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第四章 はじめての贈り物 1




 それにしても大変なことになってしまった。

 鉱山地帯の街に行ってみましょう──、なんて、それがいかに大変なことかも考えずに安易に言ってしまったことも。

『正義の名のもとに』──、その生き様のために、首を突っ込んだ事件。それを解決したせいで、なぜか領地が増えてしまったことも。


「……はぁん……どうしてこうなっちゃったのかしらぁ……」


 増えてしまった責任感からくるため息なのか、足元の悪い山越からの疲労か。

 思わず溢れた吐息は、思っていたよりもはしたなくなってしまった。

 あ、スーさんに怒られちゃう……。そう思った時には、スーさんが私の左肩に手を乗せていた。


「凛様? 今の吐息は、喘ぎ声でしょうか?」


 スーさんの中性的で甘い声が、私に投げかけられる。私の顔を覗き込んできたスーさんの瞳は、綺麗な弧を描いている。けれど、それは笑っているのに笑っていない。美しいが故に気迫が半端ない。

 さすがは、教育係だわ。スーさんに怒られるこの感じ、なんだか久しぶりな気がするけれど、イケメン美女のお説教の迫力は、静かな龍の如しね。


「鈴華? そんなふうに頭ごなしに怒っては、凛様がびっくりしてしまうじゃない」


 すぐさまカカさんが救済の手を伸ばす。私の右肩を取って、スーさんの瞳に固まっている私を自分の胸元へと引き寄せた。

 ぽよん、とカカさんのカカさんが私の後頭部にふっくらと押し当てられる。


 だけど、私は知っている。実は、教育に厳しいのは……スーさんよりもカカさんなのだ。カカさんは私の頬に指先を這わせると、頬、口元、顎、首と指をするりと動かしながら、言葉を続ける。


「ほら? 凛様? もう一度、先ほどのあまぁ〜い喘ぎ声を吐き捨ててみてください? こんなに可愛い凛様が、男の喉元を擽ぐる夜の声を吐き捨てるという行為が、いかに危険なものなのか……、身を持って知る必要があるんでしょう。ほら、銀狼、あなたの男が反応してしまうのでは?」


 カカさんは恥ずかしげもなく、言ってのける。カカさんの手つきも相まって、私は一気に羞恥から顔を赤らめた。だけど、そうか……。ただの吐息も()()()()()に聞こえてしまうこともあるのか。

 私は七姫だ。どんなことがあろうとも、この身は将軍様のために──と、誓わされた姫の一人。私の一挙一動は、どこで誰に聞かれているかわからない。たった一つの間違いが身を滅ぼすことだってある。


 まぁ、私個人としては将軍様のお嫁様になるつもりは全然ないから、『姫として不適合!』とお払い箱になる分には都合が良いのだけど!


 とは言いつつも、私には分け与えられた領地を守るという責任もある。

 それに領民のみんなのことは、心から愛しているわ。

 だから、七姫としての私から簡単に逃げることができないのは、事実なのだ。


 ま、家出姫なんですけどね。


 なんて、頭の中で言い訳とか体裁とかをグルグル考えていると、

「うぉい! 俺を巻き込むんじゃねぇ!」と、叫びながら、銀之助が姿を現した。


「銀狼! お前、まさか凛様の美しい夜伽声で、興奮などしていまいな!?」


「おいおい、鈴華。寝言は寝ながら言ってくれ。俺が? このチビ姫で? 大人の色気で有名な俺だぜ? こんなおチビさんで興奮なんてするわけねぇだろ? そんなことしたら犯罪だぜ。俺を舐めないでくれよ?」


「まぁ、鈴華? 銀狼? あなたたち、二人ともはしたないですよ」


 スーさん、銀之助、カカさんの言葉が私の頭上を行き来している。そういえば、銀之助はいつも一緒にいるけれど、忍者としての任務のために姿を隠していることが多い。こうして、四人みんなで並んで山道を歩くのは珍しい。

 あぁでもない。

 こうでもない。

 三人の話を聞いていたら、私は自分の話をされているなんて事実を忘れて、おもわあず笑い出してしまった。


「あっははははは! なんだか、楽しいわね? こうして、みんなで並んで旅の道を行くのは」


「凛様! 口を開けて笑いすぎです!」と、スーさんが口を挟み、

「いいぞ、姫さん! もっと口を開けて馬鹿笑いしてやれ!」と、銀之助が煽り、

「まぁ! 凛様を『おバカ』扱いするのはダメですよ、銀狼? 確かに、少し抜けているところが可愛いんですけれど♡」と、さりげなく酷いことを言うカカさん。


 気がついた頃には、銀之助は忍術着から普段着へと一瞬で着替えを済ませていた。


「仕方ねぇ。たまには、こっちの格好で姫さんの旅について行くとするか!」


 こうして、私たちは改めて四人で旅を続けた。



 険しい山道もあと一つ越えたら目的地だ!

 いざゆかん、鉱山の街で有名な高山たかやまへ!





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