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元令嬢様の華麗なる戦闘記  作者: 夢猫


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狂戦士《バーサーカー》達の集結

 何とも面倒臭い"計画"だ、と最初に愚痴ったのはアルハルトだったと記憶している。


 確かに面倒臭い。


 それに同意したのは何も自分だけではないはずたとレインは思っている。


「何でこんな回りくどい事するんスか?」


 レインがその質問をぶつけたのは"計画"の準備が裏で着々と進められ、定期的な報告の為に"二つ名持ち"の面々が支部へと集まった時であった。


「あー、俺もそれ思ってた」


 そう声を上げたのは、机の上に面倒臭そうに上半身を投げ出していたアルハルトだ。


「なーんで態々二つの国に力を貸してやるんだ? 戦を仕掛けされるなら、ルラン王国にだけ力を貸してリディーラン王国を滅ぼした後に頂けるモンを頂けばいいだろ? 聖女だって戦の混乱に乗じて取っ捕まえればいいし、穢れた土地も捕まえた聖女に浄化してもらえば楽だ。そもそも態々戦を仕掛けて貰わなくても、俺達がその気になりゃ国の一つや二つ滅ぼせるだろ」


 至極真っ当な意見だった。

 過信ではなく事実だった。


 態々二つの国に対して裏で画策するよりも、表だって相手取った方が自分達のやり方ではあるのだ。

 けれど、今回の"計画"は兎に角裏で動き回り、最後の最後、全てが終わるその直前に一発KOのカウンターをお見舞いするというものだ。


 確かに成功すれば両国へのダメージは大きい。特に、魔物により内政がガタガタの状態で隣国から攻められ、国を奪われたその直後に更なる地獄を見せられる事になるであろうリディーラン王国の者達……特に王族やそれに準ずる者達にとっては正に"絶望"と言っても過言では無いことである。

 ルラン王国も然りで、長年手に入れたいと思っていた隣国を手に入れた側から、それまで"味方"として動いていた者達に牙を向けられる事になるのだ。


 そうして"双翼の剣(自分達)"は、貶められた仲間の復讐を果たし、加えて自分達だけの"国"を手に入れるのである。


 けれど、言ってしまえば"それだけ"なのだ。


「確かに、シルさんが傷付けられるのは嫌っスよ。そうした奴等殺してやりたいくらいに腹立ちますよ。復讐するってんなら手を貸すっス。けど、こんなに長い時間をかけて裏で手を回して、助けたくもない奴等助けて、ギルドの皆でかかりきってそれで得られるモノがリディーラン王国に対しての"復讐"と新しいギルドの"本部"だけなんて何か少なくないっスか?」


 そう不満そうに言ったレインにクラリナが声を立てて笑った。


「アハハハハ!! 確かにね。けどさぁ、レイン君。考えてもみなよ。アル君が言った通り、うち等なら態々こんな面倒臭い事をしなくても聖女の一人や二人拐って上手く丸め込んで、両国とも滅ぼして穢れた土地は聖女様に浄化してもらって、そこから好きな場所に本部を置く方が楽だ。けど、ジン様が立てた"計画"はどちらともに一度手を貸して、裏で画策しながら望んだ"結末"へと誘導し、最後の最後にようやく彼等の期待を裏切り、お目当ての場所に本部を置くというもの。何て遠回りで人手も時間もかかるものだろうってうちも確かに思った。てか、皆が一回は思ってるだろうね」


 笑いすぎでその瞳に涙を滲ませながら、クラリナは頷く。


「けどさぁ、けどだよ! シルティを傷付けて貶めて嘲った奴等をただ滅ぼすだけなんてつまらないじゃないか!! それなら、絶望に絶望を重ねたその先で、死んだ方がましだと思える程の屈辱と更なる地獄を見せてあげる方がいいに決まってる! シルティを傷付ける奴等だ。それでもまだ足りない位さ。だから、全てが終わったその後も、うち等が新たに"本部"とした場所を見る度に思い出せばいい。うち等に受けた屈辱を。完全なる敗北を。強者に対する恐怖を。死にたいくらいの絶望を。永遠に、死ぬまで、何度でも。滅ぼすのなんて簡単さ。けどそれだけじゃ足りない。全然足りない。うち等の仲間を傷付けるんだ。そう簡単に死なせてなんてやるもんか。生きて苦しみ続ければいいんだよ」


