(5)妙なことに
翌日の昼休み。奈美は文系クラスの教室の前に来ていた。
教室をのぞくと、翔太がいた。しばらく翔太へ気付け目線を送っていると、やがて翔太と目が合った。翔太はゆっくりと立ち上がった。
翔太が教室から出てくる前に、奈美は歩き出した。今度は奈美が先頭に立って階段を上り、三階の美術室へ入った。
翔太も奈美に続いて美術室へ入った。
奈美は翔太に向き直って、言った。
「昨日の話だげど」
翔太の顔に緊張が走る。
「ごめんなさい」
「……そうが、分がった」
翔太は奈美に背を向け、美術室を出て行こうとした。翔太があまりにもあっさりしているので、奈美は慌てた。
「さっと待って」
翔太は立ち止まり、奈美の方へ振り返った。
「そいだけ?」
「えっ?」
「だから、なんでだって聞がねぁの?」
「聞いでどうするの?」
「どうするって、理由は気にならねぁの?」
「気にならねぐはねぁけども、聞いだどごろで気が変わるわげでもねぁべし」
(翔太って、おもしろい)
淡白で、しつこくないところがいい。奈美はこれまでも何人かの男子から告白されたことがあり、すべてお断りしたが、みんな断る理由を知りたがった。中にはしつこく聞いてくる男子もいて、うんざりした記憶がある。
「まあ、それはそうだげど……」
「じゃあ」
翔太はそう言うと、きびすを返してまた立ち去ろうとした。
「待って」
奈美が呼び止めると翔太は立ち止まり、再度奈美の方へ振り返った。
(何か、妙なことになった)
ふつう、告白する側が告白された側を呼び止めるものなのだろうが、この場合、あべこべになっている。
「きみは、どこの大学受げるの?」
「東京の大学受げるつもりだ。早稲田か慶応さ行ぎでゃんだ」
「へぇー、賢いんだね……私、東京の大学の薬学部受げるつもりなの」
「そうが、六年間大学通うのが?」
「そのつもりなの」
「まあ、お互いけっぱろうや」
「うん」
翔太は美術室を出て、立ち去った。大学生になったら東京で会おう、などと言わないところがまたいい、と奈美は思った。
(でも、やっぱり翔太とは大学生になっても付き合えない)
結局、自分は外見の好みが最優先なのだ、ということを奈美は改めて認識し、気持ちが沈んだ。




