~80話~ガームの厄日と叡斗家の記念日
風呂から上がり、メイサの料理に感動してから結界の中でぐっすりと眠る奴隷達を見ながら紅茶をすする3人。
「明日はどうするの?」
「金貨1枚を渡して自由行動させますわ。」
「逃げ放題だね?」
「ここで逃げるような者はいつか裏切りますわ。」
「なるほど!逃げた奴隷は即所有権破棄でいいんだね?」
「そうですわね?」
「で?俺達は?」
「馬車の購入と食料の買出しをしてギルドを更地に戻すくらいですわね。」
「ギルマスが道具を返したら更地は無しだからね?」
「わかって御座います。」
「じゃあ俺達も寝ようか?」
「では今日の晩御飯を作って頂けなかった代わりに魔素を!」
「今日は抵抗しないでおくよ。」
「ではゆっくりと頂くことにしましょう。」
叡斗とメイサがテントに入り、オリーブがメイサから預かったマジックバッグで後片付けをしてオリーブ用のテントへと入って行く。
「おはよう、メイサ。」
「おはようございます、ダーリン!」
「メイサくるしいです。」
メイサが万力のような力で抱き付いて叡斗の両腕から骨のきしむ音が聞こえる。
「んふーんふー!よし行きましょう!」
メイサに腕を折られながら首筋のにおいを嗅がれた叡斗
「朝一で負傷かよ・・・」
自分にエクストラヒールをかけてメイサと着替えてテントから出ると、オリーブが奴隷達に指示を出して、朝食を作っていた。
「おはようございます、御主人様と奥様は座ってお待ちください。」
「わかった、だがオリーブ材料はあったのか?」
「これからの予定を伺っておりますので、今日は質素な物でよろしいと愚考致しました。」
「確かにそうだな!明日からちゃんとしたものを食べさせればいいな?」
「その通りですわね!さすがはオリーブです!」
「勿体ないお言葉ありがとうございます。」
オリーブがうやうやしくお辞儀をして調理場へ戻り奴隷達に指示を出す。
「オリーブ張り切ってるな?」
「後輩が出来て嬉しいのでしょうね?」
張り切ったオリーブの指示で質素な朝食が終わりメイサが全員に金貨1枚を渡して、日暮れに南門に集合とだけ伝えて、奴隷達と別れて叡斗達は市場へと向かい、マジックバッグに見せかけた皮袋にどんどんと買った食料を入れながらメイサとオリーブの買物に着いて行く。
「終わった?」
「こんなものでしょうね?」
「はい、おそらく買い忘れはないかと。」
「じゃあ昼御飯にしようか?」
「そうですわね!」
「人気のお店がこちらにあるそうですよ?」
「ならそこ行こう!」
「さすがはオリーブですわ!」
オリーブの案内で人気の店に着くが行列が出来ていた
「さすがは人気の店だな・・・」
「ここは何料理が人気ですの?」
「私は何かさっぱりですがモツ煮込みが絶品だそうです。」
「モツ煮込みか!並ぼう!」
「モツ煮込みとは何ですの?」
「地球と一緒なら内臓料理だよ?」
「おいしいんですの?」
「内臓ですか。」
「うーん・・・ちゃんと調理してるなら美味しいよ?」
「ダーリンが言うなら食べてみましょうか。」
「そうですね。」
行列に並ぶが回転率がいいのだろう、すぐに店の中に入って席に着いた途端にモツ煮込みが運ばれてくる。
「あれ?まだ注文してないよ?」
「この店はこれだけだよ!1人銅貨70枚だよ!」
忙しそうに気の強そうなおばちゃんがモツ煮込みが入った皿とパンと机に置きながら言う
「じゃあもう1人前づつ追加で!」
「あいよ!」
叡斗が代金を机に出して言う。
「美味しいですわね・・・」
「これが内臓なのですか・・・」
味噌味でしっかりと下処理をしているのであろう、全く臭いもクセもなく美味しい。
「ダーリンこれは作れませんの?」
「内臓は下処理しないと臭くて食べれないからな・・・」
「ダーリンでも無理なのですね・・・」
「さすがに内臓の処理は知らない!」
「残念ですわね。」
「御主人様でも出来ない事があるのですね・・・」
わかりやすく落胆するメイサとオリーブ。
「今度どうにか頑張ってみるよ・・・で?次は?」
