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第10話 明日も来て

なぜか、昨日父さんに言われたことが、次の日の朝になっても頭に残っていた。

「まだ友達の一人も作ってないやつから人間関係の助言をもらえるなんて、本当に助かるよ。ありがとう」

そのときは特に気にしていなかった。

でも、改めて考えてみると少し腹が立つ。

だって、父さんの言ったことは正しかったからだ。

俺には友達がいなかった。

本当に、一人も。

ベッドに寝転がったまま天井を見つめ、数秒考えてみる。

母さんは数に入らない。

父さんは絶対に入らない。

ミリアを友達と呼ぶのも、なんだか変だ。

ガレスまで数え始めたら、むしろ状況がもっと悲しく見える。

俺は四歳なのに、交友関係の平均年齢は四十歳くらいに見えた。

素晴らしい。

部屋の扉が開いた。

母さんが顔を覗かせる。

「起きてる?」

「残念ながら」

母さんが眉を上げた。

「残念ながら?」

「朝が嫌いなんだ」

俺は掛け布団を払いのけた。

母さんは笑った。

「支度して。町に行くわよ」

ベッドの端に腰を下ろす。

「また買い物?」

「今日は少しだけ」

俺は母さんを見た。

母さんも俺を見た。

「何?」

「前もそう言ってたよ」

「今日は本当に少しだけよ」

怪しい。

でも、ここで反論しても意味がないことはもう学んでいた。

三十分ほどして、俺たちは家を出た。

背後から父さんの声が飛んでくる。

「俺にも何か買ってきてくれ!」

母さんは振り返りもしなかった。

「仕事して」

「この家じゃ俺のありがたみが全然わかってもらえない」

俺は振り返った。

「前はパン買ってきたでしょ」

父さんは玄関先に立ったまま言った。

「あれはみんなのパンだっただろ」

「分け合うのはいいことだよ」

父さんの顔を見て、俺はそのまま歩き続けることにした。

隣で母さんが笑っていた。

「父さんを怒らせるの、好きね」

「簡単すぎるから」

「本人には言わないでね」

「もう知ってるよ」

町に近づくにつれて、道を行き交う人が増えていった。

天気はよかった。秋らしい涼しさが少しずつ感じられるようになっていたが、日差しはまだ暖かい。

道沿いの木々には、黄色くなり始めた葉も混じっていた。

町の入り口には何台かの荷車が止まっている。人々が袋を運び、木箱を下ろし、あちこちから値段を叫ぶ声が聞こえてきた。

どうやら母さんが言った通り、本当に用事は少しだけらしい。

最初に仕立屋へ寄った。

そのあと、乾燥させた薬草と小さな瓶をいくつか売っている年配の女性のところで買い物をした。

何に使うのか聞いてみると、

「家で使うの」

とだけ言われた。

何の説明にもなっていない。

でも、そこまで興味もなかったので、それ以上は聞かなかった。

三つ目の用事を済ませようとしたところで、母さんは知り合いに会った。

「エリサ!」

「久しぶり!」

二人は数秒もしないうちに話し始めた。

俺はその数歩後ろで立っていた。

最初は待った。

もう少し待った。

そして、これはすぐには終わらないなと悟った。

母さんは外に出ると、本当によくしゃべる。

家では穏やかで静かなのに、町に来ると知らない人なんて一人もいないんじゃないかと思うほどだった。

さっきまで布の話をしていた。

今は誰かの妹について話している。

このままいけば、次は町の税金の話でも始めそうだ。

俺は周囲を見回した。

道の向こうに、小さな木工所があった。

店先には木材や木箱、作りかけの家具らしきものがいくつか置かれている。

でも、俺の目を引いたのはそれじゃなかった。

店の脇で、一人の女の子がしゃがみ込んでいた。

目の前には、四つの車輪がついた小さな木製の何かがある。

たぶん、荷車のつもりなんだろう。

車輪の一つが横に傾いていた。

女の子はそれをもう一度はめ直そうとする。

失敗。

外す。

またはめる。

また外れる。

女の子は眉をひそめた。

もう一度。

また落ちた。

見ないほうがよかった。

本当に。

俺には関係ない。

女の子がもう一度試した。

車輪が地面を転がった。

我慢できなかった。

「そんなふうにつけたら、また外れるよ」

女の子が顔を上げた。

俺より少し背が高い。

薄茶色の髪を適当にまとめていて、何本かの髪が顔にかかっている。

女の子は目を細めた。

「外れないもん」

俺は地面を見た。

ちょうどその瞬間、車輪がまた落ちた。

それから女の子を見る。

向こうも俺を見る。

沈黙。

「また外れたよ」

女の子の眉間のしわがさらに深くなった。

「じゃあ、あんたがやってよ」

それは予想していなかった。

「俺が?」

「何でも知ってるみたいに言うから」

女の子は立ち上がり、腕を組んだ。

俺は荷車を見る。

次に女の子を見る。

母さんのところに戻って待ってればいい。

