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第7話 小さなこと

第7話 小さなこと

父さんは、一度した約束を忘れない。

残念ながら、それには俺に剣を教えるという約束も含まれていた。

「もう少し足を開け」

木剣を両手で握ったまま、父さんを見る。

「もう開いてるよ」

「足りない」

少し広げる。

「これで?」

「今度は開きすぎだ」

「父さん」

「なんだ?」

「わざとやってるでしょ」

父さんは手にした木剣にもたれかかった。

「お前をイラつかせたら集中が切れるか、確かめてるんだ」

「じゃあ俺も父さんをイラつかせて、どうなるか確かめていい?」

「やってみろ」

少し考えた。

「母さんに怒られると、すぐ黙るよね」

父さんの顔から笑みが消えた。

効いたらしい。

「それは今の話とは関係ない」

「あると思うけど」

「剣を構えろ」

話を変えた。

間違いなく効いていた。

ここ数日、朝はずっとこんな感じで訓練していた。

まず剣。

そのあと魔法。

俺としては順番が逆だと思うのだが、なぜか父さんはそこだけは妙に頑固だった。

木剣を構える。

父さんが数歩離れた場所に立った。

「準備はいいか?」

「よくない」

「よし」

父さんが向かってくる。

手加減して、ゆっくり動いているのは分かっていた。

それでも一撃目を受けるだけで精いっぱいだった。

二撃目で俺の木剣は横に弾かれた。

三撃目。

父さんの木剣の先が、俺の胸に軽く触れた。

「死んだな」

「俺、まだ四歳なんだけど」

「敵もそれを聞いたら、きっと悲しんでくれるさ」

眉をひそめる。

「もう一回」

父さんの顔に笑みが戻った。

「それでこそ俺の息子だ」

三十分ほど経つころには、腕が痛くなっていた。

一時間後には、どうして俺が剣を嫌いなのか思い出していた。

父さんだけは、まだ楽しそうだった。

「よし。次は魔法だ」

木剣を地面に置いた。

急に人生が明るく見えてきた。

父さんは地面に小さな石を三つ並べた。

「全部浮かせろ」

手を伸ばす。

「《囁く風》」

三つの石がゆっくりと浮かび上がった。

「今度は離せ」

「どうやって?」

「一つは左。一つは右。もう一つは上だ」

父さんを見る。

「そんなの最初に言ってなかったじゃん」

「今言った」

石に意識を集中させた。

左の石が横へ動く。

右の石が震える。

真ん中の石は、そのまま地面に落ちた。

父さんが首を振った。

「もう一回」

やり直す。

今度は二つ落ちた。

「思ってたより難しい」

「簡単なら教える必要もないだろ」

「たまに父さんのこと嫌いになる」

「俺も愛してるぞ」

それからもしばらく続けた。

無詠唱魔法は試していなかった。

時々、頭をよぎることはある。

でも、このまま普通に魔法を使っていたほうが安全だと思っていた。

約束もした。

今はそれで十分だった。

ちょうど三つ目の石をもう一度浮かせようとしたところで、背後から母さんの声がした。

「そこまで」

父さんは振り返りもせず答えた。

「まだ始めたばかりだぞ」

「もう二時間もやってるでしょ」

二時間?

