〜37話〜師匠との再会
「でへへ…」
「うへへ…」
「はぁ…」
思い思いに武具を愛でる、車内のメンバー達。
「まともなのは御者してるバッポだけか・・・」
メイサの膝の上で呟く叡斗
「あのお馬鹿も事あるごとに無駄に物を取り出してますわよ?今もラプターの餌を取り出して上げてますわよ。」
叡斗が顔を上げて御者台を見ると、餌をラプターに差し出すが、無視されているバッポが見えた。
「今日は何度も上げてるからラプターはお腹がいっぱいなのでしょう…」
メイサが呆れて言う
「にしても平和だな…道中魔物を見てないけど、こんなもんなのか?」
「ラプターの気配で弱い魔物は近寄って来ませんからね。」
「ラプターより強い魔物っていっぱいいるよな?」
「この様子だと、少ないのでしょうね?」
2人は首をかしげる
「Cランク以上の魔物が見つかったら、すぐに討伐隊を組んで退治しちゃいますからねぇ!」
ライラが叡斗とメイサの疑問に答える
「でもゴーレムは放置だったじゃん?」
「ゴーレムは人里を襲ったりしませんからねぇ?だからじゃないですかぁ?」
「確かに鉱山から出る気配は無かったな。」
「エイトさんには、余計な心配かもですが、身体を持った魔物は見つけたらゴブリンでも油断しちゃダメですよぅ?」
「ゴブリンでも?」
「ダンジョンと違ってCランク級のゴブリンとかもいますからねぇ!」
ゴブリンがFランクの魔物だ
「そりゃゴブリンだと思って相手したら危ないな!」
「だから村にゴブリンが出ても、依頼を受ける人がいなくて、潰れちゃう村もあるんですよぅ!」
「そんな強いゴブリンが群れでいたら誰もやりたがらないよな・・・」
「大体そういう村は貧乏なので依頼料も多く出せませんしねぇ・・・」
「メイサ!俺たちの方針決まったな!」
メイサは力強く頷いて
「かしこまりましたわ!」
「え?それってぇ?」
「俺たちは王都を出たら大陸を回りつつそういう村を探して魔物退治だな!」
「さすがエイトさんですぅ!」
「困ってる隣人は助けないと、でしょう?」
「さすがはメイサ!わかってるね!」
「噂をすればですわね。」
「ん?・・・あ!」
メイサが言って数秒進んで、叡斗も感知の反応に気付く
「これ魔物か?」
「私の感知が正しければ1km程先で馬車が襲われてますわね」
「バッポ!」
「へい!速度上げやすんで、体が跳ねないようにお気をつけ下さい!」
バッポが言うと、メイサの膝に頭を乗せて寝転んだ叡斗の体が浮き、硬い椅子に腰を打ちつける
「にょおぉぉぉぉぉ痛い!」
「ダーリンクッションを引いてるとはいえ、危ないので今くらいは普通にお座りなさいな!」
「はい…」
腰をさすりながら、椅子に座りなおす叡斗
「いやしたぜ!土色の狼!アースウルフでやす!」
車から降りると300m先に五頭の土色の毛を纏った狼が動かなくなった馬であろう生き物に群がっていた。
「エイト!戦闘は俺たちに任せて他に魔物が来ないか警戒を頼む!リュートとマリアは馬車の主を探せ!生きてたら怪我してるだろうから治療してやれ!バッポとカイジンは一緒に前衛だ!」
こういう時のベックは、指示も的確で頼りになるリーダーだなと感心する。
「マリア?あっちに5人『生命感知』に反応があるよ!」
叡斗が街道脇の森を指して教えると、リュートとマリアは無言で頷き駆けて行く。
「ファイアーボール!ファイアーボール!ファイアーボール!」
ターニャがニヤケながらファイアーボールをアースウルフに向かって連発している、ちょっと怖い
五頭のうち二頭にファイアーボールが直撃し、馬と一緒に吹っ飛んだ。
「三頭来るぞ!ライラ!」
「はぁい!」
ライラが元々持っていた自分の弓で矢を射る
1発目は先頭の狼の前足に刺さり、2発目がすぐに飛んで行き動きが鈍った狼の脳天に刺さり、あと10mという所まで近づいた狼の前足に3発目の矢が刺さりバランスを崩して、その勢いのまま転がり、カイジンが大地の槌で圧殺する。
「ライラよくやった!バッポ頼む!」
最後の狼を盾で受け止めながらベックが言う
「おうよ!」
盾に弾かれて、着地した狼の首を大剣ではねる。
「増援も来ないみたいだし、余裕だな?」
「最初にファイアーボールで二頭やれたのがデカかったな!よくやったターニャ!」
「普通の戦闘ではファイアーボール1発撃つのに5秒は詠唱にかかりますから・・・師匠の杖出鱈目過ぎです!」
「リーダー!こちらの方々無事でしたっす!」
「杖のおかげで迅速な治癒が出来ました。」
リュートとマリアが5人の男女を連れて、歩いて来る。
冒険者風の男が2人に、黒マントに大きい黒い三角帽子を被った男女が3人・・・先頭の老婆に見覚えがある
