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王子と私とデパコスと  作者: えるぜ


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首筋の話

1人になって気が抜けたのだろう、私は急に睡魔に襲われ、ベッドに転がり込んだ。それから結構な時間眠ってしまったらしい。目が覚めても何だか体は重だるいし、私は寝るでもない、起きるでもないというだらだらとした至福の時間を味わっていた。


今日は、本当に色々な事があったものなあ、と考える。朝食を済ませて、午前の散策中にデパコスとファーストキ………キスして、そしたら王城から急使がやって来て、まさかの転移陣で移動して、それから………むかついたとか言ってデパコスが………


「ストップ!ストーップ!!」


私は叫んで両頬をぺちぺちと叩いた。良くない事を考えた時は、ストップ!と言って思考を遮断すると良い、とどこかの開運ブログで読んだ事がある。


「………百面相ですか?」


いきなりデパコスの声が聞こえて、私は飛び上がった。


「こ………ここで何を。まさか、何か良からぬ事をしてはいないでしょうね?」


デパコスは、持っていた書類をテーブルの上に置いた。


「何もしていませんよ。ただ寝顔を堪能していただけです。食欲も出たとかで元気になった王太子殿下が、いつこの部屋に来るか分かりませんからね」


寝顔、と聞いて私は袖で口元を拭った。まさか寝よだれとかは垂らしていないだろうね?私。


「お腹は空いていませんか?夕食の時間も近いですから、何か軽い物でも持たせましょうか」


お腹は空いていませんか?と言われた途端に私のお腹がぐうと鳴った。「素直ですね」そう言ってデパコスはドアの外で待機していたメイドさんに声をかけてくれた。そして程なく、野菜がたくさん煮込まれているスープと親指と人差し指で摘めそうな小さなサンドイッチが何切れか、届けられた。


「夕食は、国王陛下と王太子殿下、そして貴女と俺の4人で摂る手筈になったようです」


何そのロイヤル少人数。


「国王陛下も王太子殿下も、貴女の発案の装束に大満足されて、お礼も兼ねての夕食だそうです」


だからさあ、「王太子殿下」って言う度に苦虫噛み潰したような顔するのやめようず。


軽食をあっという間に平らげると、デパコスは満足そうに頷いた。


「ファーレンハイトのタウンハウスからドレスを届けさせてあります。俺としては、以前送ったドレスを身につけて欲しい所ですけれど、恐らく、姿見を見た貴女が嫌がるだろうと思いましたから」


姿見?鏡を見て何を嫌がるんだろう。何だか嫌な予感がして、私は立ち上がるとドレッサーの隣に置かれた大きな鏡の前に立った。

…………………………………「なんつー事を」


私は地獄の底からのような声を出した。国王陛下が私を見て、デパコスの事を『狭量だ』と言う筈だ。何も言わないでいてくれたお針子さん達、ありがとう。なんてこった。私は一日中首筋のキスマークを晒して動き回っていたらしい。


「襟の高いドレスを届けさせましたので大丈夫ですよ。俺としては………襟元の広いドレスで夕餐に出向いて欲しいですけれどね」


私は、ドレッサーの椅子の上に置かれたクッションを思い切りデパコスに投げつけた。それを片手で容易に受け止めると、デパコスは何が面白いのかくつくつと笑っている。


「では、席を外します。流石に王太子殿下も支度中のレディの部屋には入らないでしょうから」


そうして身支度をしてくれる侍女さん達と入れ替わったけれど、知らなかった時のように振る舞うのは難しい。


「本日はこちらをお召し頂く様に、と公爵様から承っております」


首まで繊細なレースで覆われている薄紫色のドレスだった。私を見ても何も言わず、淡々と仕事を進めてくれる事がありがたい。


「ドレスが薄紫色ですから、パリュールは公爵様から送られた物が宜しいでしょう」


ああ、あの紫からダイヤになるやつね、と私はげんなりした。

やがて、デパコスが夕餐へのエスコートにやって来た。


「そう言ったドレスも案外良いですね」


デパコスが私を見て言った。


「貴女の肌を誰にも見せないで済みます」


見せなくしたのは誰だよ!と心の中で叫ぶ。私は肩こり症なので、出来たら襟元は空いている方が楽なのに!王子の気持ちが良く分かった。

私達は、夕食の場として設えられたごく内輪の、家族が使う部屋に通された。家族待遇と言うのは大変名誉な事なんですよ、とデパコスが教えてくれた。そして、その部屋の中で立ったまま国王陛下と王太子殿下を待った。


「アルテ!」


部屋に飛び込んで来た王子がいきなり叫んだ。


「ありがとう!生き返った!!」


そのまま私を抱きしめようとする王子の首根っこを国王陛下が掴んだ。デパコスは私を両腕に包んで一歩下がった。王子の両手が空を切った。


「すまない。余程………アルテミシア嬢が作ってくれた服が気に入ったらしい」


まさかの王様からの謝罪で始まるディナーである。


「パジャマも作ってくれたんだって?もう楽しみ。今晩寝るのが楽しみでしょうがない」


王様に襟首を掴まれたまま王子が言った。


「………アルティが作った訳ではありません」


デパコスが低い声で言った。


「『パジャマ』とは何ですか?面妖な」


「え?寝巻き。寝る時着るやつ」


「それも、アルティが作った訳ではありません。あくまで、意匠を伝えただけです」


だから何でそんな喧嘩腰なんだよ!

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