「次は馬車を買いに行きましょう!」
「馬車がいくらかわかんないけど、お金大丈夫なの?」
「私はまだ1500枚近くあるので大丈夫でしょう?」
「ラプター車ほどの値段じゃ無い事を願うよ。」
「では参りましょう!」
昼食を終え、商業地区の外れに行くと何十頭もの馬が放牧されている、運動場が併設された建物にメイサとオリーブに着いて行く叡斗。
「店主?冒険者用の馬車を5台と馬を買いたいのですがおいくらかしら?」
「メイサ単刀直入すぎない?」
「姉ちゃんわかりやすくていいねぇ!何人乗りの馬車が欲しいんだ?」
「6人乗りで!」
「なら馬車5台で金貨60枚、馬10頭で金貨100枚でどうだ!?」
「えらい、分かりやすい数字ですわね?」
「豪快な買い方だから、こっちも豪快に半端をまけたんだ!」
「ではこちらが代金です!いつぐらいに準備が完了しますか?」
「ハーネスとかの調整はあるから・・・1時間は欲しいな、すぐいるか?」
「いえ!夕暮れでよろしいので取りに伺いますわね?」
「街の中ならどこでも夕暮れに持って行ってやらぁ!」
「では南門にお願いできますか?」
「任せとけ!綺麗な姉ちゃん達のためだ喜んでやるぜ!ガハハハ」
「ではダーリン行きましょうか?」
「はい!」
「兄ちゃん大変そうだががんばれよ!」
「ありがとねおっちゃん!」
「おう!」
メイサとオリーブがさっさと店を出て行くので、急いで後を着いて行く叡斗。
「メイサ待って!どこ行くの?」
「少し早いですがギルドに行きましょうか?」
「善は急げですね?」
「その通りですわ!」
2人がシャドーボクシングをしながら言う
「メイサもオリーブも暴れたいだけだろ?」
「あれから大体一日と半です!今なければあと数時間まっても同じですわ!」
「そうです奥様の言う通りです。」
「ちょっ!目立つって!」
メイサとオリーブが人ごみをさけて屋根から屋根へと飛び移ってギルドへと向かう。
「さて!鉄槌の時間ですわね?」
「そうですね。」
「2人共?その大金槌は何?」
「カジノの景品ですわ。」
「やはり素手では壊れ方が物足りなかったので。」
「まずは話し合いだからな!?」
「わかってますってば!」
「私達は冷静でございます。」
「そうは見えないよぉ!」
メイサとオリーブが大金槌を肩に担いでズンズンとギルマスの部屋へと進んで行く。
「あら?ノックしたら扉が壊れましたわ?」
「ガタが来て解体し頃ですね?」
「道具は・・・少々お待ちください!」
ギルドマスターガームがスライディング土下座で壊れた扉の破片を気にせず滑ってきた。
「話し合いを・・・いやもういいです、2人に任せます。」
叡斗がガームへの怒りを忘れ、むしろこれからを考えて哀れみだす。
「少々とはどれくらいでしょうか?」
「あと1時間もすればラプター車がギルドへ着くはずでございますです!」
「では1時間待ちましょう、オリーブ?」
「只今16時14分23秒です。」
「では17時14分23秒まで待ちましょう。」
メイサとオリーブがそう言ってソファに座る。
足元にはコンパネのような板が置いてあり、オリーブが空けた穴を隠している。
「ダーリン?どうぞお掛けになって?」
「あ、はい。」
「あの・・・こちらが道具ですご確認を。」
ガームがエイト達の武具とマジックバッグを机の上に丁寧に置いて行く。
「俺は・・・確かに全部だ!」
「私は・・・斧が入ってませんが?」
「へ!?斧ですか!?誰か!誰かおらぬか!?」
叡斗とオリーブがマジックバッグの中を確かめると、オリーブの<爆裂の斧>が入ってないようで、ガームが慌てて人を呼ぶ。
「あれはマジックウェポンですのよ?」
「御主人様からのプレゼントです。」
「すぐに!すぐに探しますので!」
青筋を立てた二人に腰を抜かしながら答えるガーム。
「まぁまぁ・・・また作ればいいじゃん?」
「御主人様がそう仰るなら。」
「ではマジックウェポン代ギルドを破壊して帰りましょう。」
