~25話~変態と護衛と道案内と
「美人な姉ちゃん連れるねぇ!これ姉ちゃんに買ってあげなよ!」
「うちの新鮮な魚もおススメだよ!」
「とりあえず見て回ってから決めるよ!ありがとうね!」
今日ははメイサに誘われて市場に来ていた。
どうやらメイサは、昨日一日メグミンの郷土料理を調べていたらしく、これからの料理はお任せ下さい!と言われ、材料を買いに来ている。
だがすれ違う人々がメイサをもう一度見ようと振り向き、店の人達がこぞって声を掛けてきて、全然進めない・・・
メイサはフードを被っていない。
メイサが、どうしても嫌だと言ってきたので、俺も強制はしたくなかったからだ。
「メイサ!ワインが樽で売ってるぞ!」
「よろしいので?」
「気に入ったのがあったら、買おうか?」
ワインを買ったら冷蔵庫で冷やして、メイサの驚く顔が見たいしね!
2人は仲睦まじく手を繋ぎ、酒屋へ入っていく
「いらっしゃい!どんな御用で?」
「ワインを樽で欲しいんだけど、お勧めのワインはどれですか?」
「樽ですか!毎度あり!おすすめねぇ・・・試飲してみますか?」
「お願いできるか?」
「へい!こちらへどうぞ!」
「メイサ気に入るやつ探してみな?」
「ダーリンありがとうございます!」
前掛けをした、短髪の小柄なおっちゃんの店員に勧められ、順番にワインを試飲するメイサ
全部試飲し終えて、1つのワインを指差し
「これが一番おいしかったですわ!」
「御姉さん御目が高いね!これはゲンド国ヴォルドー産の12年物だよ!」
「1樽いくら?」
「ちょいと値が張りまして、1樽金貨25枚です!」
「4樽頂こう」
「え!?ま、毎度あり!」
そう言って90度のお辞儀をする店主
確か昨日食堂で聞いたら1樽でボトルが約300本取れるらしい、ボトル一本換算で銀貨8枚ちょっと、空納なら痛むこともないし、いいだろう。
「ダーリン愛してるわ!」
そう言って腕に抱きついてくる可愛いメイサ・・・でも大事に飲んでね?
その後もメイサの指示で恐ろしい量の買出しを済ませた2人は、市場で聞いた評判の店に寄り、魚料理を食べ宿屋に戻る。
「そういえばメグミンで魚料理食べたの2回目か・・・」
「メグミ亭の料理はお肉料理ばかりですものね。」
メグミ亭の食堂は食堂と言うよりは酒場なので、酒のつまみばかりが充実している
「今日食べた鯛の煮付けも今度作ってよ!」
「お任せください!お料理の勉強はばっちりですわ!」
「楽しみにしてるよ!」
「ではダーリン特訓を始めましょうか?」
「今日から両手?」
「そうですわね、まずは両手共同じ属性で結構ですわよ?」
「昨日結構作ったから、余裕だね!」
「期待しておりますわ!」
両手に魔素が流れるってだけで、体の中の魔素の動きが一気に複雑になって、全然上手くいかない。
失敗した魔石の魔素を抜きながら
「ダーリン!魔素の流れを見極めて、効率よく魔素に指示をだすのよ!」
「へい!」
2時間経過
「ダーリン!集中して魔素と向き合うのですのよ!」
「へい!」
3時間経過
「ダーリン!いい感じに汗をかいてますので、今日は終わりに致しましょう。」
「へい!」
メイサが変なことを言っているが、集中力を使い果たした叡斗は気付ずに、メイサから服を渡されるままに着替える。
「メイサ!転移してお風呂入ろっか?」
「ハァハァ」
叡斗が振り向くと、叡斗が脱いだ服に顔をうずめて、時折痙攣しながら立ち尽くす緑髪の女性が目に映る。
「・・・1人で風呂行ってくるわ。」
離れようとすると、這い蹲り怪しく上気し蕩けた表情で叡斗を見上げるメイサが足を掴んでくる。
「うわ!?何!?」
「ハァハァ・・・腰が抜けましたの・・・ハァハァ」
次に見た時には、床の上で腰を突き上げた土下座スタイルで服に顔うずている。
さすがの叡斗もこの生物を見て、手を伸ばせば届く所にあるお尻を触ろうとも、思えない残念なメイサである。
「メイサ?お風呂入るよ?」
「も・・・もう少しだけ・・・」
「こっちに本体がいるよ?」
「クンカクンカ・・・ハァハァ」
もう嫌だ!この生き物!普段とのギャップがひどすぎる!!
