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元傭兵のおっさん。追放された悪役令嬢に転生したので、もっと悪逆非道に生きてみた~物語は語られない所でも動いている~  作者: ななよん
一章 成長編

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第八話 朝ご飯

※毎朝4:00頃に投稿中!

挿絵(By みてみん)


 登録は、滞りなく済んだ。


 受付が受理を告げた、その瞬間だった。


 右下のボードで、称号欄が書き換わった。


 「元公爵令嬢」の文字が消え、代わりに「冒険者」と表示される。


 ……ほう。


 立場が変われば、こいつも追従するのか。名前がヴィヴィになったのと同じだ。ボードは、今の俺を映す。過去じゃなく、現在を。


 悪くない。元公爵令嬢の表示が消えたのは、むしろ好都合だ。誰かにこのボードを覗かれても、ここにいるのは冒険者ヴィヴィ。それ以上は出てこない。


 もっとも――消えたのは表示だけで、中身の記憶と憎悪は、そっくり残っているがな。


 受付嬢――名はミラ、というらしい――が、木の札を一枚寄こした。冒険者の証だ。番号と、一番下の等級を示す印が彫ってある。


「これが、身分証の代わりにもなります。宿を取る時も、これを見せれば大丈夫ですよ」


「助かるわ」


 身分証。過去を問われない、新しい身分。元公爵令嬢のヴィオレッタは、どこにもいない。ここにいるのは、姓も持たない最下級の冒険者、ヴィヴィだけだ。


 悪くない。


 ミラに宿の場所を聞いた。安くて、飯の付く所を。


「でしたら、『銅の(なべ)亭』がいいですよ。素泊まりより少し高いですけど、晩ご飯と朝ご飯が付きます」


 晩飯と朝食つき。


 水浴びに着いてきた男の財布を、思い出す。あれが、ちゃんと仕事をしてくれる。


 名前も、少し気に入った。鍋か。


「そこにするわ。ありがとう」



             ◆



 銅の鍋亭は、ギルドから歩いてすぐの所にあった。


 部屋を取り、晩飯を頼む。久しぶりの、屋根の下の食事だ。温かいスープと、固くないパン。肉も少し付いている。


 上品に食べるふりをしながら、実のところ、腹の底から助かっていた。この数日、まともな飯を食っていない。体を作るには、まず食う事からだ。土台の土台は、栄養にある。


 食堂は、旅人や冒険者でそこそこ賑わっていた。俺は隅の席で、耳だけ開けておく。新しい街では、飯を食いながら情報を拾うのが基本だ。


 近くのテーブルで、商人らしき二人が話し込んでいた。


「そういや、聞いたか。街道の話」


「街道?」


「北の方さ。ヴァルドリアの貴族が、殺られたらしい」


 俺は、パンを千切る手を止めなかった。そのまま、耳だけ傾ける。


「貴族が? 物騒だな」


「伯爵家の息子だとよ。護衛を何人も連れてたってのに、全員やられて野っ晒しだったとさ」


「物取りか?」


「そこが妙なんだ」


 商人が、声を少し落とした。


「剣も鎧も、残ってたらしい。物取りなら、真っ先に持っていくだろう、そういう物は。金目の物だけ綺麗に抜かれて、重い物は全部置いてあった。そんな物取り、聞いた事がねぇ」


「……プロの仕業、って事か」


「さあな。ただの物取りにしちゃ、手際が良すぎるって話さ」


 俺は、スープを一口飲んだ。


 ……なるほど。


 重い物を置いていったのが、逆に目を引いたか。紋の入った剣や鎧を持ち去れば足が付く――そう考えて置いてきたが、置いてきた事そのものが、素人の仕業じゃないと語ってしまった。


 物取りに見せる為の工作が、逆に工作の痕になった。


 皮肉なものだ。完璧に見せようとするほど、不自然になる。


 だが――慌てる話じゃない。噂は「プロの仕業」止まりだ。誰がやったかまでは辿り着いていない。華奢な女一人が四人を始末したなどと、誰も想像すらしていない。


 想像の外にいる限り、俺は安全だ。


 それでも、覚えておく。次は工作の仕方を考える。重い物を置いていくにしても、もっと自然な理由の付く置き方がある。今回は勉強代だ。


 スープを飲み干して、席を立った。



             ◆



 部屋に戻る。久しぶりの、鍵のかかる部屋。久しぶりの、寝台。考えたら、前世を含めても久しぶりだ。


 最期は、爆弾で吹っ飛んだからな。しかも、助けたはずの子供ごと。


 あの子は体に爆弾を隠していた。遠隔で起爆されて、俺もろとも消し飛んだ。人間爆弾ってやつだ。ベッドの上で死ねる仕事じゃなかった。


 窓の建て付けを確かめ、扉の(かんぬき)を下ろす。寝る前に、退路と侵入経路だけは確認しておく。習慣のようなものだ。


 短剣を枕元に置いて、横になった。


 柔らかい。土の上とは、比べ物にならない。


 ……正直、助かる。


 目を閉じる。今夜こそ、あの熱が来るかもしれない。身構えて、待った。



             ◆



 朝の光で、目が覚めた。


 ……来なかった。


 昨夜は、一度も叩き起こされなかった。あの憎しみの熱が、一晩来なかったのは、滝壺で目覚めてから初めての事だ。


 胸の奥を、探ってみる。


 熱は、消えてはいない。底の方で、静かに(くすぶ)っている。だが昨夜は、表に出てこなかった。


 ……なぜだ。


 街に入って、気が張っていたからか。屋根の下で、久しぶりに安心して眠れたからか。それとも――別の理由か。


 分からない。


 分からないが、一つ確かな事がある。この熱は、俺の状態で出方が変わる。規則がある――という事は、いつか読み解けるという事だ。


 得体の知れない現象のままにしておくより、ずっといい。


 起き上がって、窓を開けた。


 朝のトラペジアが、下に広がっている。人が動き出し、荷車が(きし)み、商人が店を開け始めている。金と人と物が回る街。


 今日から、ここで生きていく。


 金を稼ぐ。体を鍛える。人脈を得る。順番に、一つずつだ。


 彼女の復讐に手を貸すのは――その後だ。


 俺は大きく伸びをして、部屋を出た。まずはランニング、それから朝ごはんが楽しみだ。



8話・了

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