試作初号機
では何故バイヤスで服を作ろうと思ったか。それは、以前スギコ・デラックスのドレスは全てバイヤス断ちだと聞いた事があったからだ。あのゆったりとしたドレスを更にバイヤスで仕立てる。さぞかし着心地が良いんだろうなあ、と思ったものだ。ちなみに、バイヤスで型紙を置くとかなり無駄が出るため、デラックスドレスは用尺が6メートルも必要だとか。今回もかなりの量の布地を使いそうだけれど、王様んちだったら大丈夫だろう。
リネン室の前には既にお針子さん達が待機していた。
「お世話をかけます。早速ですが、なるべく使い込んで柔らかくなった布地を選びたいので中を案内して下さい」
リネン室には、様々な種類や大きさの布が綺麗に畳まれて積まれていた。
「使い込まれた物、と言うとこちらになります」
1人のお針子さんが隅の方の棚に案内をしてくれた。
「こちらは、掃除担当のメイド達が、掃除対象に合った布を選んで切り出して使っている布地です」
そうそう、こういうやつ。そこにはくたくたになった木綿や麻、そしてネルがあった。
「これが良いです!この素材でなるべく大きな物。シーツくらいあったら最適ですね、それをそうですね、10枚程、リンゼイさん達がいる部屋に運んで下さい」
縫製場所はどこになったのかな、と考えていると「国王陛下が正餐室を使うように、と仰って下さいました。広いし、大きなテーブルを運び込まなくてもそのまま使えるから、と」
ナイス王様。太っ腹だ。正餐室のテーブルは確かにバカでかい。30人で使っても問題ないだろう。そして、私達が正餐室へ入ると、リンゼイさん達は既に作業を始めていた。
「社交も会議もしばらくございませんし、当座ここ数日、執務室でお召しになる簡単な服を先に作ってしまいます。それからご予定に合わせた服を順次ご用意致します」
さすがトップ、良く分かっていらっしゃる。
「では、夜着の説明をします。布地は角を上にして、布の正目では使わないで下さいね。常に布地に対して45度、つまり」と、私は紙の一枚を手に取り、一度折って、もう一回折って広げた。「この角度で裁断して下さい」
「斜めに裁断すると生地が伸び易いですけれど、夜着なので適当で良いです。縫っている間に伸びてしまったら、長い方をカットしちゃって下さい」
そしてもう一枚の紙に下手くそな絵を描き始めた。スギコのドレスは確か、襟元は三角形だった記憶があるけれど、それよりもドレープの方がゆったりするだろう。
「こう、前の方は肩の所をくちゃっとさせて、胸元がだらっとするような…………」
歴史の教科書の、誰か見た事でもあんのかい!と突っ込んだ縄文人の貫頭衣のようなイラストである。伝わるだろうか。
「ああ、前見頃の肩口をタックのように折り畳んで、胸元にドレープを作れば良いんですね」
やっぱり、ドレスを仕立てているだけある。私の縄文人を見て、皆が即座に理解してくれた。
「そう、それでズボンの方なんだけど、これもやはり斜めに裁断して、ウエストには紐を通して、好きな位置で結べるようにしておいてくれる?あ、それと、上下とも今の殿下より2サイズ大きく」
分かりました、と皆が大きく頷いてくれる。
私は、お針子さん達が切り出した生地をトルソーに当てて、ドレープの具合を確認したりしていた。残念ながら縫製に手を出す技術はない。
「アルテミシア様、1着出来上がりました」
えっ!速!!
20人で手分けをしたと言ってもまだ2時間も経っていない。
「とりあえず試着をして頂いて参ります。着心地を伺って、直す所は直しましょう」
そう言ってリンゼイさんは出来上がったばかりの服を抱えて部屋を出て行った。出て行った………が、中々戻って来ない。どうしたんだろう、と思案していると、やがてリンゼイさんがから手で戻って来た。
「ど、どうだった!?着心地はどうだって?」
と咳き込むように尋ねると、リンゼイさんが困ったような表情を浮かべた。
「お召し替えをお手伝いしたのですが、着替えられた瞬間に、膝を曲げたり伸ばしたり、体を後ろへと反らしたり、奇妙な動きをなさって………『凄い、ラジオ体操も出来そう』と」
そういう訳の分からない一言付け加えてんじゃねーよ、とは思ったが、どうやら着心地は悪くなかったらしい。
「それで、お直しは?」
「はい、いくつか改善点をご指摘頂きましたが、今日はもうこれを脱がない、と仰って………。2着目は改善した物を今日中にお届け致します」
良かった、と私はほっと胸を撫で下ろした。
「久し振りに食欲が湧いて来た、とまで仰って頂いて、部屋中の者が安堵致しました」
リンゼイさんは少し涙ぐんでいる。私ももらい泣きしそうになった所で、デパコスの声が間に入った。
「どうやら指示は通って、これ以上貴女がここにいる必要はなさそうですね。彼女達も完全に作り方を理解しています。昼食もまだですし、それ以上に、少し休んで下さい」
デパコスの言葉に、お針子さん達が一斉に頷いた。
「まさか、私共が出来る事で王太子殿下をお助け出来る日が来ようとは思ってもみませんでした。アルテミシア様のお陰で、私共も一生の思い出が出来ました。どうぞ、後はお任せ下さい」
リンゼイさんがそう言うと、皆一様に頭を下げる。
「そ、そう?じゃあ、後は任せる。もし何か分からない事があったら遠慮なく聞きに来て」
私達は、いつもの私の部屋へ戻った。
「食欲は、ありますか?転移酔はもう大丈夫ですか?」
転移酔、してたけど、その後何か強烈な事があってそれどころではなかった気がす……………あ。
ある意味『仕事』をしていたためすっかり忘れていた。そうだった。なんかやばいキスをされたんだったっけ。
「どうかしましたか?まだ幾分気分が良くありませんか?」そうデパコスが尋ねる。おう、まだ幾分気分が良くないともさ!!
「分かりました。では俺は席を外しますので、少し休んで下さい。それから………これ以上布地には触れないように」
何で?と私は頭を傾げた。針とか残ってたら危ないからかな。
「これ以上、王太子殿下が身につける物に触れないで下さい」
王様が言っていた。『随分と狭量だ』と。全くもってその通りだ。
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