「王子」との訣別
「まあ、席に着きなさい」
王様の声に、それぞれの椅子が引かれる。
「アルテミシア、此度の件、本当に感謝する」一応公式の席だからだろうか、嬢、は着けない。そう言って王様がグラスを上げた。王子もにこにこしていて、良かったなあ、と私は心から思った。そんな和やかな雰囲気を明らかに乱しているのはデパコスだった。
「…………エインズワース、前公爵とは随分と性格が違うと思っていたが、一皮剥けば同じであったな」
王様が苦笑して言った。
「少し、年寄りの昔話を聞いて貰おうか」そう言って王様は私に声をかける。
「ギネヴィアは、先代王の弟、当時の王弟の娘だった。だから私とは従姉妹になる。私より一歳歳上の、それは美しい女性だった。王家の至宝、身内では唯一の姫君だったから、叔父上はギネヴィアを王都から出すつもりは全くなかった。だから……先王と叔父上は、ギネヴィアを私に嫁がせるつもりだったらしい」
残念ながら私がそれを知ったのはギネヴィアがエインズワースにかっ攫われた後だった、そう言って王様はかっかっと笑った。「うむ、あの時は慚愧の念に耐えなかったな」そう続ける。初めて聞く話に王子も聞き入っていた。
「出会って、あっという間に求婚して、あっという間にエインズワースに連れて行ってしまった。そうして、エインズワースからは殆ど外へ出さなかった。叔父上が『ギネヴィアが王都に来てくれない……』と肩を落とされた様子を今でも覚えている」
アルテミシア、そう声をかけられて私は「はい、国王陛下」と答える。
「エインズワースの男の愛は重いぞ。今から覚悟しておく事だな」
あ、そうですね、何となく感じてはいましたよ、この男、重、とは。私は少し頬を染めたらしい。デパコスが纏う雰囲気が和らいだ。
「エインズワース」
今度は王様がデパコスに声をかける。
「王家は二代に渡ってエインズワースに勝ちを譲る形になったが、それも巡り合わせ。ユリウスには余計な事をさせないから安心して欲しい」
デパコスがにっこりと微笑んで軽く会釈をした。
「それから、ユリウスとリリベットの話、ギネヴィアとも相談したが、このまま進める方向で、エインズワースも構わないだろうか」
「御意」
もきゅもきゅと食事を口に運んでいた王子が顔を上げた。「え?オレと誰?何の話?」
「貴方の縁談ですよ」
デパコスの答えに、ええっ!と王子と私は声を揃えて叫んだ。
「だって、随分歳が離れてるんじゃない?王子………王太子殿下は25歳でしょ?リリは…………15?16?」
デパコスが不思議そうに顔を傾げた。
「俺と貴女より離れていませんよ。殿下は今20歳ですから」
ええっ!と2人の声がまた揃う。
「あのー、ちなみにクラレンス様とアルテミシアさんは幾つで………」
「貴女は18歳です」
「えっ!?25歳じゃないんですか!?」
デパコスが呆れた様な声を出した。
「25で未婚なら、明らかに行き遅れです」
いきおくれ…………無情な言葉に私は白目を剥いた。
「ちなみに、25歳なのは俺です」
良かった、こっちはタメだったか。私は年下の掌の上で転がされて動揺する様な趣味は持ち合わせていないのだ。でも、そっか。王子とリリベットかあ。王様が言うところの、所謂「巡り合わせ」ってやつなのだろうか。ちょっぴり寂しい。私は王子の気持ちが漸く少しだけ分かった。
「リリは、まだ子供ながら、とても人の気持ちが分かる子です。きっと殿下の良いパートナーとなり、殿下をお支えするでしょう。それに、殿下も貴女が信頼する程の男なら、安心してリリを託せます」
「え、ちょっと待って。オレ抜かして何話進めてんの!?そもそもリリって誰さ」
「…………俺の妹です」
デパコスの言葉に王子が嫌ーな顔をした。
「オマエと義兄弟になるって事?ちょっと、アルテと2人で話をさせて」
「………ダメに決まってるでしょう」
王様が苦笑いをしている。
「まあ、若い3人で話をすると良い。私は先に退室する」
そう言って立ち上がった陛下を、私達も立って見送った。
「なあ、アルテ。お願い、この流れ止めて」
「王太子殿下」
私の呼びかけに王子がん?と怪訝そうな表情になる。
「もう王様いないんだからさ、いつも通りに『王子』でいいじゃん」
「あのさ、聞いてくれる?私、デ………クラレンス様に全部話したの」
「全部、って入れ替わりの事?」オマエ、それ信じたの?とデパコスに尋ねる。
「信じましたよ。アルティが嘘を吐く理由がない。それに、水晶玉の奇跡も実際目にしましたから」
「それでね、私、今の私を受け入れてくれたクラレンス様と生きていこうと思ってる。だから………いつまでも昔の絆を引きずって『王子』と呼び続けるのはクラレンス様にも失礼だと思って」
長い沈黙の後、王子が「そか」と小さく呟いた。
「ここで生きていく、覚悟を決めたんだな」
うん、と頷く。
「だから『王子』は今日で最後」
いざとなると、女の方が肝が座ってるよなあ、そう言ってから、王子が縋るような目でデパコスを見た。
「一度だけ、アルテを抱きしめさせてくれないか」
「……………まあ、良いでしょう」不承不承と言った様子でデパコスが答えた。
立ち上がった王子は私の前に立った。私も立ち上がる。
本当に軽く抱きしめられた。
「さよなら『かとりん』」
私にも聞こえないくらいの小さな声だった。
さよなら…………「王子」私も小さく返す。
次回で最終回になります
ここまでのお付き合い、本当にありがとうございました
最終回は番外編と同時に投稿したいと思っておりますので
しばらくお時間頂戴します
宜しくお願い致します