 それは正しく"狂気"だった。

 狂っていた。壊れていた。異常だった。

 けれど、それに"あぁ、そうか"と納得してしまえた自分達もまた、可笑しかったのだ。


「だから俺は思うんスよ。てか、疑問なんスよ」


 レインは目の前の男に語りかける。

 金の髪と薄紫色の瞳。シルティーナと同じ色彩を持つその男は名を"ジルド・バルラトナ"と言った。


「果たして俺達が可笑しいのか、この世界が可笑しいのか……ねぇ、あんたはどう思うっスか? シルさんの元お兄様?」


「……」


「自分が何故ここに居るのか分からないって顔してますね。大丈夫っスか?」


「……なぜ、」


「うん?」


「なぜ"双翼の剣(ギルド)"の者がここに居る!? それに"復讐"? 裏切るっていったい……」


「えー、そっからっスか? 面倒臭いっスねぇ。ガルドさんから聞いてないんスか?」


「……父を、知っているのか?」


「知ってるも何も……って、本当に何も聞いてないんスね。何やってんスか、ガルドさん……」


 心底面倒だと息を吐き出して、レインは目の前の男を見据える。

 芽生えるのは、男に対するほの暗い感情だ。


「あんたがここに居るって事はガルドさんがあんた等兄弟を許したって事なんでしょうけど、残念ながら俺達はあんた等を許すつもりはないんスよ」


「なに?」


「2年前、あんた等は裏切っちゃいけない人を裏切った。傷付けちゃいけない人を傷付けた。あんた等の父親がこちらの"味方"だからって、俺等が"あんた等の味方"って訳じゃないんスよ。俺等にとっての"味方"はガルドさんで、だから俺等も"ガルドさんの味方"っスけど、決して"あんた等の味方"じゃないってこと忘れないで下さいね」


「……」


 あぁ、今すぐに彼の息の根を止めてしまいたい。

 仲間を裏切った彼等に対する感情など、そんなモンだ。それだけだ。


「まぁ、ガルドさんがあんたをここに寄越したって事はこれから先はあんたの事を使えって事だろうし、一応説明はしてあげるっスよ」


「……待て、もしかして俺にお前らの片棒を担げと言ってるのか?」


「片棒? まさか! そんな訳ないですよ!!」


 大袈裟に首を振ったレインがニィ、とその口角を持ち上げた。


「片棒どころじゃないっス。あんた等は……"ガルド・バルラトナ"を始めとする"バルラトナ公爵家"はもう結構前から"双翼の剣(俺等)"と協力関係にあるんスよ」


「え?」


「知らされてなかったのはあんた等兄弟だけっスよ。不思議に思わなかったっスか? 2年前、幾ら王子や聖女の言葉があったからって、碌に調べもしていない件に関しての罪で自らの娘が裁かれるのを何故ガルドさんが黙って見ていたのか」


「……」


「あの時から既に……と言うか、もう、本当に結構前から既に水面下で物事は動き出してたんスよ。それが表に現れ出したのが2年前。シルさんの国外追放を皮切りに全てが加速しただけ。本当に気付かなかったんスね。次期宰相が聞いて呆れますよ。まぁ、あんたが宰相になることはないでしょうけど」


