最初の村Ⅱ
勇者ノウムはノアを連れて歩いた。正直ノアに共にいられると不都合があるのだが、理由もなく追い返す訳にはいかなかった。変にノアとの不仲が噂になっては、勇者の名に傷が付く恐れがある。旅に出て早々名前に傷を付けると今後への影響は予想できない。
森の中は静かだった。夜遅く、村人たちも寝静まっている時間であるから、当然だろう。
だが、仄かな明かりが見えた。明かりは月光とはいえ、物の区別はできるほどに明るい。
「あれが見えるか」
声を潜める。
後ろを歩いていたノアは勇者ノウムの肩越しに様子を伺う。
仄かな青い光。月光とは別の儚さを秘めたそれは、彼らの体から発されるものだった。
ーええ。アンデット、というヤツですね。
ふと風が吹き荒れる。まるでノアの言葉に反応したようだった。
木々がざわめく。それは森に住む妖精たちからの忠告だった。近づくな、姿を見せるな、彼女が連れていってしまうぞ、と彼ら彼女らが訴える。
勇者ノウムは本能的に息を殺した。見つかった先の未来は用意に想像できたのである。行方不明の村人たちと同じ道を辿るだけである。
アンデットは一体だけだった。周囲に仲間は見当たらない。数だけでは、勇者ノウムが優勢である。
だが勇者ノウムが警戒する訳は、アンデットの特性にあった。アンデットは不死者とも言う。殺しても殺しきれない。そのため、討伐するには聖職者を連れる。
その聖職者はノアに当たる訳だが、ノアの様子がおかしい。
「大丈夫か」
ー何も感じないのですか。あれを見て。
ノアの体は震えていた。汗をかいており、顔色も随分悪いようだった。
どう見ても体調不良、では済ませられない。それに数分前までノアは健康そのものだったのである。
ノアを支えながら、勇者ノウムは考える。
今のところ、勇者ノウムたちは見つかっていない。このまま潜伏すれば、事態の急変がない限り助かる。だが、問題は他にある。
アンデットが向かう方向。それは村の中央である。一目に付く場所に向かわれては勇者ノウムの本領を発揮できない。何故ならば、勇者ノウムはあくまで勇者。人命救助を優先せねばならないからである。
アンデットに対してある程度の抵抗力をもつはずのノアが、ぐったりしている。その様子を見る限り、常人であればどうなるのか。その悲惨さは想像だにできない。
「堪えられそうか。俺は今からアイツを止めにいくから、安静にしているんだ。落ち着けば必ず、誰かを呼んでくる」
ー正気ですか。一人で仕留められるとでも言うんですか、相手はアンデット。死にませんよ。
不調でも口は回るらしい。ノアは揺れる視線を勇者ノウムに向ける。
だが、問題はない。勇者ノウムは胸に手を当てる。
「俺は勇者だからな。なんとかするしかない」
いざとなれば、村を捨てて逃げる。それは最終手段に残していた。




