エインズワースの朝
後書に番外編のお知らせがあります
宜しければご覧下さい
私達の結婚式は半年後、と決まった。元々半年後の予定だったが、事故の為に延期案が出ていたのだ。けれどデパコスが延期はしない、と言い張った。
「父の真似をするつもりです。王太子殿下が弱気になっているこの隙は逃しません。攫って結婚して、王都には俺が一緒の時だけは、まあ、来ても良いでしょう」
とことん狭量な男だ。
「え、じゃあ式はどこで挙げるの?エインズワース?」
私達は再び穏やかなエインズワースの日々に戻っていた。ハルと私とハナと、状態である。両親は、記憶の件もあるし、もう少し様子を見て、次の社交シーズンに王都で大々的な式を挙げたらどうか、と言っていた。
「いえ、療養中であるからこそ、エインズワースで身内だけの式を挙げて、社交シーズンになったら王侯貴族を招いた大掛かりなお披露目をします」
ギネヴィア様はこの件に関しては何も言わなかった。ご自分の結婚も急だったからだろうか。幸いエインズワースとファーレンハイトはそれほど離れてはいない。私達は両方を行ったり来たりしながら準備をしていた。本来なら思い出の品や、どうしても持って行きたい物が山ほどあって悩みまくる作業なのだろうが、それは私の思い出ではないし、ごく淡々と荷造りをする。
そんなある日、王太子殿下から結婚の贈り物だという箱が届いた。箱を開く時にはもちろんデパコスも同席である。器の小せえ男だな!と私は思った。小箱の中には見事なブラックダイヤモンドをこれでもかとあしらった髪飾りが入っていた。
「相変わらず大人気ない人ですね。他人の婚約者に貴金属を贈るとは……」
デパコスが不機嫌に呟いた。でも私には分かった。これは、日本人の色だ。そっと胸に抱えようとすると、いきなりデパコスに髪飾りを奪われた。
「貴女にこの色は似合わない」
あんたも大概大人気ない。私だってそれは分かってる。今の私にはこの色は似合わない。だけどね………
「これは、『王子』と『かとりん』の色なんだ………」
そう呟くと、デパコスは髪飾りを返してくれた。
「………ファーレンハイトには貴女の思い出の品は全くないでしょうから、持っているのは、まあ、構わないです。でも、身には着けないで下さいね」
しょーがねえなあ、と私は笑って頷いた。
そんなふうに、和やかに睦まじく日々は過ぎ、やがて式当日がやって来た。雲一つない晴天の下、私達は馬車で領内で1番格式が高いという教会へと向かった。
「とても、綺麗です」
馬車の中でデパコスが言った。いや、とても綺麗なのは貴方でしょうが、と心で突っ込む。式の後、バルコニーに出ると、領民の皆さんが歓声を上げて私達を祝ってくれた。この後、お酒やお料理も大盤振る舞いされるらしい。私達も家族で中餐を取り、やがてギネヴィア様、リリ、両親は領内の綺麗な湖の側に建つ荘園へと小旅行に出かけて行った。
「……やっと2人きりになれたね、とかベタな事言わないで下さいよ」と、少し緊張して声が震える。「え?いや、今ちょうどそう思っていた所ですけれど」と、デパコスがしれっと言った。
「冗談ですよ。今日は朝から早かったから少し休んで下さい。また、夕食の時に」
確かに疲れていた。ここは言われるように休もう。それに………夜はやはり夜のお勤めがあるんだろうか。いやでも、デパコスは優しいから「今日は休んで下さい」とか言ってくれるかもしれない。結局、数時間後にはその見込みが甘かった事に気づくのだけれど…………
ベッドに横になったけれど、緊張と不安で目が冴えてしまう。食事中は何度もフォークを落とした。
翌朝、私は這うようにして主寝室から女主人の部屋へ戻った。幸いな事に誰もいない。多分私に配慮してくれたんだろう。私はバスルームで「げっ」とか「うわっ」とか意味不明の叫び声を上げながら入浴を済ませると、用意してくれてあったローブを着て、泥のように眠った。
「………アルテミシア様?」
優しい声が響いた。ああ、シンディさんだ。色々気を遣ってくれて本当にありがとう。
「お目覚めでしたら、公爵様がご機嫌伺いにいらっしゃいたい、と」
「ああ、じゃあ着替えますね」
そう言って私はのろのろと立ち上がった。
「あの……今日は自分で着替えます」
「畏まりました」シンディさんは何も聞かずに部屋から出て行ってくれた。暫くして、またシンディさんの声が聞こえた。
「ご準備は宜しいでしょうか。公爵様をお通し致します」
顔からどころか口からも火を吹きそうだ。やがて部屋に入って来たデパコスは、大きな花束を抱えていた。「ありがとうございます」そう言って花束を受け取った私は香りを嗅ぐフリをして顔を隠した。
「大丈夫ですか?朝食も昼食も摂らないで眠っていると聞いて心配していました。もう夕方です。あまりいつまでも寝とぼけていると、俺が節操のない男だと思われてしまいます」そう言ってデパコスはくすっと笑った。
節操のない………男だと思われてしまいます、くすっ……………だ、と?くらりと目眩がした。私は花束でその頭を殴ってやろうかと思ったが、いや、花に罪はない。思われてしまいますも何も、昨夜も今朝も節操の「せ」の字もなかっただろうが!
シンディさんが躊躇いがちに言ってくれた。
「あの………ギネヴィア様から……くれぐれもアルテミシア様を労るように、と言付かっておりますので」
何もかも分かっているから大丈夫、とその眼差しは言っていた。
シンディさんー!そしてギネヴィア様!いやお義母様!ありがとう。私は感涙に咽んだ。
エインズワースの朝は夕方から始まった。
「エインズワースの愛は重いぞ、今から覚悟しておくように」
王様、仰る通りでしたよ。重過ぎて押し潰されそうです。
だけど、多分私はここで幸せになれるだろう。お互いを大事に思って、先代公爵ご夫妻のように「相思相愛」だ、と言われる人生を歩みたい。
デパコスと一緒に。
完
ありがとうございました!
読んで下さった皆様、本当にありがとうございました
おかげさまで無事完結出来ました
少しずつページビューが増えて行く事が大変励みになりました
ヤンデレ系コメディと、視点を変えずに書く事は私にはかなり高いハードルでした
もし皆様の日々のほんの少しのお楽しみになっていたのであればとても嬉しいです
番外編ですが、年齢制限を設けましたので、こちらのサイトでは
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それでは皆様、またいつかお会い出来る日を楽しみにしております