 そこまで話した時に数キロ先から馬の嘶きが聞こえて来た。


「お、次の人達が来たっスね。詳しい話は皆揃ってからしてあげるっスから、暫く待っててくださいっス」


「ちょっと待て! 今すぐに」

「レイン!!」


 話を終わらせようとするレインを引き留める為に上げたジルドの言葉に被さって響いた声。

 いつの間にかすぐそばまでやって来ていた馬に跨がった十人程の集団。

 その先頭を駆けている白馬に乗った男がもう一度良く響く声でレインの名を呼んだ。


「ハインさん!! 久しぶりっスね!!」


 破顔したレインが馬上の男に近づけば、ヒラリ、と軽い動きで馬から降りた男が羽織っていたローブを脱いだ。


「"ハイン・ミルベリア"……?」


「うん?」


「何故、貴方がここに……」


 ローブの下から現れた、銀の短髪に臙脂(えんじ)色の瞳を持ったその男の顔を見た瞬間、ジルドが驚きに目を見開いた。

 "ハイン・ミルベリア"。リディーラン王国騎士団の副団長と同時に、この国最強の部隊と言われる"特務遊撃隊"の副隊長の肩書きを持つその人だ。


「あれ? バルラトナ家はご当主ではなく長兄を寄越したのかい?」


「そうなんスよ! しかもガルドさん何も話してないんスよ」


「へぇ。それはそれは……あの人も中々に面白いことをやるね」


「面白いことって……あれ? てか、ファミラスさんはどうしたんスか?」


「あぁ、隊長? 彼はほら、何時もの如くちょっとした遊びに興じてる最中だよ」


「今回はどんな?」


「"特務遊撃隊"の中に一般兵として混ざって、他の人達が何時になったら気付くかっていうヤツ」


「それはまた、悪趣味っスね」


「本当にね。だから、隊長はあっちに残って最後に合流するよ……で、さっきから何か言いたそうだけど、何かな?」


「ぁ、えっと、」


 それまでレインと談笑していたハインが眉間に皺を寄せて黙り込んでいるジルドへと意識を向けた。

 突然の注目に暫し言葉が出てこなかったジルドだが、数秒の沈黙の後に口を開いた。


「ハイン様とファミラス様も彼等の"味方"というモノなのですか? だから、1年前忽然と姿を消したのですか?」


「うーん、ちょっと違うよ。俺と隊長は元々"双翼の剣(ギルド)"のメンバーなんだよ。騎士団団長と副団長には今回の"計画"の為になっただけ」


「"計画"?」


「あぁ、知らないのか。"先見の魔女"は知ってるかい?」


「勿論」


「彼女の名は"クラリナ・ハミューリー"。"未来"を視る事が出来る人だよ」


「未来を……? だから、"こうなる"事が分かっていて、その為に立てたのが貴方の言う"計画"だと?」


「それもまたちょっと違う。クラリナさんが視たのはシルティーナさんが国外追放される所まで。今で言うと、"2年前"まで。それから先の"未来"は視てない。けどね、クラリナさんは優秀だから、"未来視(さきみ)"した2年前の出来事の後を"先見(さきみ)"で予測した。予測して予想して推測して憶測して、そしてその結果から立てられたのが今回の"計画"さ。まぁ、"計画"を立てたのはまた別の人だけどね」


「クラさんは確信してたんスよ。この国が近い未来に魔物によって穢れ、聖女様の助けが必要になることを。そして、その聖女様に強い"護衛"が要ることを」


「だから俺達は8年ほど前からこの国に潜入して自分を売り込んで、5年前に騎士団の団長と副団長になった。俺達がリディーラン王国でトップの実力者なのはその時から変わらないけど、俺達が育てた奴等も今やリディーラン王国最強の部隊になった。俺達の目的は"ソコ"にある」


「最強の部隊を率いる最強の二人。聖女様の護衛の件で一番に名前が上がる人物達っスよ。けど、その二人の所属はあくまで双翼の剣(うち)っス。聖女様の護衛の件が打診され始める前にファミラスさんには姿を消してもらって、その後に続いてハインさんも居なくなってもらう。そうすれば高い確率でシルさんの所にその話が行くって訳っス。で、シルさんの事だから王様達を目の前にして断るだろうって事で、案の定シルさんがリディーラン王国に向かったその瞬間からマスター達が動き出したんスよ」


「まぁ、シルティーナさんには、"国内最強の部隊から裏切られる恐怖と絶望をリディーランの者達に味合わせるためと、ルラン王国との交渉の時に戦力とする為"って言ってあるけどね。クラリナさん達は元からシルティーナさんを"計画"の実行に関わらせる気満々だったって訳だ」


「それでも最終的にシルさんが断ったらそれはそれで仕方ないって感じだったんでしょうけどね。まぁ、承けたところを見るとシルさんもだいたいの予想は出来てたんじゃないっスか?」


「貴方達はいったい何をしようとしてるんです……?」


 心なしか顔から血の気が引いているジルドにレインとハインは顔を見合わせて笑った。


「最初に言ったじゃないっスか。面倒臭い"計画"を実行中なんスよ。もうずっと前から、ね」


「俺達はただ、仲間がされた事を100倍以上にして返してやりたいだけさ。そしてついでに立地のいい場所を提供してもらって、俺達の新しい本部にしようかと思ってるだけ」


「まぁそれに色々と付随するイベントもあるんスけどね」


 楽しそうに笑う二人を前にジルドが僅かに後ずさる。


「高々一人の仲間の為にこんな……国と国同士の戦いを……」


「だから聞いたじゃないっスか。可笑しいのは俺達か世界かって」


「そんなの、」


 お前達の方が可笑しいに決まっている、とジルドは掠れた声で呟いた。


「だ(・)か(・)ら(・)こ(・)そ(・)、俺達にとっては世界の方が可笑しいんスよ」


 だって"それ"は双翼の剣(自分達)にとっては"普通"なのだからーー

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