14. 破断面は嘘をつかない
鋼騎士の体は、要のところほど鋳物でできている。機械は嘘をつかない。だが人が鍋に混ぜた嘘は、鋳物の中に残る。
鋳物の断面というのは、正直な顔をしている。
健やかな鋳込みなら、断面は細かく均質に光る。だが右脚継手の破断面には、二つの嘘の痕があった。一つは鬆――鋳込みのときに巣くった、小さな空洞の群れ。もう一つは、灯りの角度で浮かぶ、色の違う金属の縞である。断面は指の腹二つぶんの楕円で、その小さな面の中を、素性の違う何かが汗の筋のように流れていた。正規の鋳込みでは、俺は見たことのない縞である。材質の不適合――その疑いを、口の中で転がしてから、呑み込んだ。決めるのは、俺ではない。何が起きたにせよ、鍋の中のことを、断面は十五年経っても覚えている。
祖父の手帳の、二枚目の拓本を、破断した継手の脇に並べる。
拓本に写し取られた縁の刻印と、目の前の継手の刻印が、一致する。銘と、納めの番号まで、同じである。つまり折れたのは、どこかの誰かの部品ではない。十五年前に祖父が検めて、慣らして、異音なしと書いた、まさにその新品なのだ。祖父の耳は、旧い継手の濁りを正しく聴いていた。交換の判断も、正しい。新しい部品の中身だけが――音になる前の嘘を抱えていたのだ。隣で彼女が、手袋の指を握り込むのが分かる。
ただし――俺に言えるのは、ここまでである。
見える。重なる。だが、証明はできない。金属の中身を言い当てるのは冶金の学問で、俺の耳と目は学問ではない。だから、手順を踏む。
「親方。検分で材質の疑義が出ました。検収科と、監理局の立会いを求めます」
疑義の申し立ては、科の名ではなく、検分担当者の名で行う。個人の名で立てた疑義は、個人の責でしか取り下げられない。重い作法だが、今日ばかりは、その重さがありがたい。
白髭は破断面を一目見て、髭の奥で唸り、すぐに使いを走らせてくれた。
午後には、監理局の検分官と検収科のエミールが顔を揃える。
エミールは白手袋で継手に触れ、断面に灯りを当て、長いこと黙っていた。眼鏡の奥の目が、いつもの理屈の速さを失っている。継手の縁には、納入元の刻印がある。ギルドナー。彼の姓と同じ四文字であることに、この場の全員が気づいていて、誰も口にしない。エミール自身が、いちばん長く、その刻印を見ていた。
「……検収科として、この断面は看過できません。継手を取り外し、現状のまま保全します。判定は工廠試料室へ」
取り外しは、俺の手である。
十五年固着した締結を、締め歌の逆の拍で解いていく。よっつで黙った子を、みっつ、ふたつ、と順に起こす。急がせると、古い締結は必ず泣く。半刻かけて、継手は音もなく外れる。外れた継手は綿の敷かれた箱に収まり、検分官の封蝋が朱く落ちた。箱には預かり札。番号と日付と、立会人三人の名。札の写しは三部で、監理局と検収科と、俺の手元に残る。紙が一枚増えるたび、この部品の言い分は消しにくくなる。これでこの部品は、俺の手を離れても、誰の手も勝手には触れられない。
「保全の手続き、完了です。……カルデンさん」
エミールの声が、少しだけ硬い。
「この縞の意味を、あなたはどこまで」
「見えるところまでです。その先は、あんたたちの管轄だ」
彼は肯き、それ以上は言わない。ただ、箱を見る目に、理屈ではない何かが揺れていた。
検分の報せ書は、その晩のうちに書き上げる。
書き出しに迷い、結局、店の納品書と同じ書き出しにした。見たことを、見た順に。祖父の手帳の三行と、同じ書き方である。十五年を挟んで、カルデンの字が二度、同じ機体のことを書いている。断定は、どこにもない。それでも規程により、この紙の宛先は決まっている。監理卿。アイゼンガルテン侯爵、その人である。
清書を検める彼女の目が、宛名の上で止まる。
「……父に、届くのですね」
「筋は、通します」
短い言葉しか出てこない自分の口が、もどかしい。紙にできるのはここまでで、紙にできないことのために、俺たちはこの先の手を考えることになるのだろう。
紙は嘘を書かない。読む側が、どう読むかだけだ。彼女は宛名をもう一度なぞるように見て、静かに封をする。
数日後、報せ書は戻ってきた。
開封の跡すらない。表紙に、朱の印が一つ。
受理せず。
三文字――いや、四文字か。数えている場合ではないのに、頭の隅で数えていた。人というのは、受け止めきれない紙を前にすると、そういう下らないものを数えるらしい。
◇
手帳の余白より 夏中月十一日
爺やの拓本の刻印と、折れた継手の刻印が重なるところを、わたくしも横で見ていたのです。爺やは正しく聴き、正しく換えていました。折れたその部品の中には、音になる前の嘘。あの人は「証明はできない」と言って、その足で立会いを呼びました。断定しない人の言葉が、どうしてこんなに強いのでしょう。報せ書の宛名は、父です。筋は通します、とあの人は言いました。お母様、わたくしは祈っています。父が、印璽の人ではなく、あなたの夫として、あの紙を読んでくれますように。