両手で顔を覆い、足を掴まれたまま悲しみ佇む叡斗。
5分後
「取り乱しましたわ、御見苦しいところをお見せしました。」
「本当にね・・・そうだね・・・」
「ダーリン!お風呂へ参りましょう、お背中流しますわ!」
「いいです、自分で洗えますんで。」
「私では不満だと言うのですか???」
詰め寄るメイサだが、数分前の光景が焼きついて離れない叡斗は上の空だ。
「はーい転移しまーす」
「おざなりすぎますわよ!」
その日は意識が離されるまで、叡斗のテンションが戻ることはなかった。
叡斗が目を開けるとメイサが
「おはようございますダーリン!」
と言って軽く唇を合わせる
「おはようメイサ」
「よかった!元に戻りましたのね!」
「うん、昨日はショックで心が折れちゃってごめんね。」
「本当ですわ!私心配致しましたのよ?」
「お前も謝れよぉぉぉぉ!」
キョトンとするメイサ
「?それでは、バッポの所へ向かいましょうか!」
「無自覚かよこの変態残念娘!」
バッポとの待ち合わせ場所の東門へ行くと、馬車があり、その横にバッポとバッケとドラゴンアイズが待っていた。
「よう!来たか!」
「来たかじゃねーよ!なんでドラゴンアイズが?」
「こいつらは護衛だ!」
「いらねーよ!!なんでも勝手に決めんな!」
「護衛代もギルド持ちだから心配すんな!魔石の件も黙っといてやるから!な?」
「メイサ、このオッサンの頭に『呪魔法』かけとけ」
「畏まりました!ハゲロ!」
メイサがバッケの頭に手の平を向けて呪言を唱えると、バッケは顔を真っ青にして頭を手で覆って逃げるように去っていった
勿論『呪魔法』ではない。
「エイトさん!私達が本物の冒険者の仕事を見せてあげますよぅ?」
ライラがウキウキと話してくる、それに対してバッケ達のテンションが低すぎる、ライラはどうやって護衛の任務を取り付けたのだろう・・・
「もう諦めたけど、王都までの旅は何日かかるかわかんないよ?」
「いいですよぅ!観光しながら行きましょうね!」
ライラが叡斗の腕に絡みながら言う
「護衛でしょう?離れなさい!」
そう言って間に無理矢理入ってライラを引き離すメイサ
「とりあえず、今回の旅で俺達に関して見た事は絶対口外厳禁だからな?」
「守秘義務も冒険者の仕事の内ですから安心してくださぁい!」
敬礼をして答えるライラ
「みんなも大変そうだけど・・・よろしく!」
「あぁエイト迷惑かけるな・・・」
ベックが申し訳なさそうに言い、リュート・ターニャ・マリアも申し訳無さそうな顔をして会釈する。
「バッポ!もう行けるのか!?・・・って、ラプター!??」
バッポを見ると、馬車に繋がれたラプターを撫でていた
「兄貴大丈夫ですよ!テイムされたラプターですから!」
見る所がありすぎて、無視してた馬車を見ると、質素だが造りがしっかりしたでかい車に1,5mの肉食恐竜みたいな見た目の魔物であるラプターが4頭繋がれている。
「じゃあ出発しやすんでみんな乗ってくだせい!」
車に乗ると3列に席が並んでおり、御者台から2人、3人、3人がゆったりと座れる質素だがしっかりとした椅子が付いている。
メイサに促されるままに、最後尾に乗り込み、椅子にクッションを敷きメイサに膝枕をしてもらい、みんなが乗込むのを待つ、勿論メイサは外套を脱いでいる。
2列目には、ターニャ・マリア・ライラの女性組が座るみたいだ。
「なんで、エイトさん膝枕してるんですかぁ?」
「これには、言えないけど意味があるんだよ!」
「ふーん・・・後で意味教えて下さいねぇ?」
「どうせ教えても誰にも言えない理由だけどね!」
そう!意味があるのだ!
