↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生師たち ~転生し過ぎたら、女神様にブチ切れられた件~  作者: いおにあ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
12/32

第11話 詩


 十月のある昼休み、図書館で、俺はそれを見た。


 窓辺の読書席に、一年生の男子が座っていた。湊(みなと)という名前だ。背は高いが、ひょろりと細い。どの部にも入っておらず、昼休みになると、いつもここにいる。読んでいるのは、決まってあの書架の本だった。マックスが「飾りだ」と言った、詩集の棚の。


 その向かいに、マックスが座っていた。


 二メートルの巨体を読書席に押しこんで、湊のノートをのぞきこんでいる。


「……ここの、行の切り方が良い」


 マックスが、太い指でノートの一行を指した。


「『放課後の体育館の音が/ぼくの心臓より大きい』。ここで切るから、心臓の音が聞こえる」

「……分かります?」

「分かる」


 湊が、耳まで赤くなった。マックスは咳払いをして、そっぽを向いた。


 どうやら、二人の昼休みは、今日が初めてではないらしかった。


 そのとき、図書館の扉が乱暴に開いた。


「おい、湊。やっぱりここか」


 ジャージ姿の男が、大股で入ってきた。体育の権藤先生だ。バスケ部の顧問でもある。


「昼休みに、なんで図書館なんだ。背があるんだから、バスケ部に来いって言ってるだろう」

「あ……でも、部活は、入っても入らなくてもいいって、校則に……」

「校則は校則だ。男子なら運動部。常識だろう」


 権藤先生は、湊のノートをひょいと取り上げた。


「なんだこれ。……詩?」


 鼻で笑った。


「男が昼休みに、詩なんか書いててどうする。文武両道って、校門にも書いてあるだろう。体を動かさないやつは、勉強だって伸びないぞ」


 湊はうつむいた。膝の上で、握った拳が震えていた。


 がたん、と椅子が鳴った。


 マックスが、立ち上がっていた。


「……返すがよい」


 低い声だった。


「なんだ、転校生。お前、柔道部だったな。そういうやつが、文化部の肩なんか持って――」

「文化部の肩を持って、何が悪い!」


 図書館の窓ガラスが、びりびりと震えた。


「男子たるもの運動部だと? そんな決まりが、この学校のどこにある! 詩を書く男は、一人前ではないとでも言うのか!」


 マックスの声が、裏返った。


「僕だって、詩が好きだった!」


 しん、と図書館が静まり返った。


 マックスは、はっとしたように口を開けたまま、固まっていた。それでも、言葉は止まらなかった。


「……僕だって、文芸部だった。毎日、毎日、廊下で呼び止められた。いつ運動部に来るんだって。男のくせにって。背の低い、ひょろひょろの一年生だったのに。それでも、やめなかった。僕は、やめなかったんだ。やめなかったのに――」


 大きな肩が、震えていた。


「最後には、学校に、行けなくなった」


 たてがみが、力なく垂れていた。二メートルの体が、そのときは、ひどく小さく見えた。


 権藤先生は、何か言いかけて、やめた。ノートを机に置くと、舌打ちをひとつ残して出ていった。


 扉が閉まる音がして、それきり、誰も動かなかった。


 最初に動いたのは、湊だった。机の上のノートを拾い、両手で胸に抱えた。


「……あの」


 マックスが、ゆっくりと振り向いた。


 湊は、何を言えばいいのか分からない顔をしていた。マックスも、同じ顔をしていた。


「……詩の会を、作らぬか」


 しばらくして、マックスが言った。いつもの口調に戻っていた。


「部では、ない。会だ。届け出も、いらぬ。昼休みに、ここで書いたものを読みあう。それだけの会だ」

「……二人で、ですか」

「二人からで、良い」


 湊は、ノートを抱えたまま、こくりと頷いた。


 書架の陰で、俺は詩集を一冊、棚に戻した。マックスがこっちを見た。見つかっていたらしい。


「……ソーマ。今のは、聞かなかったことにしてくれぬか」

「なにを?」


 マックスは、少しだけ目を見開いた。それから、ふん、と鼻を鳴らした。


「……良い会に、なると良いのだが」


 その日から、図書館の窓辺には、昼休みごとに、大きな背中と細い背中が並ぶようになった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。