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王子と私とデパコスと  作者: えるぜ


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23/35

エインズワース領へ向かいます

すみません

アキは以前使った事のある名前なのでハルとハナに変えました

そうして、その日がやって来た。

準備は万端。エインズワースまでは馬車で5泊の旅程だと言う。

迎えに来てくれたデパコスは、私の手を取って、邪魔が入らずに貴女をエインズワースにお連れできるとは思っていませんでした、と囁いた。


まあ、王子も中嶋室長にこってり絞られたようだし、ここは口を挟まないだろう。

勧められるままに馬車に乗り込む。ぽくぽくと私を気遣ってか、馬車はゆっくりと進む。


「馬車に長い時間乗るのは負担でしょう。なるべくゆっくり、休みを取りながら進みますから」


そう言うゆっくりとした旅は、当然何泊も一緒に過ごす事になる。私は、デパコスと3食を共にし、午後のお茶の時間を過ごし、かつてない程沢山の話をした。夕食の時間には、私を気遣ってかアルコールを嗜まず、同じ果実水やお茶を飲むデパコスは、夕食後、談話室でのひと時、一杯だけ何かを飲んでいた。その日の気分によって選び、楽しそうに飲んでいる。そして、見るからにアルコール度数が高そうな透明な液体をストレートで飲んでも、顔色ひとつ変えない。よほどお酒には強いらしい。


「そんなに強くて好きなら、もっと飲めば良いのに」


一度そう尋ねたら、理性のタガが外れたら困りますからね、と答えられた。

絡み酒かな?それとも笑い上戸とか泣き上戸とか。


「ちょっと見てみたい気もする」


そう言うと、デパコスが少し目を眇めてこちらを見た。


「…………まあ、時が来たら。その時になって『そんなつもりじゃなかった』などと言わないで下さいね」


よっぽど酒癖が悪いんだな、と私は呑気に考えた。

5泊の間、就寝前まで談話室で話し込み、私はデパコスの家族についても色々と教えて貰った。領地には前公爵夫人であるデパコスのお母さん、それから社交界デビュー前の年若い妹、そして何と2頭の犬がいると言うではないですか!

妹と犬。日本で欲しかった1番と2番!

父が早逝した上、母親も再婚しなかったので妹は諦めた。そして、しがないアパート暮らしでは犬を飼う事は出来なかった。いつか自立してペット可の部屋に住み、大型犬を買う事、それは私の長年の夢だった。

犬種は…………どうだろう、この世界での犬種名はまた違うかもしれない。でも、こちらの人の名前も普通に西洋人っぽいから、もしかしたら共通しているかもしれない。


「あのう………犬種は?」


私は恐る恐る尋ねた。


「ゴールデンですよ。とても大きいです」


「ゴールデンレトリバーキターーーーーー!!!」


最推しの犬種に絶叫する私をデパコスが不思議そうに首を傾げて見ている。


「そんなにお好きなら、王宮でもファーレンハイトのタウンハウスでも、子犬から飼えば良いではないですか」


思いつかなかった!


「名前は?男の子?女の子?」


「両方とも雌です。名前は、ハルとハナ」


「ハルとハナ、何て素敵な」


阿呆面を晒してはいるが、私とてTOEIC900点台である。HalとHanna、とは聞き取った。でもここはハルとハナ。まあとにかく、細けえ事は良いんだよ。私はエインズワースにウキウキと向かった。

向かった………が、毎晩寝る前に部屋まで私を送ってくれたデパコスが、柔らかく私を抱きしめて、耳元で「おやすみなさい」と囁く事には閉口した。


やがて長い旅が終わる。

門扉をくぐってからもなかなかお屋敷は見えて来ない。どんだけ広いんだろう、と考えているとやがて大邸宅が見えて来た。車寄せの近くまで到着すると、2頭のゴールデンが玄関前で大人しく待っている。


「人は大好きで、とても大人しい仔達ですが、初対面の相手には少し遠慮をするかも知れません。案外びびりなんですよ」


デパコスが笑って言った。そうか、それは少し残念。

やがて馬車がゆっくりと止まり、私は先に降りたデパコスに手を取られてステップを降りた。犬、犬、犬、とそちらを見ると、もの凄い勢いで尻尾を振っている。


「よーし!来い!!」


車寄せは石畳だ。念のため私は芝生まで下がって中腰になり踏ん張る。両手を広げてそう叫んだ瞬間、ハルとハナがこちらに駆け寄って来た。…………デカい。おまけに速い。私の踏ん張りなど何にもならなかった。


「ハル!ハナ!待て!!」


デパコスが大声を上げたけれど2頭は止まらない。私はその巨体を受け止めて芝生にひっくり返った。と、思ったが、一頭が着地する私の頭の下にあっという間に回り込んで衝撃を受け止めてくれた。そして2頭揃って私の顔をべろべろと舐めて来た。私は、頭を守ってくれた犬の前足を持ち上げると、その肉球の香りを思い切り吸い込んだ。


おお!これが噂のポップコーン臭!

私の顔は舐められ回され、また自分でも変な泣き笑いをして、ぐちゃぐちゃになっていた。よっこらしょ、と起き上がり、そのまま地べたに座り、両腕をそれぞれの犬の首に回して胸元の飾り毛の感触を楽しんでいた。

ふと、あ、やべと思ってデパコスの方を見ると、デパコスと、彼の大声に驚いて出て来たであろう、良く似た美少女が驚いたような顔でこちらを見ている。


「お兄様、あの方…………絶対に手放さないように。あの2頭が最初からあんなに歓迎するなんて、よほどの善性の持ち主でいらっしゃいますわ」


「勿論、手放すつもりは毛頭ない」


兄妹がそんな会話をしている事も、私の耳にまでは届かない。




読んで下さってありがとうございます^_^

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