第17話 西園寺道場の生徒達
クリスマスも過ぎ、大晦日やお正月も普通の家庭と同じような一日を過ごし、二月のある日。
まだ寒いので長袖長ズボンのジャージを着てその上に白いモコモコとしたコートを着て白いマフラーに耳にはウサギの顔の形を施している耳当てもして、とある場所へと行く。
変なファッションだなーなんて思うだろ?でも、そのとある場所でとある事をするにはジャージ姿ではないと俺の本気が出せないからなのだ。
何故本気を出すか?それは・・・
「おー!来たねー!さ、上がって上がって!」
爺さんと戦いに来たのだ。
「やっほ~♪爺ちゃん♪」
俺はまた戦えるのが嬉しくて無邪気な笑顔を浮かべる。
爺さんからいつでも戦いに来てもいいからと正月に言ってきたので、俺は無断で戦いを挑む事にしたのだ。母親とか兄妹は色々と忙しそうなので、俺一人のみで西園寺道場へと歩いてきたのだ。
爺さんは生徒達の特訓に付き合う為にすでに合気道専用の胴着を身に包んでいる。
でも、いいのだろうか?生徒達の特訓を爺さんの指導で汗水流しているのに生徒達の邪魔にはならないのだろうか?そんな事を聞くと
「いいよいいよ。道場破りも大歓迎しているから」
な、な、なんとっ!この道場では道場破りに来る人間も求めているらしい。アホではないのか?わざわざ看板持っていってくださいなんて言う道場なんてここくらいなものだろう。
「でも、挑戦料としてお金貰うから儲かるし、たまにちょ~~っっっとだけ強い人と戦えるからいい運動になるんだよ。ほっほっほ」
爺さんは相手の強さの割合を示すかのように右手の親指と人差し指との間隔で示すのだが、俺の気のせいだろうか?その間隔は完全に閉じていたのだ。この爺さんは人をナメているのか、それともそれだけ強いのか・・・多分、後者だな。
あ、でも、俺は?俺、お金なんて一円たりとも所持していないぞ?そんな心配をすると
「いいよ、家族だからタダで。そんな事より、ほれ。またあのマットに行きなさい。美仁香ちゃん」
無料で相手にしてくれる優しい爺さんは初心者専用のマットがある所を指差し、俺はコクリと頷いてコートやマフラー、耳当ても道場の隅へと畳んで置き、軽く体操をしてマットへと向かっていったのであったーーー。
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とある道場。その名は西園寺道場。
そこには合気道を嗜む、今は50人強の生徒達が、ある先生の指導にて合気道の特訓をしていたのだ。
そのある先生は世界最強という称号を持ち、生徒の間では格闘技の神様と称される程の実力者であり、その先生の教えを生徒一人一人が真剣に聞き、その通り技をこなしていく。
「せいっ!」
一人、この冬に新たに入った新人女子が一つか二つ年が離れた先輩の女子と組手をしていた。
「きゃあっ」
先輩の強さは新人の強さよりも遥かにあり、軽く投げ飛ばされる新人女子。
「す、すごいですっ。もう一回!」
投げ飛ばされた新人女子は先輩ともう一度挑戦し、数秒も経たず
「きゃあっ」
またも投げ飛ばされたのだ。
「ふぅ、一回休憩をとりましょう。30秒ですよ?」
「はいっ!先輩!」
新人女子と先輩は正座をして先生の許可を貰わず休憩する様子。それを先生が見ても怒らない。
先生は生徒達が勝手に休憩をとっても怒らないのだ。先生は自分のペースと相手のペースを考えて自由に休憩を取り入れながらやってもいいという方針なので、のびのびと合気道の特訓が出来るのだ。
「おー!来たねー!さ、上がって上がって!」
先生は道場入口に向かって嬉しそうな声を出したので新人女子と先輩を始め、生徒全員は先生の姿を一斉に見る。
「な、なんでしょうか?先生、やけに嬉しそうですね?先輩」
「そうだね~。多分、お客さんかな?」
新人女子と先輩は先生の変貌が気になって、雑談を交わしていく。
「やっほ~♪爺ちゃん♪」
道場入口から可愛らしい女の子が先生に向かって爺ちゃんと言ってきたので新人女子は『先生に向かってなんて事を!』と内心焦りが生じてしまう。
その可愛らしい女の子の声の持ち主なのか、先生と姿を現した時、先輩は『あっ!!』と声を上げ、近くにいた、まだ組手をしている女子達を何とか中止させ、女の子を指差して
「ご、ごめんね?組手している所邪魔して。で、でもほらっ!あの子!秋の季節に先生といい勝負したあの子!」
「うん?・・・あっ、ホントだ!!あの時のとても強い女の子だ!」
先輩達のはしゃぎように新人女子はキョトンとするばかり。それはそうだろう、この冬にこの道場へと入門したのだから、秋に起こった出来事なんて知らないからだ。未だにはしゃいでいる先輩達に新人女子は説明を求める事にしたのだ。
「あ~、そっか。この冬に入ったばかりだからこの前の事知らないんだ。でも、今分かるよ?あの子の正体!」
「しょ、正体?ですか・・・」
小学生相手に正体も何もないだろうし、ただ普通の女の子だろう。そう思うしかない新人女子。
「あっ、マットに先生とジャージ姿のあの子が立ったよ?見よっと♪」
「私も~♪」
先輩達は練習をサボって先生と女の子の勝負を見るという発言を耳にした新人女子は耳を疑った。
あの強い先輩がそこまでして先生との勝負を見たがっているなんて・・・新人女子も興味が湧いてきたのであったーーー。