「マジックウェポン代なんて・・・建物が崩壊してもお釣りが出ます!」
「あら?わかりやすくてよくなくって?」
「そうですね、戻ってこなければ更地に戻せばいいのですね?」
「その通りですわ!オリーブ楽しみですわね?」
「只今16時36分43秒です。」
「あと37分40秒ですわね?時間が中々経ちませんわね。」
「しょ、少々失礼します!」
脂汗で服がビショビショのガームが部屋から飛び出して行く。
「奥様あと3分です。」
「ギルマスは逃げたのかしらね?」
「モツの処理ってどうやったっけなぁ?大変そうなのは覚えてるけどそ中身覚えてないもんな・・・」
メイサとオリーブは大金槌を肩に背負ってソワソワとして、叡斗は現実逃避に走る。
「奥様時間です。」
「ではまず1階に下りましょう!」
「かしこまりました。」
オリーブが大金槌を床に振り下ろし、轟音と共に大穴が開きメイサとオリーブが舞う粉塵の中に消えて行き、すぐにまた轟音が鳴り響くので、叡斗はゆっくりと階段から1階に下りて行くと粉塵が舞う中、土下座をするガームがいた。
「お待ちください!」
「1時間待ちましたが?」
「泥棒が頭を下げても意味がありませんね。」
「こ・・・こちらを!」
冒険者が重たそうに2人がかりで<爆裂の斧>を持ってきて、オリーブが片手でひょいと持上げマジックバッグにしまう。
「確かに。」
「壊した所は1時間をオーバーしたペナルティでよろしいかしら?」
「はい!結構でございます!」
「車もありますの?」
「はい表に!」
「ではダーリン?行きますわよ?」
「はいはーい。」
ギルドから出ると人だかりが出来ていて、ラプター車までなんとか辿り着いて南門へと出発する。
「さぁ!どれだけの奴隷が戻ってくるかな?」
「そんな事よりもあのギルマスの顔を見ましたか?」
「痛快でしたね。」
「俺は思い出したくないから、話を振ったのに戻すな!」
「これでウラジールでは気兼ねなく暴れられますわね?」
「もうこの国に未練はありません。」
「本部ぶっ壊したからねぇ!床ぶち抜いて人が死んでないのが不思議だよ!」
「あとは彼らがどれだけ暴れてくれるかですわね?」
「特訓はお任せください。」
「どれくらいを予定してるの?」
「20人程残ると仮定してどれくらいで武具を作り終えられます?」
「ネックレス・・・腕輪・・・武器くらいは作るか・・・」
「魔素をギリギリまで使って2週間って所かな?」
「では余裕を持って3週間ウンテントラムに留まる予定では如何です?」
「わかった!頑張るよ!」
「カジノの景品を渡して起きますのでお好きに使ってくださいな?」
「ありがとうね!って多いな!」
メイサがマジックバッグから先ほどの大金槌を含め、武器屋が開けるくらいの量を渡してくる。
「これだけあれば大丈夫でしょう?」
「多分な!」
「これでマジックバッグに物を入れられますわ!」
「いっぱいいっぱいだったんだ?」
「景品を優先したので、安物の机などは捨ててしまいましたわ・・・」
「それでいつも使ってた机がなかったのか。」
「新しい家の中に品のいい机がありましたのでそれを使いましょう?」
「わかった!まずはウンテントラムに着いて引越しだな!」
「御主人様南門に到着致しました。」
「誰かいるか?」
「馬屋の店主と奴隷が8名待機してます。」
「じゃあ俺達も行こうか?」
「そうですわね!」
叡斗とメイサが車から降りると馬屋の店主が気付いて
「おう!来たな!?」
「待たせちゃったかな?」
「今来た所だ!これで引渡しは完了だな?」
「問題無い!おっちゃんありがとね!」
「気にすんな商売だからな!ガハハハ」
店主が快活に笑いながら、ノシノシと店の方向へと帰って行く。
「あなた達の中で御者が出来るものは?」
メイサが奴隷達に声をかけると全員が手を挙げる。
「では好きな馬車に荷物を乗せて御者台にお乗りなさい?そして日没になったら出発致します!」
「「「「「「「「はい!」」」」」」」」
奴隷達が一斉に返事をして5台の馬車へと乗り込んで行く。
