ギルド始動
「さてさて皆様お静かに願いますわ」
ルラン王国王都にある傭兵ギルド"双翼の剣"の支部。
その1階大広間には今、所属するギルドメンバーの大半が揃っていた。
大広間の正面に即席で作られた舞台に立って声を発したのは亜麻色の髪と栗色の瞳を持った美しい女性、"微笑みの銃姫"の二つ名を持つ"エレイン・ヒューナー"その人である。
対して張り上げてもいない声に、それでも静かになった面々に満足そうに頷いて後ろへと振り返れば、一人の男が壇上へ上がる。
茶髪の猫っ毛とその下から覗く金の瞳。少し猫背気味の男の名は"カミーナ・ルーランス"。
"知略の将"の二つ名を持つ人物だ。
「昨日、ジン様から報せがあった。歩兵隊が五、騎馬隊が三、遊撃隊が二、魔法特化部隊が二、中央軍警護部隊が一、補給部隊が二……計十五部隊の内、中央軍警護部隊と騎馬隊、補給部隊以外の九部隊がオレ等の配属先」
「メンバーは以前から通達している通りになってますわ。それぞれの班の"指揮官"はルラン王国からお迎えが来るまでにもう一度メンバー同士で行動の確認を行ってくださいね」
「それ以外、エレインと一緒に行って準備よろしく」
「大丈夫だとは思いますが、一応今回の"計画"のこれからの流れを確認いたしますわね。先ず、ジン様と共にルラン王国に助力し、リディーラン王国へと赴く方々は挙手を」
エレインの言葉に半分程が手を挙げた。
「はい、よろしいですわ。今手を挙げられた方々は先程も言いましたが、ジン様と共にルラン王国の軍と合流し、リディーラン王国を攻め落とす為に戦って貰いますわ。九つの部隊にそれぞれ四、五名ずつに分けられます。配属先は後程お教えいたしますわ。メンバーは此方の希望が通っているので、各部隊に分かれた後は"指揮官"の方の指示に従って"作戦"の最終段階に備えてくださいませ」
「因みにオレの班、第二遊撃部隊。何かあったら、オレに報告ね」
ヒラヒラと小さく手を挙げて言ったカミーナに先程挙手した者達が頷く。
「そして、残りの方々は私やマスターと共に"時"が来るまで"止まり木の盾"にて待機ですわ」
「シルティ嬢達が聖女に穢れた土地の浄化をさせ終わり、ルラン王国がリディーラン王国を制圧した時が頃合いです」
錆色の髪と同色の瞳を持った眼鏡をかけた青年が一礼の後舞台に上がりそう告げた。
「イルーサ様。昨日遅くの到着だったので今日は休んでいていいと申しましたのに」
「マスターはまだ休んでますが、私は三時間も寝られれば大丈夫ですので」
「無理はしないでくださいね」
「心配には及びませんよ。さて、では"計画"の経過報告を致しましょうか」
バサリ、とイルーサが手に持っていた紙の束が音を立てた。
「シルティ嬢とアルハルト達はユト嬢と合流し、今三つ目の浄化目的地へと向かっています。浄化が必要な土地は後3ヶ所で、何もなく順調に行けば4ヶ月足らずで浄化の旅は終わる様ですね。最終目的地は当初の計画通り"マンリーニャ"ですので、そこでクラリナ嬢達と合流し、最後の時に備えてもらう予定です」
紙の束に目を落としたイルーサが読み上げる内容に皆が一様に頷きながら耳を傾ける。
読み上げ終わり床に落とされた紙が、その側からチリチリと小さな炎に焼かれていっているのも魔法の一種なのだろう。
「次は魔物の被害拡大防止の為にリディーラン王国に赴いているクラリナ嬢とレインについてですね。予定通り"マンリーニャ"に居た魔物の一掃は先に終わらせ、クラリナ嬢の使い魔であるマイラ様の張った結界により穢れの進行と魔物の出現は抑えられています。他の町や村にもクラリナ嬢が結界を張って回っているので、今穢れている土地以外での魔物の出現は先ずないと考えていいでしょう。レインは"マンリーニャ"の近くに待機して、リディーラン王国に居る"味方"が集まるのを待っている状態です」
チリチリと、最後の紙が燃え尽きたのを見届けて、イルーサは一同を見渡した。
「ここまでは至って順調に進んでいます。……が、重要なのはこれから先です。今後の"計画"は各自頭の中に叩き込んでいますよね?」
イルーサの言葉にメンバーから十色の返事があがる。
それに頷いたイルーサが何処からともなく再び紙の束を取り出して読み上げ始めた。
「一応確認します。先程もエレイン嬢が言っていましたが、ジン様やカミーナと共にルラン王国の軍と行動を共にする方達はリディーラン王国を制圧するまではしっかりとルラン王国の味方として働いてください。制圧後はジン様からの指示があるまで待機です。指示が出たなら各班の"指揮官"に従って速やかにルラン王国兵士を戦闘不能状態にしてください。残りの、エレイン嬢や私、マスターと共に行く方達は"止まり木の盾"で暫く待機です。こちらもジン様からの指示が出たら動きます。
先ずは配属が外された騎馬隊と補給部隊に各四名ずつ向かい制圧をしてください。そのメンバーは事前に話が行っていると思うので抜りのないように。中央軍警護部隊はジン様が暫くの間黙らせておいてくれますので、その間に制圧を完了する様にお願いします。