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「よし、自由に間合いをとりなさい。美仁香ちゃん」
爺さんとの戦いが嬉しくて嬉しくて俺の顔には無邪気な笑み。
「ほほっ、そこまで楽しそうにするとは・・・美仁香ちゃん。戦いは好きかい?」
「もちろん♪♪」
無邪気な笑みを浮かぶしかない俺。また負けるだろうが、それでも戦いたいという闘争本能。この戦いはやめられねぇ。
「負けても嬉しい?」
「それはイヤ。でも、こんなに強いんだ!って相手の強さが分かって楽しくなるんだ!」
「ほっほっほ~。美仁香ちゃんはいい武術家になるよ~」
爺さんから褒められたので俺はとてもいい気持ちになって
「にひひひひっ♪」
可愛らしい笑顔と可愛らしい笑い声をあげるのだったーー。
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「あっ♪笑った♪今日いい事が起こりそう♪」
マットの上にいる可愛らしい女の子の笑みを見た先輩は何を血迷っているのか来る筈もない幸福が来る事を予知していたのだ。その先輩だけではない、複数の女子もそれを感じているらしい。
「きゃっ、すごいかわいいんだけど♪」
「あの子、ずっと来てくれないかな?目の保養にいいんだけど」
その女の子の人気は一部の人間のみ、いやこの道場に通っている女子全員だ。その女子全員は先生と戦っている女の子を好いているようで、女子の間ではその女の子の事を『姫ちゃん』と呼ぶようになっていたのだ。
「応援しないとっ、姫ちゃんっがんばれっ」
「ひ、姫ちゃん?あ、あの子のあだ名ですか?確かにかわいい女の子ですけど・・・」
新人女子はこれから先生と女の子との戦いを目にして疑う事をこの時は知る由もないーーー。
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「うむ、では・・・始めぃッッ!」
先生との間合いはこの前と同じで2メートル程とり、まずはこの前と同じ上半身と下半身を捻り、腰を落として順手を腰に、逆手を肩の前に構えて、一気に前方に飛び掛る秘伝の歩法である箭疾歩をするぞというのを爺さんにアピール。
「ほほっ、基本的にはその構えかい?」
「うん、そうだよ爺ちゃん」
一時雑談。が、雑談を終わらせて爺さんの顔は威圧感を出す武術家としてキリッとさせ俺を威嚇。
そして、数秒見つめ合って俺から攻撃をする事に決め、爺さんはまたも構えも見せずに両手をだらんとさせていた。多分、これに何か意味があると思うのだが、合気道をよく知っていない俺にとっては意味を知らないのだ。
「箭疾歩!」
まずはお手並み拝見の箭疾歩を鳩尾にあたるコースへと拳を振るう。が、爺さんは
「ほいっと」
爺さんはこの前と同じような戦法をとった。左手の人差し指と中指のみを用いて俺の右手首に添え、俺の攻撃を外側へと捌くようだ。
「・・・」
これを待っていたのだ。俺は爺さんの左側を通ったに過ぎないのだが、俺は爺さんの真横につけるようにスピードを調整していたのだ。よし、ここだぁ!!
「猛虎硬爬山!」
虎が山を掻き崩すかのように相手の腕を叩き落したり、あるいはわざと突きを防御させて、相手のガードをくずし、無防備な首や腹に発勁を込めた突きや肘打ち、さらには体当たりを叩き込む絶招なのだ。(※絶招とは奥義や切り札の意味)。
「ほぉあ!!」
「うあ!!」
爺さんはそのままの立ち位置でしかも横から攻撃されたにも関わらず、俺の左手首を爺さんは片手で掴みながらしゃがみこみ、俺を爺さんの頭上を弧を描くように投げまわすのだ。
「いてっ!」
俺は柔らかいマットに背中からどんと落ちた。受け身を知らないので背中が痛いのだ。いくらマットが衝撃を吸収するとはいえ、痛みはくるのだ。
「ほほっ、しまいじゃな」
俺の苦痛の表情に爺さんはこれまでかと隙を生じさせた。
俺は何とか立ち上がり、よろめきながらも箭疾歩の構えをきちんと構える。
「まだやるかい?」
「当然♪にひひっ♪」
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「す・・・すごっ・・・」
新人女子は先生と女の子との戦いに目を疑う。
先生はいつも強くて道場破りに来た人達との戦いを見た時もこの先生はすごいと素直な気持ちで見ていた。
今回も来客が来て、先生と勝負するけど・・・それは小さくて可愛い女の子。しかも、自分よりも数段強いのでは?と思わせる動きに驚愕するしかない。
先生に攻撃すら通らない。でも、今戦っている女の子はそれを笑って次々と攻撃してそれを先生が投げて、立ち上がったらまた笑う。
今まで道場破りに来た人達は、先生の強さを実感して青ざめたり、時には涙を流す人もいた。
でも、女の子は楽しそうに笑っているという初めてみる挑戦者の表情。自分なら泣き喚いているだろうと新人女子は密かに思っているのだ。
「わぁ♪かわいー!胸がキュンキュンするー!」
「わたしも~。何で笑っちゃうの~?姫ちゃん♪」
今戦っている女の子の人気の株はみるみる急上昇。主に女子だが、一部の男子も混ざっているが、女の子はそんな事を知らずに先生と戦っていったのであったーーー。




