?」
「ルラン王国の軍と一緒に行動しているカミーナ君から連絡があったよ。三日後に上陸だって」
クラリナはつい昨日あった連絡の事を思い出す。
世間から“知略の将”と呼ばれる青年、カミーナ・ルーランスは茶髪の猫っ毛から除く金の瞳に楽しそうな色を宿してそう報告して来た。
「三日後か……ほぼ同時に開戦だろうね。なんせリディーラン王国はこの戦自体したくないんだから。国民達にバレる前に終わらせてしまいたいってのが本音だろうね。まぁ、残念ながらバレるのも時間の問題だろうけど」
「そりゃあこの国の第二の港町ラカヤンが戦場なんだから隠し通せる訳がないよ。そして、然程時間をかけずに終わるのは確かね。カミーナ君が張り切ってたし」
「彼は二つ名の割に戦うのが好きだしね」
「ふふふ。そこでリディーラン王国は最初の絶望を体験する。自分達より弱い筈の敵に圧倒的な力の差で負けるんだからね」
「その後はどうなると読んでるの?」
ハインの問いにクラリナが笑った。




