~39話~オーバーフローとメイサの特訓
「兄貴ここでやす!」
「おぉ!美味そうな匂いだな!」
「お姉さん!一番人気のメニューを8人前お願いしまさぁ!」
バッポが店に入り注文をしてくれる
「こういう時の御馬鹿は手際がよくて便利ですわね。」
メイサは辛らつだ。
「このワインステーキって料理はなんでこんなにあっさりしてるんだろ?」
「恐らく脂身を丁寧に取り除いてますのね・・・それにヨーグルトと蜂蜜の風味も致しますわね」
「これ今度食べたいな?」
「フフフお任せ下さいな!」
「兄貴美味いっすね!」
「おい・・・いいのか?緊急なんじゃねぇのか?」
ベックがおろおろして聞く
「じゃあ飯中断して行くか?」
「わかったわかった!もう何も言わねぇよ!」
叡斗がステーキを頬張りながらいい、ベックが降参とばかりに両手を挙げて首を振る
「リーダーいいじゃないですかぁ!怒られるとしても叡斗さんなんですし!」
「たしかにその通りだな!ガハハ」
「緊急だろうと腹が減っては戦はできんだろう!」
「ダーリンの食事を遮ってまで依頼だなんて分をわきまえて頂かないと」
叡斗が胸を張り、メイサが上品にナプキンで口を拭きながら言う
「バッポ?一応だが、錬金ギルドでの用事が長引いてたって言えよ?」
「兄貴ぃ・・・格好悪いっす・・・」
「俺だって出来れば怒られたくないもん!」
なんだかんだ小心者の叡斗だった!
食事を堪能して店を出ると
「エイト様ぁぁぁ!」
カイジンが走って来た。
巨体の極悪人面が叫びながら走っているので、人が避け大通りにモーゼの様に道を作り出している。
「バッポ!何してんだ!?」
カイジンがバッポに拳骨をする
「いてっ!兄貴が腹減ったってぇ・・・」
「カイジンどうした?」
「エイト様!すぐにギルドにお願い致します!」
「今から向かう所だったよ?ギルドへ案内してくれ!」
「かしこまりました!こちらです!」
カイジンがにこやかに笑い、案内してくれる。
笑ったカイジンの顔が恐いのか、人が避けて割れて行くのでとても快適にギルドに辿り着いた。
「錬金ギルドもだったけどさすが本部デカイな!」
見上げるが3階まであるのだろうか?ギルドマークの付いた看板も今までのギルドに付いていた物の倍は大きい看板が入口の上に付いている。
「はい!2階にはAランク以上の冒険者用の受付もありますぜ!」
「はぇー」
「ではエイト様行きましょう!」
カイジンに連れられ、中に入ると今までの同じ作りだったギルドとは比べ物にならない広い食堂に満員で冒険者達がご飯を食べていた。
「人多いな!」
叡斗が人の多さに驚く
「エイト様こちらです!」
カイジンに促されるままに階段を上がると、6人掛けの丸テーブルが8つ並び、依頼書の張り出しボードと受付がある空間だった。
「上は人がいないんだな?」
俺達意外に4人がテーブルを囲んで座っているだけで他に冒険者の姿は見えない
「Aランク以上でないと上がれませんからね!」
「あれ?メイサと・・・」
「メイサ様はエイト様のパーティでバッポはワシのパーティですから!」
「ドラゴンアイズは・・・?」
なぜかそのままの流れで付いてきたドラゴンアイズもいる
「・・・エイト様のパーティ?」
「じゃあ今だけそういう事にしとこうか・・・」
ホッと胸を撫で下ろすドラゴンアイズのメンバー
「さ!エイト様こちらです!」
カイジンはそう言って唯一2階にいる4人組の所へ案内する
「カイジン君にバッポ君ご苦労様!」
1人の口ひげを上品にたくわえたダンディーなおっさんが立ち上がりカイジンとバッポを労う。
2m近くあり体も服で隠れているが、鍛えられた肉体だとわかる。
「誰が名無しのエイト君かな?」
「俺です!名はエイトだから名無しじゃないですよ?」
「ハハ!二つ名が無いって意味だよ、ロキマ国冒険者ギルドグランドギルドマスターのブルーノです!やっと会えましたね!」
やっぱり偉い人だった!敬語でよかったと内心思いながら握手する
「いきなり呼び出してすまないね!事情が事情なもので!」
「事情ですか?」
「近くオーバーフローの兆候があるダンジョンがあってね・・・まぁ座って話そうか!」
叡斗は促されるままに、ブルーノと同じテーブルの席に座る。
「ブルーノさん!名無しって事はS成り立てでしょう?俺達だけで余裕ですよ?」
弓を椅子に立てかけて腕を組んだ黒髪の優男が言う
「そうだよ・・・俺達で・・・十分。フフ」
でかいごつごつとした木製の杖を椅子に立てかけた黒髪で眼鏡の陰気な青年が言う