特訓で両手が塞がる、けどもメイサとは出来るだけ触れて魔素を上げないとダメ、じゃあどうするか?膝枕しかない!
俺とメイサの優れた頭脳を持つ2人で導き出した答えなのだ!
「メイサ頂戴」
「はい!ダーリン!」
魔晶石を2個、渡してくれるメイサ。
何をするのかとジッと見つめてくる、女性陣。
ライラとマリアはポカンとしてるが、ターニャは一瞬顔を強張らせ、俺の一挙手一投足を見逃すまいと目を凝らしている
「どうだ!?」
叡斗が手を開き、メイサが手の中にある魔晶石を確認する。
「火は完璧ですが、水が斑模様ですわ・・・」
「師匠!魔石ですか?それ!?」
ターニャが驚愕する。
マリアとライラは相変わらずポカンとしている。
「あぁ、『魔力操作』の練習だよ」
「練習って・・・魔石を作れる人間を始めて見ました・・・」
「口外厳禁だぞ?絶対に言うなよ?ターニャ」
「はい・・・言った所で信じてもらえません!」
前の席で三人が「あれってすごいの?」っと話をしているが無視して、特訓を進める。
「ダーリン何か掴めましたか?」
「あぁ、メイサに触れてたら『魔力操作』がスムーズな気がして今日中に出来そうだよ」
「それはよかったですわ!」
双丘の向こうで笑顔のメイサ、変態残念娘じゃなかったら申し分ないんだけどな・・・
「兄貴!そろそろ休憩しましょう!」
馬車が止まりバッポが言う。
「どれくらいの時間休憩する?」
「昼食もはさみますんで、1時間くらいでいいっすか?」
「わかった!そういえばこれからの行程聞いてなかったな。」
「はい!3日程で花の街カオリンに着いて、そこから4日程で鉱山と霧の街カスミン、更にそこから3日で王都ハルミンでやす!」
「最短で10日か・・・わかった!本当に街に着いたら長居してもいいんだな?」
「へい!兄貴の都合に全面的にあわせやす!」
「わかった!じゃあ飯を作ろうか!」
叡斗は『土魔法』で台を作り、その上に魔導コンロを置き鍋やフライパンを並べていく。
「メイサ?何を出そうか?」
「昼ご飯なので、簡単なスープと焼き魚に致しましょう。」
叡斗とメイサが相談しながら、叡斗がマジックバッグから出すふりをして空納から材料を取り出す。
「ドラゴンアイズは本当にいらないんだな?」
「おう!俺達はプロの冒険者だ!依頼人から施しは受けねぇよ!」
ドラゴンアイズの面々は頑として保存食を食べて、叡斗達が作った料理は食べないと主張する。
「出来ましたわ!」
昼ご飯のメニューは、鯖の塩焼き・ワイバーン肉のスープ・パン
「うまい!」
「フフフ、夜は煮付けですわよ!」
「姉御!頂きやす!」
バッポは御者兼道案内なので、食べる!と最初から言っていたので、メイサが用意してくれている
バッポは美味い美味いとがっつき、いらないと言ったドラゴンアイズのメンバーからの羨ましそうな視線が痛い。
食べ終わりメイサが食器を片付けるので
「食器は俺が洗うよ!魔導具作ったし!」
「私が洗います!ダーリンは特訓のために集中なさってください!・・・この魔導具はどうやって使いますの?」
蛇口に1m程の棒が着いた魔導具を持ち不思議そうな顔をするメイサ
「これは地面に差し込んで固定して、ここをひねると水が出るんだよ?」
「これは便利ですわね・・・」
ドラゴンアイズの視線が強まった気がする
「では、出発しますんで、皆乗ってくだせい!」
特訓に精を出すが、左手の魔石がどうしても、斑模様になってしまう・・・
前の女性陣は何か言いたい事があるのだろう、時折振り返るが誰も何も言わず前に向き直る
「今日はここらで野営しましょう!」
バッポが言うので、車から出ると、川のほとりだった。
『土魔法』で台を作り、メイサに指示され料理道具と材料を取り出す。
晩御飯のメニューは、鯛の煮付け・味噌汁・米・冷えたワインだ!
