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最終巻コミック発売記念SS・そこにあなたがいなくとも

 コミカライズが最終回を迎え、単行本②&③が本日同時発売です!

 原作が終了してから七年、こうしてまだこの作品にお付き合い頂けたことを嬉しく思います。

 コミカライズ単行本では、樹虎視点の話と、ちょっとしたifの話を大量に描き下ろしまでして頂いております><

 書影を本日付の活動報告に記載しておりますので、よかったら!


 また記念に久しぶりにSSを書いてみました……おそらくこの作品の更新は、これで最後になるかと。最後までお楽しみ頂ければ幸いです!

 

「もうてめぇにはウンザリだ! 生意気チビ!」

「それはこちらの台詞なのです! ムッツリ不良!」


 ふんっと、いがみ合っていたふたりは同時にそっぽを向く。


 赤い髪をガシガシと掻いて、威嚇する大型獣のように、のしのしと樹虎は教室の後ろの扉から。

 金髪をふわふわと靡かせて、愛らしい小動物のように、ぷっくり頬を膨らませた心実は前の扉から。

 それぞれ出て行ってしまった。


 その様子を見守っていたクラスメイトたちは、委員長の山鳥を筆頭に「あーあ」という空気を漂わせる。


「あのふたり、『チーム』になってからもう数ヶ月経つし……そろそろ喧嘩しなくなったと思ったんだけどね」


 やれやれと、山鳥は自席に座ったまま嘆息した。

 放課後に魔法模擬試合の話題になり、年齢は周囲より下ながらに生徒会長を努める心実が、連絡事項を伝えに樹虎に会いに来ていたのが数十分前。


 最初は業務的なやり取りを淡々としていたはずが、どちらかがどちらかの癇に障ることを言ったのか、気付けば舌戦に発展していた。

 日常茶飯事のこととはいえ、なかなかに激しめの言い合いだった。



 ただ、まだ魔法バトルにまでいかなかっただけ、マシとも取れるだろう。

 あのふたりが本気でやり合えば、教室は無事では済まない。



「委員長として、もっと口喧嘩も止めてあげるべきだったんだろうけど……」

「それは難しいと思うよ。本気の二木君と木葉さんの間に、第三者が割って入るなんて」


 山鳥の席の傍に立つ大人しそうな眼鏡の少女・森戸が控え目に口にする。



 『彼女』がいなくなってから、樹虎と心美は『ペア』ではなく『チーム』になったわけだが、喧嘩が絶えずクラスメイトどころか学校中が諦めムードである。


 しかしながら少しは改善しないと、次の魔法模擬試合でも散々な結果になってしまう。

 それぞれの実力はトップクラスに高いのに、チームワークの点で減点されまくりなのである。


 担任の草下先生も頭を悩ませていた。


「ふたりを止められる第三者か……そんな人物はこれから先も、ひとりしかいないだろうね」


 山鳥はほんのり寂しそうに、窓の方を見る。

 ピンクの髪を揺らして笑う彼女の明るい声が、なんだか無性に聞きたくなってしまった。



☘️☘️☘️



「あー……クソうぜぇ」


 よく晴れた青空は、夕焼け色に変わりつつある。

 樹虎は定位置である裏庭の木に登って、太い枝の上でバランスを取りながら苛立ちを吐き出していた。


 どうにもこうにも、やはり心実とはそりが合わない。


「なんで俺がこんな面倒な思いを……やっぱり試合、一人で出た方が手っ取り早くねぇか……」


 ブツブツと文句は止まらず、苛々は吐いても募るばかりだ。

 元来、一匹狼な質である樹虎が『チーム』など、土台から無理な話だったのだ。


 それでも『彼女』とはなんやかんや、最後は相棒になれたのは……詰まるところ、惚れた弱みも大きかったのかもしれない。



「三葉……」



 その名前を噛み締めるように口にする。

 恐らく一生、樹虎にとっては特別で、大切な名だ。


 そんな彼女に以前、口酸っぱく言われたことを、樹虎は唐突に思い出す。



『いーい? 樹虎と心実は力を合わせたら、そりゃもう天下を取れるから! 私を挟んで喧嘩ばっかしてないで、たまには歩み寄りも大事だと思うよ? 歩み寄り! わかった?』

 


 琥珀色の瞳を心なしか釣り上げて、彼女はビシッと心実と樹虎を指差していた。

 クローバー型のピンがやけに眩しく輝いていた。

 

 当時の記憶があまりにも鮮明で、樹虎が「チッ」と舌打ちを漏らした時だ。 


「……二木さん。いらっしゃいますか」

「……なんだ、チビ」


 下から心実の声がした。

 一瞬応じるか否か迷ったが、三葉の『歩み寄り!』という声に背を押されてしまった。

 

 相手もまた渋々……といったふうに、心実は続ける。


「今回は私も大人げなかったです……すみませんでした」

「んだよ、急に」

「お姉様のお言葉を思い出したのです。歩み寄りが大切だと……」


 なんと、同じことを考えていたらしい。

 こんなことばかり……というか、三葉のことに限り、相性最悪なふたりの思考は時折重なる。


 先に謝罪されてしまっては分が悪い。

 樹虎も仕方なく、木から下りて極々小さな声量で「……俺も悪かったな」と返した。

 

 束の間、樹虎と心実は目を合わせるも、それ以上余計なことはお互い話さず……。

 また別々の方向にお互い去っていく。


 これが彼等なりの『仲直り』だ。


 結局どれだけ月日が流れようと、そこに彼女がいなくとも……ふたりの喧嘩を止められるのは、彼女だけなのだ。



 なお後日、またまったく別の理由で喧嘩をしたふたりは、理事長直々にお咎めを食らう羽目になるのだが、それは違う時間の話である。




 

長い間、ありがとうございました!

コミカライズ単行本もよろしくお願いします!

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【お知らせ】
書籍版、新紀元社様から全3巻発売中です☘
コミカライズ単行本も全3巻、竹書房様より発売中☘

描き下ろしもいっぱい作って頂きました☘️
なにとぞよろしくお願い致します!
― 新着の感想 ―
[良い点] 三葉のいない時間を生きる二人がとても悲しく、それでも三葉との思い出で進む強さがあるのだなと感じました。 絶対に話すことすら無かっただろう二人がチームでいることは、三葉が生き抜いた余命六ヶ月…
[一言] もうほんとに何度でも言いますけど、この作品で肌せんせーと出会えたし、ずっとずっと大好きな作品です。コミックス②、③巻はまた買いに行ってきます。 この2人がどーしても2人で行動しないといけ…
[一言]  長い間お疲れ様でした。  自分にとっても、肌殿の作品群の中では思い入れのある作品でした。←次点は”黒バラ”だったりします(笑)  結局2人はいつまで経っても”3人チーム”、なんでしょうね…
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