パーリーナイト!終宴
王子がゆっくりと振り向いた。
何故か嫌な感じに笑っている。
「そか、良く考えたらただそれだけの事なんだな」
ふむふむと頷きながら、良い助言をありがとう、と続けた。
「オマエはさ、アルテ1人の為に、領地や領民を危険な目に遭わせるような真似は絶対にしないだろ?そんなバカじゃない。だからエインズワースは守られる。その代わり、アルテを失った事を永遠に後悔し続けて、誰とも人生を共にせず、孤独に歳を取って行くんだ。そのうち、アルテの代わりに守った領民達を憎み始めて、領民達からも嫌われる。………目に浮かぶようだ」
「勝手な物語を創造しないで下さい。殿下こそ、アルティを得ることで、エインズワースからはこの先何の援助も期待出来なくなりますよ。飢饉が起きても災害が起こっても、疫病やひいては戦が起こったとしても我々は国のためには一切動きません。さしずめ殿下は女に血迷った愚王と呼ばれるようになるでしょう。そして、王国の人々はそのせいでアルティを憎むようになる。そんな哀れな王妃の座にアルティを?殿下こそそんな馬鹿ではないでしょう」
………………子供の喧嘩か、と私は思った。
お互い無駄に弁が立つためにやたらと緊迫した雰囲気ではあるが、言っている事は「オマエのバカ」「馬鹿って言ったやつが馬鹿なんですよ」レベルである。
「だからさ、助言をありがとうって言ったの。オレがこの国をエインズワースを必要としない程強くしたら解決する話だろう」
「では俺も、エインズワースを国家を揺るがす力を持つ、独立も成し得る領地にします」
意地っ張り同士だなあ。
誰か止めてくれないだろうか。
そう思った時、低い声が響いた。
「いい加減にしなさい、ユリウス。見苦しい」
声のした場所を見るとそこには国王陛下がいらした。デパコスは咄嗟に軽く礼をし、私もカーテシーの礼を取る。
王子だけが何のリアクションも起こさなかったけれど、目元が少し赤くなっているのはさすがに恥ずかしいからだろう。
子供の喧嘩に親が出る、状態だもんなあ。ただし、この場合親は子供を諌めてくれるらしい。これで「事故もあった事だし、確かにアルテミシア嬢の婚約は一度白紙に戻した方が………」などと言い始めたらたまった物ではない。
「そもそも、エインズワースとファーレンハイトの縁組は、もう10年近くも前から決まっていた事だ。それに対してお前は一度も異を唱えた事はないし、2人に対してもごく穏やかに友人として振る舞っていた。お前の様子がおかしくなったのは事故の後からだ。確かに記憶が曖昧だと言う状況には同情する。けれど」
国王陛下は冷たい声で続けた。
「お前の気持ちは『恋』ではない。同病に相憐んで欲しいと言う単なる我儘だ」
さすが一国の王様である。
言う事に筋が通っているし、王子も返事も出来ないでいる。
「エインズワース、申し訳なかった」
国王陛下に謝罪をされて、デパコスも返事が出来ないでいる。
お前ら、ただのしかばねになってるぞ、と心の中で突っ込む。
「アルテミシア嬢にも謝罪する。あくまで確認だと考えてくれ。貴嬢は、王太子に対してなんらかの感情を抱いているか?」
私は少しの間思案した。
「そうですね…………強いて言えば『同士』のような情はあります」
そうか、と国王陛下が呟いた。そしてデパコスに向かって言う。
「それにしても、貴公も随分と変わられた。決して婚約者を蔑ろにしてはいなかったとは思うが、もっと淡々と接していたような気がする。以前の貴公だったら、王太子の要請に『ああ、良いですよ』とあっさりとアルテミシア嬢を手放していただろうに」
そこで国王陛下は小さく笑った。
「仲睦まじくて何よりだ。うちの馬鹿息子の事は放っておきなさい。しばらくしたら2人でエインズワース領へ向かうと聞いている。ギネヴィアも、仲の良い2人を見れば肩の荷が降りるだろう」
「………過分なお言葉、ありがとうございます。仰る通り、俺の彼女に対する感情は確かに変わりました。これは多分…………『恋』です」
ふっと、国王陛下が先程よりも大きく微笑んだ。
「ギネヴィアは大切な従姉妹だ。彼女が喜ぶ事は私の喜びでもある。アルテミシア嬢の気持ちは…………その真っ赤な顔から簡単に想像出来るな」
かっかっと笑う姿、水戸黄門かよ、と私は懊悩を隠した。
多分、恋です。
そう言う事人前で言うかな!!!
「ほら、若い者には若い者同士の時間を与えなさい」
襟首を掴まれるような状態で王子は玉座近くに引っ張られて行った。
「…………ちょっとどきどきしましたよ」
ん?とデパコスが目で問いかけた。
「あのまま、よし、決闘だ!みたいな流れになったらどうしようかと。…………子供じゃないんですからあんな馬鹿げた口喧嘩は辞めて下さい」
「そうですね…………貴女の事になると全く余裕がなくなる。俺自身も戸惑っているんです。さっきだって殿下と踊っていた時………」
そう言ってデパコスが私の目を真っ直ぐに見つめた。
「……………とても楽しそうに笑っていた。俺は、胸が痛むと言う体験を初めてしました」
ああ!あれか、と私はすぐに思い至った。
「王子が……………クラレンス様がデブになる呪いをかけてやる、なんて言ったものですから」
そして私はうふふと笑う。
「多分、私は貴方がデブでも好きだと思う、って。そうしたら自然に楽しい気持ちになって……………」
「え?」
とデパコスが驚いたように言った。
「え?」
何で驚くんだろう。
「顔や…………胸板じゃなくて。例え俺がデブでも俺を好きだと思ってくれているんですか?」
しまった。
胸の内をさらけ出し過ぎた。
「………アルティ」
デパコスの声が少し掠れていた。
「俺の事を、好きですか?」
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