「マリン婆ちゃん?」
「おぉ!エイトかい!助かったさね!」
錬金ギルドで魔導具作りを教えてくれたマリアンヌだ
「なんでここに?」
「来週のギルド会議で呼ばれてねぇ!」
「婆ちゃんも参加すんの?」
後ろの黒マントの男がマリアンヌの前に出てくる
「なんだ!?貴様は?マリアンヌ様に気安く話しかけるな!」
「マリアンヌ様…?様?婆ちゃんそんなに偉い人なのか?」
「名誉国家錬金術師のマリアンヌ様を知らんのか貴様!?」
「お黙りっマー坊!この子はいいんさね!!」
マリアンヌが男を杖で頭を叩きながら言う
「痛い!師匠痛い!私はマー坊では無くてマイオール=フォン=カルメンです!」
「すまなかったね!あんたも王都へ向かってるんだろう?護衛がヘッポコだからあんたに連れて行って欲しいさね!」
「いいけど…俺との旅で見た事は他言無用で頼むよ?」
「あたしゃ忘れっぽいからね!あんたがあれから何を作ったか楽しみさね!ヒヒヒ」
マリアンヌが楽しそうに笑う
「すまない!急に横から襲われちゃってね・・・」
冒険者風の男達がマリアンヌとの会話が終わったと判断して話して来る
「そこら辺は魔物倒したのはこっちの人達だから、こっちに言ってあげて!」
叡斗はベックを親指で指す
「ベック!事後処理お願いしてもいいか?」
「任せときな!」
ベックが快諾してくれたので、叡斗とメイサは車へ戻る事にする。
「じゃあマリン婆ちゃんまた夜にね!」
「楽しみにしとくからねぇ?ヒッヒッヒ」
マリアンヌが魔女のような風貌も相まって、非常に怪しく見える。
しばらくすると、女性陣が乗り込み車が出発する。
「あれ?ベックとリュートは?」
「マリアンヌさん達の車にカイジンさんのラプターとこの車のラプターを一頭貸したんで、こっちの車が重量オーバーになっちゃって、歩きですよぅ?」
窓の外を見ると、ベックとリュートとカイジンとマリアンヌ達の護衛の2人が歩いていた。
「なるほど!まぁなんとかなったんならいいか!」
「それにしてもマリアンヌさんともお知り合いだったんですねぇ?」
「あぁメグミンで魔導具作りを教わったんだ。あの婆ちゃんそんなすごい人なの?」
「この国の錬金術師のトップですよぅ?」
「マジ?」
「魔力成型が出来る数少ない1人ですよぅ?」
「え?あれって『錬金術』スキル持ってる人なら出来るんじゃないの?」
ライラが呆れた顔をする
「エイトさん自分の非常識さを理解するべきですぅ!」
ターニャとマリアが激しく頷く
「ダーリンですからね!」
嬉しそうなメイサが胸を張って言う
「メイサ今日の野営はおとなしくしとこうな…魔導具的な意味で」
「え?ダーリンの凄さをあの失礼な小僧に教えた方がよろしいのではなくって?」
「多分面倒が起こるからパスで!」
「かしこまりましたわ…」
メイサが不満そうに言う
面倒事、特に貴族関係は避けたい叡斗であった。
野営が始まり、マリアンヌ達と改めて顔を合わす。
「先程は失礼致しました、私はマリアンヌ様の一番弟子カルメン子爵家次男のマイオール=フォン=カルメンです。」
「私はカルメン子爵家三男のヤンガーム=フォン=カルメンです。」
やっぱり貴族だった…胸に手を当て貴族式の挨拶をしてくる2人
「俺はSランク冒険者のエイトです!王都までよろしくお願いします。」
「メイサと申します。」
叡斗とメイサも2人にならって、貴族式のお礼で返す
冒険者の2人が
「申し遅れました!Cランク冒険者ジャックです!」
「俺!Cランクのライナーす!Sランクすか…」
握手を交わしながら、自己紹介してくる青髪の好青年達。
「エイトさんはまだ二つ名は無いすか?」
「二つ名?」
「Sランクは準男爵の爵位が貰えるす!それに合わせて家名代わりに二つ名が与えられるすよ!」
「こいつは規格外でね!普通は二つ名なんて、周りが言い出すもんだけど、こいつはそんな暇なくSランクになっちまったからね!」
マリアンヌが答える
「え?そうなの?」
「今回の会議でもおまえさんの二つ名が議題の1つに上がるだろうよ!」
「そんな大層な…」
「何か希望があれば、あたしが推してあげるよぉ?ヒッヒッヒッ」
「考えとくよ!」
「あたしゃ「非常識」なんていいと思うさね!」
「婆ちゃん…本気で考えるよ…」
叡斗は頭を抱える。
「メイサ、相談が・・・」
メイサを見るとそれどころでは無いようだ
「あなた方?料理の邪魔です、あっちに行って下さる?」
メイサが即席の調理場で物を物色する2人組に怒っている
「兄ちゃん!これ3箇所から火が出てるよ?」
「ヤン…これをひねると水が出てくるぞ…」
