吸血鬼と新王国
荘園の領主、お嬢様の父親は生き延びていて、エメラルド強奪の罪を俺になすりつけた。大麦の汁と血が乾くより先に、俺の逮捕を命じたのだ。
投獄されても、俺は自由になると自分に誓ったりはしなかった。お嬢様と一緒なら、それはいずれ叶うのだから。俺が誓ったのは、この好奇心を失わないことだ。
牢の中で、俺は新しい事実を知った。エメラルドには独占欲めいた性質があったのだ。看守たちは俺の腹の中身を空にして宝石を取り上げた。それは俺のポケットに再び現れた。また取り上げられた。それでもこの尊い宝は、また戻ってきた。
お嬢様からも、新しいことを教わった。
面会に来たお嬢様は、かつて一族の祖先に富を与えた魔女のことを話してくれた。吸血鬼王と深い因縁を持つ、この宝石とともに。
荘園の次の当主には、エメラルドがもたらすおぞましい呪いと、哀れなほどささやかな恩恵を、ともに引き受ける責任があった。
俺たちは、俺を宝石から引き離せる魔女を、恩恵から呪いを取り除ける魔女を探し出すことになった。
そうすれば、お嬢様と一緒に俺の無実を晴らせる!
そうすれば、誰も知らない自由を手に、王国を旅して回れる!
なぜなら、俺たちは何も持たず、それでも欲するから。この手で世界を引き裂いて、俺たちを愛してくれる形に作り変えたいから。孤独な夜には月も星も俺たちを見捨てるけれど、君がそこにいるから。
ほかの誰も見たことのないものを見たいから。
もう、ひとりで人生の階段を上りたくはない。敗北の前には戦いがあるから、勝利の前にも戦いがあるから、君に俺の隣で戦ってほしいから。
君が、もう一度恋に落ちることを教えてくれたから。本当の絶望のなかでも、定命の者として、俺はそれでも君を愛するから。そこに愛があるから。
そうしたいから! それが自由だ!
◇◇◇
「ガハハハ! とまあ、そういうわけで俺はお嬢様に繋がれる身になったのさ! 一年ばかり前の話だ」わたしたちが牢に入れられているというのに、コリンの笑い声は生き生きとしていた。
「こんなに大げさな話、聞いたことがないわ。しかも、あなたほど胡散臭い人の口から」
わたしは美しい金の髪をふっと吹き払った。その向こうに、牢の向かいにいる男、わたしが隠しもせずに軽蔑している男の姿が現れる。
このコリンという男は、とんでもないお荷物だった。そもそもわたしがここに閉じ込められているのは、この男のせいなのだ!
この悪党は無実を説いていた。なんて下品なのかしら。それなのに、その笑い声には、子供の頃の夢がいっぱいに詰まっていた。
「俺が入れられたばかりの頃より、足取りが軽くなったみたいだな。ようやく自由のありがたみがわかったんだろ。病気の時に、いつもの健康を願うみたいにさ」
「全部あなたのせいよ!」わたしは辛辣に言い放った。(これだから人間は……)
「吸血鬼ってのは大変だよな。女の吸血鬼に生まれることほど運の悪いことはない。農奴よりもツイてない。だから教えてくれよ、俺たちの世界がまるごとひっくり返っちまう前に。どうしてあの時、その不運をいじめっ子どもになすりつけてやらなかったんだ?」
(あいつらに従うのは、強くなるまでの予定だったから。わたしは、強くならなきゃいけないから)理由など何ひとつ口にせず、わたしは彼にとって実に必要な説教を、とうとうと述べてやった。この世界が、牙の覗くわたしの笑顔を憎むよう教え込んだ時と、まったく同じ態度で。
「これ以上投獄されたいの? あなたの前科、どうやって始まったんだったかしら? 『お嬢様の父親のせいで逮捕された』? あなたみたいなペテン師なら、どうせ最初からそのエメラルドを盗んだんでしょう!」
「お義父上様がこの家宝を大至急取り戻したがってるのは、否定できないな。けど、ここだけの話、どっちかっていうと、俺とお嬢様の関係に度肝を抜かれてるってほうが大きい。今でもお嬢様には求婚者がわんさといて、我先にと手を伸ばしては顔から転んでるんだ。とにかく、俺だってタダで身の上話をしたわけじゃない。今度はあんたの話を聞かせてくれよ」
「なるほど。あなた、たいした詭弁家ね」
「なあ……看守どもにも、ちょっとしたサプライズが待ってるんだ。俺たち、ここに長居はしないぜ。ああ、その目つきで焼け焦げちまう! 優しくしてくれよ!」
わたしが思いきり頬を膨らませるのをよそに、向かいの筋骨たくましい男はエメラルドをお手玉し、歯でぱくりと受け止めた。ほかはともかく、退屈だけはさせてくれそうだ。
『だってさ、凡庸で窮屈な毎日なんて、いったい誰が望むってんだ? 自由は止められない。俺には探すべき魔女がいる! 自由になろうぜ!』彼はそんなことを言い続けていた。
腕をこうして繋がれていては、前髪をうまく直すこともできない。カーテンのように垂れた金の前髪を、わたしはまた吹き払った。
「……自由って、何なの?」
農奴たちと同じように、わたしにも目に見えない土の枷があるのだろうか? きっと、吸血鬼のそれは、もっとずっと暗くて重い。
この枷がなくなったら、わたしもコリンのように、恥も外聞もなく、子供みたいに、たくましく笑えるのだろうか?
わたしの英雄みたいに、微笑むことができるのだろうか?
だって、子供だったのはわたしのほうなのに。どうしてこの世界はこんなにも残酷で、わたしを、大人らしくあれと急き立てたのだろう?