振り返った。

母さんはまだ話していた。

無理だ。

俺は女の子の隣にしゃがみ込んだ。

小さな荷車を手に取る。

原因はかなりわかりやすかった。

車輪を留めている木の軸が細すぎる。

「これ、誰が作ったの?」

「私」

もう一度見た。

「本当に?」

「お父さんがちょっと手伝ったけど」

「じゃあ、お父さんが作ったんだ」

「私が作ったの!」

「はいはい」

そんなに大声を出さなくてもいいのに。

木の軸を見る。

「ここ、もう少し太いものが必要だね」

「ない」

「じゃあ、縛るしかない」

「何で?」

いい質問だ。

周りを見回す。

木工所の脇に、細い紐の切れ端がいくつか落ちていた。

一本拾う。

「これ」

女の子が再び俺の隣にしゃがんだ。

「無理だよ」

「まだやってないけど」

「でも無理」

俺は彼女を見る。

「さっき俺が何でも知ってるみたいに言ってなかった?」

「からかっただけ」

「五歳なのに、もうそんなに性格悪いんだ」

女の子が勢いよく顔を上げた。

「なんで私が五歳だって知ってるの?」

俺は止まった。

知らない。

ただ、俺より少し年上に見えただけだ。

「違うの?」

女の子は少し胸を張った。

「五歳」

まるで何か大きなことを成し遂げたような顔だった。

「俺は四歳」

女の子の顔に小さな笑みが浮かぶ。

「じゃあ、私のほうがお姉さんだね」

おめでとう。年齢勝負は君の勝ちだ。

「そうだね」

「一歳も上」

「計算できて偉いね」

「もちろん!」

冗談だと気づいていなかった。

俺は木の周りに紐を巻き続ける。

女の子は俺の手元をじっと見ていた。

「名前は?」

「ルーク」

「ルークだけ?」

「ルーカス」

「私はテア」

「テアだけ?」

彼女は俺を見た。

「うん」

その言い方からすると、ずいぶん馬鹿な質問をしたと思われたらしい。

紐をしっかり結ぶ。

車輪を回してみた。

今度は外れない。

荷車を地面に置いた。

「できた」

テアはすぐに押した。

荷車が一メートルほど進む。

車輪は落ちなかった。

テアの顔がぱっと明るくなった。

「できた!」

「だから言ったでしょ」

完全に無視された。

荷車を引き戻して、また押す。

もう一度。

しばらくして、それがただの小さな荷車じゃないことに気づいた。

上には小さな木片がいくつか載っている。

「これ何?」

「商品」

「何の商品?」

「全部」

なるほど。

かなり高度な商売だった。

テアが荷車を俺のほうへ押した。

「ルークも遊んで」

「俺も?」

「うん」

「俺、四歳なんだけど?」

「うん」

「……」

この勝負は勝てそうになかった。

俺は荷車を押し返した。

テアが受け止める。

また俺に向かって押す。

しばらくそれを繰り返した。

意外なことに、そこまで悪くなかった。

テアは荷車を押すたびに、何か新しいものを載せていった。

最初は小さな石。

次は枝。

その次は、どこから拾ってきたのかわからない枯れ葉。

「これは?」

「パン」

俺は葉っぱを見る。

「ずいぶんひどいパンだね」

「じゃあ、ルークのはもっといいの?」

周りを見回す。

小さな丸い石を拾い、荷車に載せた。

「俺のはこれ」

テアが石を持ち上げた。

「石じゃん」

「そっちも葉っぱじゃん」

「これはパン」

「じゃあ、これはチーズ」

少し考える。

それからテアはうなずいた。

「わかった」

簡単に通った。

今度はさっきより少し強く荷車を押してきた。

俺は受け止めようと手を伸ばしたが、車輪が小石にぶつかった。

荷車が方向を変える。

そのまま道へ向かって転がり始めた。

テアの顔色が変わった。

「私の荷車!」

二人同時に立ち上がる。

小さな木の荷車は坂を下りながら速度を上げていった。

道の向こうから馬車が近づいている。

反射的に手を伸ばした。

風――

そこで止まる。

また、言葉にせず使うところだった。

「《囁く風》!」

空気がわずかに動くのを感じた。

風が小さな荷車の横からぶつかる。

荷車の進行方向が変わった。

馬車の進路から外れ、そのまま道端の干し草の山へ突っ込んだ。

テアが走っていく。

俺もあとを追った。

テアは干し草の中から荷車を取り出し、あちこち確認した。

「壊れてない」

「ならよかった」

テアが顔を上げた。

目が大きく見開かれていた。

「魔法使った」

「使ったね」

「本物の魔法」

「偽物の魔法もあるの?」

「もう一回やって」

「嫌だ」

「なんで?」

「すごく疲れるから」

「一回だけ」

「嫌」

「もう一回」

「嫌。やらない」

テアは少し考えた。

「半分だけ?」

俺は彼女を見た。

半分の魔法って、どうやるんだ。

「どうやるの、それ?」

テアは肩をすくめた。

「知らない。魔法使いなのはルークでしょ」

まるで当然の答えみたいに言った。