「兄ちゃん!兄ちゃん!この箱の中のワイン冷たいよ??」
「なんだ!?このテントは!?中が広すぎる・・・」
2人は聞こえないようで、構わず物色して、メイサに青筋が立っている・・・俺は何も見てないし、関係無い。
「お前らぁ!嬢ちゃんの邪魔すんじゃないよ!おとなしく席に座ってな!さもないとあんたらはエイトちゃんの好意を受けさせないよ!!」
「エイトちゃん・・・」
「あんたはあたしの弟子で一番の腕だからね!あいつら顎で使ってやったらいいさね!ヒッヒッヒッ」
「師匠!それはあんまりです!私こそが一番弟子でございます!」
マイオールがマリアンヌにすがりつく
「悔しかったらエイトちゃんみたいに『錬金術』を磨くんだね!」
「く!貴様!ポーション作りでは負けんからな!」
「作った事無いな…婆ちゃん王都で教えてよ?」
「あんたが作ったらどうなるか・・・楽しみだねぇ、任しときな!」
「あといつのまに弟子になったんだ?」
「あんたに魔導具作りを教えてカードを渡した時だよ!」
「まぁいっか・・・」
「支度が出来ましたわ!皆さん配膳して下さる?」
メイサが手を叩いて号令をかけると、古参メンバーが慣れた手つきで料理を配膳していく。
「野宿でこんな豪華な料理を食べられるなんて、嬉しいさね!」
「スパゲティに野菜スープに焼きたてのパンまで!」
「兄ちゃん!スパゲティに魚が入ってるよ!?」
「こんな内陸で魚だってライナー・・・」
「俺初めて干物じゃない魚食べるす・・・」
「5人の舌にもあったようでなによりだ!」
ご飯を食べ終えマリアンヌが
「エイトちゃん?」
「はい?」
「こんな気立てのいい嬢ちゃん絶対に手離したらダメさね!大事にしておやりよ?」
「もちろんさ!」
「分かってるならいいさね!昨今それを分からない飾りの頭を付けた若造が増えてるからね!」
何故かマリアンヌは、メイサの事を気に入った様子だ。
その後、叡斗がお風呂魔法でお風呂を作るとメイサが
「マリン様?お風呂の準備が出来ましたのでお先にどうぞ?」
「メイサちゃん悪いねぇ!野宿でお風呂なんて贅沢だねぇ!ヒッヒッヒッ」
普段なら一番風呂は絶対に譲らないメイサが・・・いつの間にかメイサも懐いていた・・・いつの間に?
「さ!服を預かりますわ!洗っておきますので」
「至れり尽くせりだねぇ!ヒッヒッヒッ」
メイサが服を預かって、この前作った洗濯機を使って洗ってあげてる・・・本当にいつの間に手懐けたんだ?
てかメイサさん?おとなしくしとこうって言ったじゃんよぉぉぉぉ!叡斗が心の中で叫ぶ
案の定、しばらくして洗濯機に気付いたマイオールとヤンガームが張り付いて見ていた
「これはなんだ!?」
「ゴーレムコアを使った魔導具、洗濯機ですよ!」
叡斗が溜息を吐きながら答える
「ゴーレムコアだと!?」
「簡単な命令しか出来ないから、風の魔石で水を攪拌する、一定の時間で下の蓋をスライドさせて水を抜く、最後に風で乾燥させるまでしか出来ないから、水は手動で入れないと駄目ですけどね!」
水の魔石も連動させようとしたら、ゴーレムコアが上手く働いてくれなかった。
ゴーレムコアを別々にとも思って試したら、乾燥中に水を出して風に巻き上げられて大変なことになったのでやめた。
「な・・・」
マイオールとヤンガームは口をパクパクさせて、洗濯機と叡斗を交互に見やる
「上げないよ?あとここで見たことは口外厳禁!忘れてないですよね?」
「確かに一番弟子・・・だな。」
「兄ちゃん・・・」
突然悟った表情になるマイオール
「ヒッヒッヒッ!マー坊や!エイトちゃんには逆らうんじゃないよ?」
ドライヤーで髪を乾かしながらマリアンヌが言う
「ダーリン入りましょうか?」
「そうだね!」
マイオールとヤンガームの相手に疲れたので、メイサのおかげで上手く逃げられた。
風呂に浸かりながら
「メイサ?婆ちゃんと何かあったの?すごい懐いてるけど?」
「綺麗な顔してるのに勿体無いと言って下さって、御化粧を教えて頂きましたわよ?」
「それであんなに懐いたのか・・・」
「御化粧水という物を教えて頂きましたの!ダーリンに作り方教えると意気込んでらっしゃいましたわ!」
「そりゃしっかりと覚えないとだな・・・」
「ダーリン?いい物を期待して待ってますわよ?」
「王都着いたらまずは錬金ギルドだな!」
「嬉しい!」
王都での予定が1つ決まった。
カオリンとカスミンは王都の衛星都市なので、メグリンから直行すればラプター車より足の遅い馬車でも約6日です!
裏設定としては、叡斗が地理を把握してないのを利用して、長く一緒に居たかったバッポが無断で寄り道しています。




