第6話 網に掛かった獲物
ホールにはオーケストラによる荘厳な音楽が鳴り響く。リアの作戦開始の合図と共に黒い衣服の男が俺に仮面を渡した後、会場から去っていった。
渡された仮面はオペラ座の怪人のファントムがつけているような仮面だった。以外にかっこいいデザインだ。
そんなことを考えながら、俺は仮面をつけた。あれ? なんで、アイリの奴は壁際で大人しくしているんだろう? いつもなら、わっちはこんな綺羅びやかな所ははじめてじゃ。あれはなにかのう? ぬしよと言って元気にはしゃいでいるのに…
「そんなところで突っ立てどうした?」
俺はそう声をかけるとアイリはこちらを少し見たあとに背を向ける。どうしたんだろう?
「わっちはここにいる。ぬしらで楽しんでまいるが良い」
アイリは背を向けて俺を見ないままでそう言う。なんだ? アイリの奴はダンスが嫌いなのだろうか?
「ぬしにはわっちの気持ちなど…」
何かアイリが小さく呟いたか? まぁ、今回の仕事に支障はないだろう。俺はそう思って、リアを探す。気がついたらリアが近くにいなかったのだ。あ、よく見るとホールの真ん中の方にいるな。
リアがいるホールの中央に駆け寄ると、彼女は目元に宝石がある白い仮面をつけて悠然と佇んでいた。華やかとはきっと彼女のためにある言葉だろうな。いや、あれがリア充と言う奴だろう。
美男、美少年達に囲まれて、近寄りがたいわ。あの取り巻きの中を進むのか。やってられんわ。俺が内心でそんなことを思っていると、
「わたしと踊りたいのでしょうか?」
リアがこちらを視界に入れた後にそう言う。ようやく俺という存在に気がついたようだ。だからと言って、あの人垣を分け入って彼女に近づく気にはなれないがな。
「すぐそちらに行きますわ。少々お待ちになってください」
俺の気持ちを察したのだろう。そう言って彼女は彼女を取り巻いている野郎どもに失礼しますわと言って俺のもとに悠然と歩いてきた。
「別にこっちに来なくてもよかったんだぞ? ひとまず、俺はここら辺で待機することにするわ」
「あら? 折角の舞踏会で踊らないのかしら?」
「踊らないんじゃなくてさ! 俺は踊れないんだよ!!」
前世から含めても盆踊りくらいしか踊ったことはないぜ。こんな社交場で踊ったことなど皆無だと自慢気にリアに言う。すると彼女は、
「では、私が教えてあげましょう」
と言うとリアはこちらを見て微笑む。さらに彼女は俺の話を無視するようにこちらの手を取って大勢の人がいる踊りの輪の中に引っ張っていった。
「さぁ、はじめましょうか? 大丈夫ですよ。ゆっくりやればできますから」
そう言ってリアは可愛らしい笑顔を見せたあと俺に踊り方を教えはじめた。
「次の足に体重が移るまで支え足をこのように動かします。右、ここでターンをさせてください」
俺はリアが言うように必死に動いて覚えようと努力はしたぞ。でもさ、前世から踊りといえば盆踊りくらいしかやってなかった俺にこんなハードダンスは難しかった。リアはそれでも何度も根気よく教えてくれて、少しは様になる程度になった。
ようやく踊れるようになったかなと思った時、
「美しいお嬢さん、次は私と踊って頂けないでしょうか?」
と言って、左右が白と黒の仮面をつけた男がリアに話しかけてきた。
「まぁ、嬉しい。ぜひとも一度、踊りましょう」
リアはそう言って微笑んだ。まるで、待っていた獲物が網にかかった時のような歓喜の笑顔を貼り付けて…