「待て待て!同じ召喚人なんだ!仲良くしようよ!」
腰に剣を携えた黒髪の好青年が2人をなだめる
「黒髪だなとは思ってたが、召喚人だったのか!」
「そうだ!お前さんと同じ召喚人のSランクパーティ三銃士だ!」
ブルーノが紹介する
「そうか・・・よろしくな!田中 叡斗職業は勇者だ!」
「【閃光】堀込 大紀同じく勇者です!」
「【必中】西山 俊吾アーチャー!」
「【魔帝】二瀬 新賢者」
大紀が握手をして応えてくれたが、俊吾と新は渋々と言った様子で答える。
「顔合わせは済んだね?おそらく2日内に2箇所でほぼ同時期にオーバーフローする可能性が高い!北門で君達に迎撃をお願いしたい!」
「だからブルーノさん!俺達だけで十分ですってば!」
「群れる人って・・・弱い・・・わかりやすいよね。フフ」
「叡斗さんすみません・・・」
「いいよいいよ!あと俺のパーティはこのメイサだけで他は流れで付いてきただけだからそこんとこよろしくな?若いの!」
「仲良くしてもらいたいのですがね・・・」
ブルーノが頭を押さえて、呟く
「で?どんな魔物が来るかはわかってるんですか?」
「そうですね!俺も気になってました!」
叡斗が聞くと大紀が賛同する、こいつとは仲良くなれそうだと思う叡斗
「判明してるのは「水竜の地底湖」「止り木のダンジョン」の2箇所です」
「SランクとAランクダンジョンじゃないですか!?」
ちんぷんかんぷんの叡斗は黙ってブルーノと大紀の会話を聞く
「飛行系の魔物と水棲系の魔物が押し寄せて来るでしょう。」
「他にも戦力はいるんでしょうね?」
「壁の上からCランク以上の冒険者が迎撃、Dランク以下の冒険者は住人の避難指示ともしも魔物が街に侵入した時の警護任務に着く予定ですよ」
「それで?僕達Sランクはどこで迎撃を?」
「門の外の最前線をお願いしたいのです!」
「規模はわかってるんですか?」
「言いにくいがかなり大きいですね・・・」
「なぜそんなになるまでほっといたんですか!?」
大紀がテーブルを叩いて憤慨する
「2日前からダンジョン内の魔物が爆発的に増えだしたでね、私もこんなの初めてですよ!」
「そんな・・・1週間もかからずにオーバーフローなんて聞いた事無いですよ!」
「事実なのでどうにかしなくてはならないのですよ!」
三銃士の三人は狼狽する
「大急ぎでSランカーを呼び寄せてますが、君達以外は間に合いそうもない・・・エイト君が来てくれて本当に助かります!」
「はは・・・それはよかったです・・・」
メイサが顔を近づけて
「ダーリン・・・」
「わかってる・・・女神側の魔王だろ?」
「私もそう考えますわ。」
メイサと叡斗がコソコソと話す
「じゃあ今日は解散!警報の鐘がなったら即座にここへ集合できるように準備していて欲しい!SとAのオーバーフローです、君達なら防げると信じています!素材報酬で存分に稼いで下さいね、期待しています!」
ブルーノが最後にやる気を出させるためだろう、激励をして去って行く。
しばらく沈黙が流れ俊吾が口を開く
「どうする?逃げるか?」
「それも・・・手だね・・・命あっての物。フフ」
俊吾と新が沈黙を破る
「冗談にしてもそれは言っちゃいけないだろう?」
大紀が2人を諭す
「そこのおっさん達の実力もわかんねーのに命はれってか?」
「小僧!おっさんと言いました?訂正なさい!」
メイサが俊吾の言葉に目を吊り上げて怒る
「小僧じゃねぇよ!この世界に5年もいるんだ!見た目通りの歳じゃねぇよ!」
「ふん!5年如き私にとっては些細な時ですわ小僧が!」
「あんた何歳だよ!?」
「少なくともこの中では年長者であると言っておきますわ。」
「綺麗だと思ったけど、おばさんかょっゴブッ」
一瞬で俊吾の隣に移動したメイサの光速の腹パンが俊吾に飛んだ。
叡斗以外の人間は突然、瞬間移動したメイサに驚き声が出ない。
「あら?Sランカーって案外脆いのですわね?」
「メイサ?その辺にしたげよ?若気の至りってやつじゃん?」
叡斗がメイサを諫めるが、何が起こったかわからない三銃士とドラゴンアイズ達が呆けている。
「そうですわね・・・小僧!年上は敬いなさいな?」
「・・・意識ない人に言ってもしょうがないよね?」
俊吾は椅子にもたれて白目で天井に顔を向けている。
「ふん!ヒロキさんと仰いましたか?」
「はい!」
「あなたの対応は中々ですわ!そのまま精進なさいね?」
メイサが大紀の顎を撫でて、叡斗の横に戻る
「・・・はい」