全ての班の"指揮官"に"魔法映像"用の魔方陣を渡しておきますので、各班"制圧"が完了した時点でジン様へ報告をお願いします。それを合図としてジン様とシルティーナ嬢が最後の仕上げを行います」
バサリ、と無造作に投げ捨てられた紙の束が細切れとなり大広間に舞う。
「待機組の残りは合流した"味方"の人達と"マンリーニャ"を制圧して下さい。とは言っても、穢れた土地であるマンリーニャには今、住民は居ないので特に大変な事ではないと思います」
パチン、と鳴らされた指に舞っていた細切れの紙達が一瞬にして燃え、姿を消した。
「"味方"の方達の中には最終局面までリディーラン王国の方に身を置いている者も居ますので、くれぐれも誤って攻撃しないようにして下さい」
では、と締め括ろうとしたイルーサの前に突如として小さな紙が躍り出る。
幾何学的な紋様が描かれたソレは、その紋様の描かれた面を上にして床と平行に並びイルーサの足元で浮いている。
『あー、良かった。ちゃんと通じた!』
光を発した紋様の上に等身大のシルティーナが現れ安心した様に息をついた。
本人がいきなり目の前に現れたかの様なその光景はしかし、シルティーナの向こう側が透けて見えている事からそれが実物ではないという事が伺い知れる。
映像伝達魔法の"映像魔法"である。
「シルティーナ様、どうされたのですか? 今まで手紙でしたのに」
『エレイン! 久しぶり。いや、"映像魔法"用の魔方陣の存在をアルがすっかり忘れててね、さっき渡されたの』
「あの方はまったく……」
「だから今まで手紙でしたのね。何か映像魔法を使えない訳があるのかと思っておりましたわ。シルティーナ様は前の依頼の後直ぐにそちらに行ってしまわれたので、魔方陣を渡す暇がなくてアルハルト様にお渡ししていたのですが、人選を間違えましたわね」
『そうだね。私も今回の定期報告は映像魔法でやるって聞いてたから可笑しいなとは思ってたんだけど、アルが何も言わなかったから私達だけは手紙になったのかと思ってたしね。ユトが教えてくれたからよかったものの、下手したら最後まで手紙でのやり取りになる所だったよ。"魔方陣"は私もアルも描けないしね……』
「今回は魔方陣がちゃんと起動するかの確認で?」
『うん。それも含めた報告をと思ってね。えっと、明日には次の浄化目的地に着くよ。明日のが無事に終われば後2ヶ所だね。マンリーニャは最後だから、もう一つの方に先に行くけど場所がちょっと遠いんだよね……明日着く浄化目的地から次の場所までが1ヶ月近くかかるし、そこからマンリーニャまでだと更に2ヶ月とちょっとかな。うん、まぁ、手紙にも書いてるけど、4ヶ月近くで終わるとは思うよ』
「そうですか」
『ルラン王国が挙兵した事はまだ国民達には伝わってないみたいだね。王政府が箝口令を敷いたみたい。まぁ、魔物に穢れ、プラスして他国からの侵略なんてなれば国民も黙っちゃいないと思ってるんだろうけど、今更外交でどうにかなる問題でもないんだから遅かれ早かれ攻めて来られて国民にもバレるだろうにね……事前に知らされているのと、事が起こってから知らされるのとでは雲泥の差があるんだけど、それを理解出来てるのかなぁ? まぁ、別にどうでもいいけど。で、話を戻すけど、まぁこっちはもし事が公になり始めても聖女様達の耳にはなるべく入らないようにするよ。下手に知られて変なボランティア精神発揮されてもいやだしね』
「そうして下さい。聖女様にはクラリナ嬢が話したいことがあるそうなので、途中で死んで貰っては困ります」
『まぁ、その辺はユトが上手く聖女様を動かしてくれるよ。と、聖女様達が帰って来た。まぁ、こっちは滞りなく順調だからそっちは任せたよ』
「分かりました。くれぐれもお気をつけて」
『そっちもね』
シルティーナの姿が消えると同時に魔方陣の描かれた紙が床に落ちる。
「さて、では皆様、各自準備を進めて下さいな。この支部も私達が出立した後に破壊しますので、くれぐれも忘れ物などごさいませんよう。各班の"指揮官"の方のみ残ってくださいませ」
エレインの言葉に集まっていた面々が動き始めた。
「さて、と。これからが本番ですね」
「うん」
残った"指揮官"に指示を出しているエレインの横でイルーサとカミーナは言葉を交わす。
「二つの国を相手取ったこの"計画"、上手くいくと思いますか?」
「いく。じゃないと、意味、ない」
「そうですね」
「ジン様が立てた、大丈夫。オレ達も、じゃないと、乗らない」
「ですね。私達は上手くいく保証のない物事に力を貸すほど愚かではありませんしね。あのジン様が本気になって、"二つ名持ち"である私達が全面的に協力しているのです。不可能も可能になると言うものです」
「うん」
それから3日後、王国軍へ合流する様にとの伝言を携えたルラン王国の使者が支部を訪れ、それから更に5日後、ルラン王国王都にあった傭兵ギルド"双翼の剣"の支部は跡形もなく姿を消した。