父さんが俺を見る。

「そんなに経ってたか?」

「もう腕の感覚がない」

「大げさだ」

母さんが近づいてきて、俺の手を取った。

手のひらは赤くなっていた。

父さんが咳払いする。

「強くなってる」

「四歳よ」

「早いうちから強くなってるんだ」

「ラルフ」

「分かった」

勝った。

母さんが俺の手を握った。

「ルークは私と町に行くわよ」

父さんがすぐ口を挟む。

「俺は?」

「あなたは留守番」

「なんで?」

「買い物に行くから」

父さんは数秒考えた。

「そうだな。俺はここにいるほうが楽だ」

引き下がるのが早すぎる。

怪しい。

町は家からそれほど遠くない。

けれど、母さんと二人だけで来ることはあまりなかった。

市場は人でいっぱいだった。

野菜の屋台。

布地。

焼きたてのパン。

干し肉。

隅では栗を売っている男が、消えかけた炭火を小さな火魔法でもう一度燃え上がらせていた。

香ばしい匂いがすぐに鼻に届く。

帰りに母さんに栗を買ってもらうのを忘れないようにしよう。

少し先の店の前で、母さんが立ち止まった。

「エリサ!」

店の向こうにいた女性が母さんを見ると笑顔になった。

「やっと顔を見せたわね」

「家を出るのも大変なのよ」

女性の視線が俺に移った。

「この子がルーカス?」

母さんが俺の頭に手を置く。

「そうよ」

女性は数秒、俺の顔を眺めた。

「ラルフにはあまり似てないわね」

「ありがとうございます」

母さんが俺を見下ろした。

「ルーク」

「なに?」

女性が吹き出した。

母さんも笑いをこらえようとしていたが、あまり成功していなかった。

市場を歩いていると、母さんがあちこちに知り合いがいることに気づいた。

パン屋と話し、

果物を売っている老人とは値段交渉をし、

通りかかった女性とは足を止めて少し話していた。

家ではもっと落ち着いている。

でも外に出ると、ずっと誰かと話したり、笑ったり、言い返したりしていた。

ある時なんて、店主と値段の交渉をしながら、同時に俺の腕を引っ張って、目の前を通る荷車から避けさせた。

すごい。

父さんが同じことをやったら、たぶん自分から荷車にぶつかっていく。

しばらくすると、小さな本屋台の前を通った。

俺は立ち止まらなかった。

少なくとも、そのつもりだった。

三歩進んでから戻った。

屋台の端に、薄い本が一冊置かれていた。

表紙には、いくつかの種類の魔法を描いた絵が載っている。

母さんが俺を見ていた。

「欲しい?」

「いらない」

「さっきからずっと見てるけど」

「調べてるだけ」

「そう」

母さんはその本を手に取った。

「母さん、本当にいらないって」

「よかった」

店主に代金を払う。

「じゃあ、これは私のね」

眉をひそめた。

「母さん、魔法の本なんて読まないじゃん」

「これから読むかもしれないでしょ?」

本を見る。

母さんを見る。

「ずるい」

「じゃあ、ルークが読めば?」

そう言って、本を差し出してきた。

ただ俺が気に入ったというだけで、誰かが何かを買ってくれる。

それには、まだ慣れなかった。

「ありがとう」

母さんが微笑んだ。

「どういたしまして」

それからもしばらく歩いた。

母さんが俺を見る。

「今日は静かね」

「そんなことない」

「お父さんと同じくらい嘘が下手ね」

「そんなに下手?」

「もっとひどいわ。顔に全部出てるもの」

何も言わなかった。

本当は、母さんに聞きたいことがあった。

とても簡単な質問だった。

母さん。俺、大丈夫だよね?

でも、口には出せなかった。

なぜか声にしてしまったら、その可能性がもっと現実のものになってしまう気がした。

母さんが俺の手を少し強く握った。

「何かあったら、私に話していいのよ。分かってる?」

頷いた。

「分かってる」

それだけで十分だった。

その時、少し先から子どもの声が上がった。

「逃げた!」

小さな灰色の猫が、屋台の間を走り抜けていた。

その後ろを追う子どもは、人にぶつからないようにするだけで精いっぱいだ。

猫はそのまま、道を通っている荷車へ向かっていく。

俺は手を上げた。

「《囁く風》!」

道端にぶら下がっていた布が、風にあおられてふわりと舞い上がった。

猫は驚いて方向を変え、そのまま籠の後ろへ隠れた。

子どもが追いつき、猫を抱き上げる。

「ありがとう!」

「どういたしまして」

母さんが俺を見ていた。

「なに?」

「なんでもない」

母さんは微笑んだ。

「上手に使えたわね」

手を下ろす。

母さんにそう言ってもらえるのは、嬉しかった。

家に帰ると、父さんが玄関の前にいた。

俺たちの持っている荷物を見ると、すぐ近づいてくる。

「俺には何を買ってきた?」

「何も」

「こんなに長いこと買い物してたのに、俺には何もないのか?」

母さんがパンを一つ差し出した。

「はい」

父さんはパンを見つめた。

「なんて思いやりのある家族なんだ」

俺は持っていた本を少し背中に隠そうとした。

父さんはすぐに気づいた。

「後ろのそれはなんだ?」

「何もない」

「俺より嘘が下手だぞ」

「違う」

母さんが笑いながら口を挟んだ。

「市場で逃げた猫を捕まえるのを手伝ったのよ」

父さんの顔が明るくなった。

「じゃあ、お前も小さな追跡者になったわけだ」

「猫は目の前を走ってただけ。追跡なんてしてない」

「細かいことは気にするな」

「少なくとも、自分の足跡を追いかけたりはしてないよ」

父さんの顔が固まった。

母さんが父さんを見る。

「自分の足跡?」

沈黙。

俺は笑った。

ガレスのことが本当に好きになってきた。

「話を変えよう」と父さん。

「嫌よ」と母さん。

今日も父さんにとっては大変な一日になりそうだった。

夜になっても、腕にはまだ少し痛みが残っていた。

机の上には母さんが買ってくれた本が置いてある。

下の階からは、母さんと父さんの話し声が聞こえてきた。

ベッドに横になり、ここ数日のことを考える。

なぜだか、この暮らしがどんどん好きになっていた。

父さんとの訓練は疲れるけれど、楽しい。

たまに少しやりすぎるけど。

まあ、今日は母さんがちょうどいいところで助けに来てくれた。

母さんと一緒に町を歩くのも、思っていたよりずっと楽しかった。

こうやって家族と一緒に過ごすのって――

いいものなんだな。

こんな日がこれからも続くなら、

俺は全然嫌じゃなかった。

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