蕩けた顔をする大紀、大人のお姉さんの魅力にやられたようだ。
叡斗がパンッと手を叩いて
「それじゃあ俺達は行くから!オーバーフローの時はよろしくね!」
「はい!メイサさんの強さを見たので頼らせてもらいますね!」
大紀と握手をしてギルドを後にする
ギルドから出ると叡斗が立ち止まる
「どうしましたの?」
「いや・・・オーバーフローまで何しようかと思ってね?」
「観光したいですわ!あと王国図書館という大きい図書館があるそうですから行ってみたいですわ!」
「なら図書館はオーバーフローの後にゆっくり行くとして観光しよっか?」
「はい!」
喜ぶメイサが叡斗の腕に抱きつく、と同時に逆の腕にライラが抱きつく
「エルフ!ダーリンから離れないなさい!」
「エイトさーん?私達と特訓しませぇん?」
「ダーリンは私との観光で忙しいのです!勝手に特訓でもなんでも勝手になさりなさい!」
「師匠・・・オーバーフローで少しでも力になりたいです。」
「ターニャ・・・」
いつもライラかベックの影に隠れているターニャが珍しく自分から発言する。
「メイサ?」
「わかりましたわ!オーバーフローが終わったら2人っきりで観光ですわよ?」
「勿論だよ!」
「では街の外へ出ましょう!一番近い門へ案内なさい!」
みんなが喜んで門へ向かって走って行く・・・前衛組も喜んでる
「おい!みんな?てかバッポとカイジンもか!?」
「全員『魔力操作』の特訓ですわね!」
デートを潰されたメイサが冷たくメンバーを見据えている。
「メイサ?ほどほどにね?」
「わかってますわよ?ほどほどに死ぬ程度に致します。」
「死んじゃ駄目だろ!」
「恋路の邪魔をするのですから、覚悟は出来てるでしょう!さ、行きましょう!」
とびっきりの笑顔で手を差し伸べるメイサ
「俺は何も知らない。あいつらが悪いんだ・・・」
メイサに手を引かれ、頑張って自分を正当化する叡斗だった。
門の外に出ると
「皆さんこれに倒れるまで魔素を注ぎなさい!」
メイサが魔晶石を投げて渡しながらいい、みんなは無言で魔晶石を握り、それぞれの魔晶石がマダラ模様になって行く。
「そろそろいいでしょう!皆さん?さぁ!遠慮はいりませんかかってらっしゃい?」
メイサがトレントの木刀を構えて言う
全員が顔を見合わせて、覚悟を決めて立ち上がる
「本気の連携で行くぞ!」
ベックが叫び、雄叫びをあげながら突っ込むバッポとカイジンとベック。
面々が本気の表情でメイサに向かって行くが、ターニャが前衛の影に隠しつつファイアーボールを放つが木刀で弾かれ、ライラの矢はメイサに届く前に止まって落ち、ベック達は木刀を盾や各々の武器で受けるも弾き飛ばされて行く。
正に鎧袖一触といった様子で冷たい笑顔でボコボコにするメイサ。
「姐御・・・魔力を使い切ってこの訓練はきついでやす・・・」
「メイサ様・・・これにはどういった意味がありますんで?」
「魔素が枯渇しているほど魔素の動きを認識しやすいのです!その魔素を認識してステータスに反映させる感覚を掴みなさい!」
メイサが冷たい笑顔でトレントの木刀で2人をボコボコにする
ストレス発散しているようにしか見えない。
「さて!2人が動かなくなりましたわね!次は・・・」
メイサの言葉にドラゴンアイズのメンバーが固まる。
特にベックとリュートの汗がやばい。
叡斗はのびてるバッポとカイジンを引き摺って避難させ、治癒して目覚めた2人とメイサ達を眺める。
「どうだ?成長できたか?」
「へい・・・地獄だったでやすけど、『魔力操作』3になりやした。」
「ワシは『斧術』も上がりました。」
2人が自分のステータスを確認して答える
「よかったじゃねぇか!俺との特訓よりも有意義になったな!」
「兄貴が優しいって再認識できやしたよ・・・」
「メイサ様の優しさは少し重かったですな・・・」
遠い目をするバッポとカイジン
「終わったみたいだな?」
必死の形相で胸を揺らして走って逃げていたマリアがメイサの木刀で吹っ飛ばされていた。
「容赦ないでやすね・・・」
メイサがドラゴンアイズのメンバーを無造作に掴んで引き摺って歩いてくる
「ダーリン回復してくださる?」
「はい!」
叡斗が治癒をして、順番にメンバーが目を覚ます
「皆さん?今日はこれで終わります。いつでも特訓したい方は言ってくださいね?」
全員が安堵の表情を浮かべる
「ではダーリン?昨日のお店で御食事に致しましょうか!」
「そうだな!」
ぼろぼろで体を引き摺るように歩くみんなを引き連れて、街へと戻る。