冷えたワインは、俺がボトルに移し変えた樽ワインを冷蔵庫に入れておいた。
「うっひょー!!なんでこんな冷たいんすか!?」
バッポがワインを飲んで唸る
「これは・・・甘さが抑えられて、更においしくなりましたわね」
目を見開いてメイサが言う
「その言葉で俺も魔導具造りがんばった甲斐があるよ・・・」
俺は感慨に浸る
「あの・・・」
「ん?」
叡斗が振り向くとお皿とグラスを持ったドラゴンアイズの面々が並んでいた。
「冒険者の矜持を見せるのでは?」
「矜持もプライドもありません!私達にも食べさせてくださぁい!」
叡斗が問うと目に涙を溜めながらライラが叫ぶ
「メイサいいか?」
「そうだろうと思ってましたので、用意して御座います。但し!ワインはダメですわ!」
「メイサさんありがとうございますぅ!」
ライラが泣きながら答える
「いいか?魔導具も含めて他言無用だぞ?」
「わかってるよ!こんな魔導具見た事ねぇ!にしてもうめぇ!」
ベックが答える。
食べ終わり片付けを終えたメイサが
「ダーリン、お風呂に致しましょう。」
「そうだな!」
少し離れた所に、俺が開発したお風呂魔法で湯船を作り、水を溜め、ファイアーボールを落としてお湯を沸かし、「風魔法」で湯をかき混ぜる
「いい感じですわ!」
「『魔力操作』のおかげか早くできるようになったな
みんながこっちを凝視してる・・・
「メイサの裸は見せねーぞ!」
「違っ!なんだ?それは!??」
「お風呂だよ!!」
「俺達も後でいいか?」
「俺達の後なら好きにしていいよ!」
「「「やったー!!」」」
と女性陣が万歳をして、提案したベックにお礼を言っている
「ダーリン入りましょう、結界!」
メイサが結界と言うと、半透明の擦りガラスみたいな膜がお風呂を中心に覆って行く。
「これは防音もついてますからご安心を!」
「何もしねー・・・出来ねーよ!!」
叡斗は悲しい表情で突っ込む
風呂上りにメイサにドライヤーを渡し、使い方を教えると
「これは・・・便利ですわね!」
ふわりとドライヤーの風で髪を巻き上げながら、喜ぶメイサ
「師匠・・・それは?」
「ん?魔導具だよ?」
「師匠は存在が守秘義務ですね」
ターニャがひどい事を言ってくる
「ダーリン!そろそろ寝ましょうか」
髪を乾かし終わったメイサがテントを組み立ててくれていた
「そうだな!馬車にクッション引いてるとは言え体がガタガタだよ!」
実際に馬車にのると、縦揺れの衝撃が直で伝わるので、体が時折浮くような時もあり、慣れてない俺には厳しいものがあった。
「マッサージ致しますわ!」
「お願いします!」
マッサージが気持ち良くて、久々に普通に意識を手放して寝る叡斗であった。