「8人の中の6人は欠損奴隷でしたわね?」
「オリーブもそうだがやはり恭順になるんだな?」
「フフ!ダーリンは簡単にしてますが、奇跡ですわよ?」
「お?5人くらい帰ってきたぞ?」
「これで13人、あと5人くらいは戻ってきて欲しいですわね。」
「まだ日没までは1時間はあるから帰ってくるんじゃない?」
帰ってきた奴隷達に指示を出すオリーブを眺めながら2人が話す。
「ふむ・・・日没ですわね?」
「18人か・・・こんなもんか?」
「ん?1人帰って来ましたが喧嘩したのでしょうか?」
「どうした?ん?人を引き摺ってるな?」
叡斗とメイサが奴隷に近づき
「おかえり!そいつはどうした?」
「こいつが逃げようと提案して来たので叩き伏せて連れて来ました!」
「そっか・・・どこでも逃げていいぞ?」
叡斗がエクストラヒールとキュアをかけて、気がついた奴隷に言う。
「へ?」
「逃げたいんだろ?さっさと逃げな?お前は逃げないんだな?」
「はい!俺は冒険者になります!」
「なら乗れる馬車に乗れ!出発するぞ!?」
「わかりました!」
走って逃げる奴隷をほっといてラプター車と馬車が隊列を組んで南門から出発する。
「ここらへんで夜営にしましょうか?」
「かしこまりました、もう少し行くと川があるはずなのでそこで。」
「オリーブに一任致します!」
「はい。」
「では私達はご飯を作りますので、ダーリンは点呼をして逃げた奴隷の契約書を破棄して下さる?」
「合点!」
すぐに車が止まり、メイサとオリーブが手際よく料理を作って、叡斗が点呼をして返事のない契約者を破り捨てる。
「じゃあ19人!君達は俺達の家族だ!奴隷として扱うつもりはないからそのつもりで!」
「発言よろしいですか?」
茶髪の女性が手を挙げる。
「えーと両足が無かった、ソフィアだっけ?奴隷じゃないんだ自由に発言していいぞ?」
「では失礼して!これからどこに向かって何をするんでしょうか?」
「ウンテントラムに行って、しばらくはメイサとオリーブの戦闘特訓を受けてもらう!」
「その間の宿代などはどうするんですか!?」
「家があるから宿代は心配するな!」
「我々を冒険者にしてエイト様に何の得が?」
「えーと・・・逃げようとした奴隷を捕まえたカイルだっけ?」
「名前を覚えてもらってありがとうございます!」
「俺は神ヨハンに召喚された召喚人だから、困ってる人を助けて、神ヨハンの教えを広めてもらいたい!」
「そんなに強くなれますか?」
「それはお前ら次第だ!この中の半分はSランクになってもらうつもりだ!」
奴隷達がざわめくが気にせず叡斗が続ける。
「みんな寝具は買ったな?とりあえず適当に分かれて今日と明日はこのテントで寝てくれ!」
叡斗が奴隷を待ってる間に作った<ワンタッチテント改>を広げて奴隷達に見せてから収納状態の<ワンタッチテント改>を4個奴隷達に渡す。
「料理が出来ましたわ!」
「皆さん配膳して下さい。」
オリーブの指示でテントに群がっていた奴隷達が配膳を始める。
「メイサの得意料理のクリームシチューか!」
「まずは胃袋を掴もうと思いまして。」
「家族が増えた記念日にぴったりのメニューだな?」
「ならもう少し豪勢にすればよかったかしら?」
「だが胃袋はばっちり掴めたみたいだな?」
「もう見慣れましたわ・・・」
奴隷達が感涙にむせびながら、シチューを頬張ったりワインを飲んでいる。
「みんなお替りは自分で取りにいけよ?」
「お替りあるって!?」
「おい行こうぜ!」
奴隷達が我先にとシチューに向かって行く。
「賑やかでいいですわね」
「そうだな?」
「俺達はさっさと風呂に入って寝ようか?」
「そうですわね、オリーブ?あの子達は任せていいかしら?」
「かしこまりました。」
オリーブに任せて風呂に入り、テントへと入って行く叡斗とメイサ。
テントに入る際にオリーブが男の奴隷を風呂の結界の中に放り投げるのが見えので、大丈夫か?と心配になるが、メイサに魔素を吸われて一日が長い一日が終わる。




