パーリーその後
どうしよう、と私は思った。
相手は「月が綺麗ですね」では納得しないだろう。どうしよう、でも変に遠回しに伝えても拗らせそうだし。
その時私は閃いた。そうだ!デパコスみたいにあっさりと伝えればいいんだ!だから言った。
「好きですよ」
ほらね!簡単じゃん。
「………顔だけじゃなくて、中身もですか?」
「好きですよ」
はい、スムーズ。
「王太子殿下よりも………俺の事が好きですか?」
「好きですよ」
私は微笑み始めてしまった。だって、デパコスの事好きなのは本当だし、この頃動悸がどーきどきしてるし。女は度胸。言ってしまえばこんなに簡単な事だったんだ。
「俺は…………執着するし、束縛する男ですよ?それでも………」
「だから好きだって言ってんでしょうが」
ついに私は笑い出してしまった。
「何ですかそれ。自分から欠点晒して。あれですか?過去にそういったご経験があって、それでフラれたとか」
「……………そんな女性はいません。執着も束縛もごく最近知った感情です。貴女のせいです」
気がつくとデパコスが真っ赤になっていた。袖口で顔を隠すように覆っている。
「俺が『好きです』と言う度に、どうして貴女が顔を赤くしていたか良く判りました。大変に………破壊力がありますね」
飲み物を取って来ます、とデパコスが言った。少し時間がかかったような気はしたけれど、戻って来た時にはもう普段通りの表情をしていた。手にはシャンパングラスを2つ持っている。1つを私に渡しながら「では、貴女が俺を好きだと言ってくれたこの日に乾杯しましょう」と言う。
今度は私が赤面する番だった。この負けず嫌い、絶対何と言ったら私が頬を染めるか考えていたに違いない。
とりあえず、冷たいシャンパンは私の動揺を抑え、先刻の王子とデパコスの喧騒で緊張していた気持ちを落ち着かせてくれた。
「ラストダンスの時間です。最後もお相手お願い出来ますか?」
喜んで、そう言って私はデパコスの手を取った。
翌朝。
疲れてはいるけれど、社畜、いや王畜?に休みはない。いつもの時間に私は王子の執務室へと向かった。
「………………おはよう」
王子の機嫌が恐ろしく悪い。そりゃ気持ちは分かる。たった2人で異世界に放り込まれて、もし王子が先にラブラブな彼女を作ってしまったら、私だって取り残されたような、哀しい気持ちになるだろう。だけど、だからと言ってそれを邪魔したりなんかしないよ!?王子が先に幸せになってくれるのならそれを喜ぼうじゃないの。……………と言っても実際にそうだったら素直に喜べたかは自信がない。
「女官達が大騒ぎしてた。オマエが…………デパコスに『好きだ』って何回も言って、デパコスが真っ赤になってた、って。そりゃもう眼福だった、ってね」
「…………王子が『デブノート』とかつまらん話するからでしょ。そこからの流れなんだから、私に当たらないでくれるかな」
あーあ、と言って王子が頭の後ろで腕を組み、だらしなく背もたれにもたれかかった。
「オレも、婚活でもしようかな」
「あ、良いんじゃない?王子は今だって見目麗しいんだし、何しろ本物の王子様なんだからさ、よりどりみどり。きっと素敵な人が見つかるよ」
「オマエって、本当に悪気なく人を抉るよね」
前だって言っただろう、中嶋室長に毎日身を固めろと言われる事がどれだけ重圧か、って。
王子は一つため息をついた。
「昨日の説教はきつかったわ。こってり絞られた。お互い好ましく思い合っている長年の婚約者同士に何故口を挟む、お前はアルテミシア嬢がいなければ1人で立っている事も出来ないのか、情けないにも程がある、後はもう色々言われ過ぎて記憶が拒絶したわ」
ああ、そりゃお気の毒だったわね、とは思う。とは思うけれど、王子は王子で自分の人生を進まなきゃならない。生涯独身で跡継ぎを残さない事も許されない事は自分でも分かっているのだろう。
「きっと………いるよ。王子の良い所分かってくれる人が。投げやりになっちゃだめだよ」
我ながら説得力のない言葉が出た。
「……………アルテ以上に?」
王子が小さく呟いた。
「そう言えば、エインズワース領に行くんだつてな。いつから?」
王子が話題を変えてくれたので私は少しほっとした。
「来週から、3か月の予定」
そっか、3か月もアルテに会えないのか。寂しくなるな、と王子がぽつりと言った。
そうは言っても執務をこなしながら3か月の滞在の荷造りは大変だ。王宮に置いてある物はほぼ当座しのぎのドレスや宝飾品。私は度々ファーレンハイトのタウンハウスに戻ってはそこでも荷造りをし、纏めて行った。
「アルティ、必要な物があったら何でも言ってね」
と、おかーさんが言ってくれる。
「前エインズワース公爵は既にお亡くなりあそばしていらっしゃるけれど、ギネヴィア前公爵夫人は厳しい方だと聞くわ」
ギネヴィア様かあ、アーサー王の奥さんとおんなじ名前だなあ、と、私はまだ会った事もないその女性に仄かな憧れを抱いていた。しかも厳しい、と。社畜の血が騒ぎます。
「そうですね…………では、失礼のないドレスを後数点、お願い出来ますでしょうか」
勿論よ!と、おかーさんは嬉しそうに言っった。
「後は、ファーレンハイト秘蔵の宝石を見繕って用意しておくわね。…………エインズワース様のお色はこの家にはなかったから、そちらも準備させましょう」
まるで自分が嫁に行くように楽しそうだなあ、と私は思った。
こんな気持ちを亡くなった母親にもさせてあげたかった、なあ、と思った。
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