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王子と私とデパコスと  作者: えるぜ


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19/35

パーリーナイト!準備です!

いよいよ社交シーズン最期を締め括る夜会が3日後に迫って来ていた。

聞いた話によると、社交はシーズン開始が要。友好を深めるにも交渉に当たるにも、また子供達の良き相手を探すためにも、ほぼ全貴族、爵位に関わらず顔を揃えるタイミングの方が何かと都合が良いらしい。

そして、目的を果たした貴族達は、徐々に領地へと戻って行く。

結局、最期の大夜会と舞踏会には、王都にタウンハウスを持つ高位貴族か、あるいは家族や使用人諸共宿に長逗留出来る財力がある貴族達しか残らない………らしい。

つまり、大物揃いなのだ。

でも、今回は両親も一緒だし何かと心強いなあ、と私はのんびりと構えていた。

その時、ノックの音が響いた。


「どうぞ」


と声をかけると、侍女さん達が箱を抱えてぞろぞろと入室して来る。


「エインズワース公爵様からのドレスとアクセサリーをお届けに参りました」


そうだった。

今回は、おかーさんが是非ドレスを見立てたいと言っていたのに、デパコスがどうしても自分が用意したいと言って聞かなかったのだ。


………どうせまた何か嘘臭い話でもして、善良な夫婦を手玉に取ったに違いない。

結局、デパコスがドレスを新調する事になったのだけれど、それが届いた、と。


一番最後に、私の身長と体型に合わせたトルソーを抱えた侍女さんがいる。


「さあ、ではまずはドレスから」


シワにならないようにと、ウエスト部分だけ一箇所畳まれたドレスは、長持ちのような箱に入っている。


いや、この箱、畳一畳分くらいあるんじゃね?という有様である。

蓋が開かれた。


ま、眩しい。

一瞬眩しくて何も見えなくなった。

白銀のシルクタフタ。襟元は鎖骨がギリギリ見えるか見えないかの絶妙なライン。

侍女さん達は丁寧な手つきでトルソーにドレスを設えた。


「………まあ、なんて綺麗な」


1人がうっとりと呟いた。

上半身にはアメジストが散らされ、やがてそれが薄紫の刺繍に変わる。刺繍糸の色はどんどん薄くなり、スカート部分は完全に銀糸の刺繍になっていた。


「これは………あれですよね!」


また別のお姉さんがうっとりと呟く。


「アルテミシア様に、徐々にご自分の色に染まって欲しい、という公爵様の意匠ですよね!!」


きゃあきゃあ!と、近くにいた者同士で手を取り合ってはしゃいでいる。


え、そういう意図なんですか?

それって普通に気持ち悪くないですか?そこ、はしゃぐとこなんですか?

私は眉毛がくるんと一回転したようなあほ面を晒していた。


「さあ、次はパリュールですわ!」


まだ上気した様な表情で次の箱を抱えたお姉さんが言った。


「えーとその、パリュールとはなんぞ、と」


ああ、と少し傷ましそうな表情をして宝石箱を抱えたお姉さんが言った。


「私共が勝手に舞い上がってはしゃいでしまって申し訳ありません。……………パリュールは、同じ石を使ってセットになった装飾品の事を指します。前回も全て同じ石で揃えて下さった公爵様ですから、拝見しなくともパリュールである、と愚考致しました。


そう言って、ぱかっと蓋を開く。


……………眩しい。目眩を起こしそうだ。


やはりパリュールですね、と箱の中を見た侍女さんがにっこりと笑う。


「これは、もう……………私、辛抱溜まりませんわ!」


1人が叫ぶ様に言った。


「ええ!ドレスと同じ。間違いありませんわ!!」


しかと頷く2人の侍女さんは手を取り合った。

髪飾りはカチューシャの形をしていた。プラチナの台にあしらわれる石は、両側の耳元はアメジスト、そこからどこでどうやって見つけたのか、薄紫色のダイヤモンド?いや分からんけど。そして中心にはどでかいダイヤモンドが鎮座していた。

イヤリングも然り。

薄紫から始まってダイヤへ。

ネックレスも……………ああもういいです。

説明の必要もない程明らかな執着を感じる。


「……………変態か?」


私の呟きに侍女さんがた、一斉に首を傾げる。


「ごく普通の事ですよ?確かに………これだけの石を揃えるのは大変な事でいらしたと思いますが」


「愛されていらっしゃるんですね、アルテミシア様」


なんか涙ぐんでいる人までいる。

これがごく普通、と思える感性が凄い。「月が綺麗ですね」で済ませる日本人には逆立ちしたって無理ゲーだわ。


「差し出がましいようですが、午後のお散歩の時には、きちんと御礼をお伝え下さいね」


私はげんなりした。

げんなりはしたけれど、お散歩の時間は無常にもやって来る。


「えーとあの、ドレスとか色々ありがとうございました」


嫌な事はさっさと済ませるに限る。

私は迎えに来たデパコスにいきなり伝えた。


「……………引きましたか?」


まさかの返事に、私は一瞬言葉に詰まった。


「引く、って分かっていて誂えたんですか?」


「ええ、貴女なら多分引くだろうなと思っていましたよ」


何が面白いのか、デパコスが小さな声で笑っていた。


「少しは………俺の気持ちは伝わりましたか?」


デパコスが首を傾げて私の顔を見た。


「あ…………ええと、侍女のお姉さんがたが色々教えてくれましたので…………まあ、多分」


それは良かった。とデパコスが笑った。


「それでも今日、俺の顔を見ても貴女が嫌な顔をしなかった事で、心からほっとしているんですよ」


本当は、着飾った貴女を人前になんか出したくないんですけどね……………王太子殿下の前には殊更、とまたデパコスが剣呑な台詞を吐き始めた。


「でもそうも言っていられませんからね。ある意味、我々の義務ですから。ですから…………あのドレスを贈らせて頂きました」


愛されていらっしゃるんですね、と言った侍女さんの言葉が蘇って、私は頬を染めた。


「可愛らしいですね」


デパコスが言った。


「普段の貴女からは想像出来ないような素直な反応を見ると、そのギャップに俺はまた恋をしてしまいます」


クララのバカ……………

私は一発芸を使ってしまった事を心の底から後悔しながら思った。




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