「ルーク」

母さんの声が聞こえ、振り返った。

少し離れたところでこちらを見ていた。

さっき話していた女性も隣にいる。

母さんの顔には見覚えのある笑みが浮かんでいた。

嫌な予感がする。

俺たちは母さんたちのところへ向かった。

テアもついてきた。

母さんは俺を見て、それからテアを見た。

「お友達ができたの?」

「違うよ」

同時にテアが言った。

「うん!」

俺は彼女を見る。

「いつ決まったの?」

「今」

「聞いてないけど」

「今言ったよ」

母さんは口元を手で隠していたが、笑っているのは丸わかりだった。

「ルーク」

「何?」

「なんでもないわ」

絶対に何かある。

テアの隣にいた女性が声をかけた。

「テア、そろそろ行くわよ」

テアは木の荷車を抱き上げた。

それから俺を見る。

「明日も来る?」

「わからない」

「来て」

「母さん次第」

テアはすぐ母さんに向き直った。

「明日も連れてきてくれますか?」

裏切り者。

母さんは少しも迷わなかった。

「たぶんね」

テアが笑った。

「わかった!」

そう言うと、女性のところへ走っていった。

数歩進んだところで振り返る。

「ルーク!」

「何?」

荷車を高く持ち上げた。

「明日はもっと速くするからね!」

「それ、絶対やめたほうがいいと思う!」

聞こえたかどうかはわからない。

テアは手を振って、そのまま去っていった。

母さんが俺の隣に来た。

俺たちは一緒に家へ向かって歩き始める。

しばらく何も言わなかった。

それが逆に気になった。

ついに耐えきれなくなった。

「言って」

「何を?」

「言いたいこと。ずっと笑ってるじゃん」

「何も言いたくないわよ」

母さんを見る。

まだ笑っていた。

「母さん」

「今日は楽しかった?」

「悪くなかったよ」

「テアとは仲良くしてたみたいだけど」

「荷車が壊れてたから」

「そう」

「直してあげただけ」

「そうね」

「そのあと、ちょっと遊んだだけ」

「そうね」

「友達じゃないから」

「私は何も言ってないけど?」

今度は俺が黙った。

しばらく歩く。

やがて母さんが言った。

「魔法も上手に使えたわね」

母さんを見る。

見てたのか。

「荷車が道に出そうだったから」

「わかってるわ」

家に着くと、父さんは庭にいた。

木剣を布で拭いている。

俺たちを見ると、すぐに立ち上がった。

「おかえり」

「ただいま……らしいよ」

父さんの視線が、俺たちの持っている袋へ向かった。

「俺には何を買ってきた?」

母さんが小さな包みを渡す。

父さんの顔が明るくなった。

開ける。

中には干し肉が入っていた。

「これこそ本物の愛だな」

「出かける前は、自分のありがたみをわかってくれないって言ってたじゃない」

「気が変わった」

靴を脱いで中へ入ろうとしたとき、母さんが口を開いた。

「ルーク、今日お友達ができたのよ」

俺はその場で止まった。

父さんが俺を見る。

次に母さんを見る。

また俺を見る。

ゆっくりと笑みが浮かんだ。

「やっとか」

「友達なんて作ってない」

「四年もかかったな」

「俺、四歳なんだけど!」

父さんが俺を指差した。

「ほら、また言った」

口を閉じた。

くそ。

母さんが笑った。

父さんが近づいてきて、俺の髪をぐしゃぐしゃにした。

「名前は?」

「テア」

「男の子か?」

「女の子」

父さんが少し笑いながら眉を上げる。

母さんがすぐに父さんを見た。

「ラルフ」

「何も言ってないだろ」

俺は二人を見る。

「俺、四歳なんだけど」

父さんは声を上げて笑った。

「もう本当に何にでも使うようになったな」

今度は何も言い返さなかった。

自分の部屋へ向かう間も、二人の笑い声が聞こえていた。

扉を閉めて、ベッドに腰を下ろす。

しばらくして、机の上に置かれた本が目に入った。

いつもなら、こういうときは本を開いていた。

魔法。

歴史。

この世界について、俺が知らない何か。

でもなぜか、頭に浮かんだのは小さな木の荷車だった。

それから、何度も落ちた車輪。

そして、

「私、五歳」

と、やたら誇らしそうな顔で言っていたテア。

自分が笑っていることに気づき、顔をしかめた。

馬鹿らしい。

今日初めて会っただけだ。

そもそも、明日また町へ行くかどうかだってわからない。

数秒考えた。

それから階下に向かって声を上げる。

「母さん!」

「なあに?」

「明日も町に行く?」

少しだけ間があった。

それから母さんの笑い声が聞こえた。

「さあ、どうかしらね!」

俺はベッドに寝転がった。

天井を見る。

昨日まで、俺には友達がいなかった。

今日は……。

もう、そう言い切れない気がした。

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