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王子と私とデパコスと  作者: えるぜ


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27/35

翌朝

デパコスの私室の扉からノックの音が響いた。起きあがろうとして私は頭を抱える。頭痛が痛い。馬から落馬レベルに痛い。「ちょっと待って」と声をかけたが、無情にもドアは開かれてしまった。

あれ?鍵、掛けなかったっけ。そう言えば掛けた記憶がない。


「ちょっ!乙女の寝室に!しかもまだ寝巻きのままだって言うのに何勝手に入って来てんの!」


と、叫んだが、デパコスは恐ろしく機嫌が悪い。


「あれほど、鍵を掛けて下さいと言ったのに」


あ、そうでしたね、すみませんと頭を下げれば、ズキンと後頭部に痛みが走る。


「今後、俺がいない所では決して酒を飲まないで下さい」


「あー、そんなに泥酔しました?」


「気持ちは良さそうでしたけれどね、とにかく危機感が全く無かった。他の男の前では絶対に飲まないで下さい。貴女………昨夜俺にキスした事、覚えていますか?」


えええ!まさかの爆弾発言である。


「ど…………どこに………」


「………教えてあげません」


デパコスが意地悪そうに言った。


「まさか、唇、じゃあないよね」


「以前にも言いましたよね。ファーストキスはきちんと胸に刻んで欲しい、と。それは、貴女が素面の時に俺からします」


どうやら唇ではないらしい。私は心の中で「セーフ!セーフ!」と呟いた。そして私を揶揄って多少溜飲を下げたらしいデパコスの表情も和らいだ。


「お説教はこのくらいにしておきましょう。とにかく、今晩は必ず鍵を掛けて下さい。俺の精神力が保ちません」


はあ、さいですか。

いざとなったらこんなドア一枚脚で蹴破れそうな気はしたけれど、ここは素直に従っておきましょう。


「あのー、頭が痛いのでお水と、何か痛み止めみたいな薬があったら欲しいんだけど……」


そう言うと、デパコスが頷いた。


「二日酔い用のハーブを用意させますね」


…………ああ、やっと出て行ってくれた。私は頭を抱えて再びベッドに倒れ込んだ。ハルとハナが心配そうに私の顔を覗き込んでいる。昨日は天国だったのになあ………、と私は嘆息した。やはりこの体はアルコールを殆ど受け付けないらしい。いや、だが忍者は毎日成長して行く竹を飛び越える事で日々少しずつ跳躍力が増すと聞いた事がある。「練習は自分を裏切らない」これはハラディの座右の銘。

つまり、あれだ。閃いた。

ねちねちと文句を言われたけれど、要するにデパコスの前では飲んでもいい、という事ではないか!エインズワースにいる間自分を鍛え直そう。私はぐっと拳を握り締めた。


やがて、お着替え担当のお姉さんが、トレイに水と薬草のような物を乗せて持って来てくれた。乾燥した薬草は綺麗にすり潰されていて飲みやすそうだった。先ずは「おくすり」を飲み、水を口に含むと私は猛烈に喉が渇いている事に気がついた。お姉さんがパンと手を打つと、水差しを携えた別のお姉さんがするすると入って来て、コップに注いでくれる。


「今日は、少し楽なドレスに致しましょうね。ネックレスや耳飾りも、頭痛の負担になりますから辞めておいて。代わりにプリザーブドフラワーをお耳の上に一輪飾りましょう」


そう言うと、お姉さんは水差し姉さんに「プリザーブドフラワーを何色か、ドレスに合わせるから色々持って来て頂戴」と言った。


「コルセットも不要で、なるべくゆったりとした作りと言うと……」


そう言って、何着かを選んでくれた。優しいお姉さんだなあ。


「あの………お名前を教えて頂けますか?」


私はおずおずと尋ねた。お姉さんはハッとした表情をして、丁寧に頭を下げた。


「先に名乗らず大変失礼を申し上げました。私は、アルテミシア様ご逗留中主にお手伝いをさせて頂きます、当家の侍女、シンディと申します」


「シンディさん?どうぞ宜しくお願い致します」


「どうぞ、シンディと。それから水差しを持って入って来た者が、私の補佐をするローラでございます」


「あのー、じゃあ、シンディ?昨夜私の着替えをして下さったのも貴女、ですか?」


はい、そうです。とシンディが答えた。


「私、どんな感じでした?昨夜の事、殆ど覚えていないんです」


シンディがくすりと笑った。


「それはそれはお幸せそうなご様子でしたよ。私まで抱きつかれたくらいです。お着替えが済むとベッドに飛び込んでハルとハナの胸に頭を埋めて、すーはーすーはー、と………」


「あ、いいです。もう止めてください」


聞いているこちらが恥ずかしい。そら確かにデパコスにも抱きついたりキスしたりもするだろう。悶々としているうちに、私は頭痛が治まっている事に気付いた。まあ、二日酔いの薬なんて初めて飲んだんだろうし、耐性が無ければスムーズに効くんだなあ。私は、忍者の跳躍訓練を始める決意を新たにした。


「おはようございます」


シンディは、淡いクリーム色の軽いドレスを選んでくれた。耳元にも色味を揃えた花一輪。一輪ほどの美しさ、てな出来栄えである。


「おはよう。今日の装いも素敵ですね」


さっきまでのねちねちが嘘のような爽やかな笑顔でデパコスが返事をした。


「おはよう、良く………眠れたか?」


言外に「あの部屋で」感を醸し出しながらギネヴィア様が尋ねる。


「ええ、記憶がないくらいぐっすり眠れました。ありがとうございます」


それなら良かった、と納得したようなしていないような返事が返って来た。


「おはようございます!お義姉様!後で、お時間のある時にお義姉様のお部屋に伺っても宜しいでしょうか。お義姉様と是非恋バナを!」


え、ああ、恋バナ。

どうやら私は酔っ払って、貴女のお兄様に不埒な真似を働いたようです、というのは果たして恋バナなんだろうか、と私は逡巡した。

読んで下さってありがとうございます^_^

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