↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元傭兵のおっさん。追放された悪役令嬢に転生したので、もっと悪逆非道に生きてみた~物語は語られない所でも動いている~  作者: ななよん
第2章 遠征編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

71/76

第七十一話 倭国国主・鷹継

※毎朝4:00頃に投稿中!

挿絵(By みてみん)

 倭国の首都《鈴の都》。


 その中央に建つ城の一室で、国主である鷹継は大きな地図を睨んでいた。


 王国が倭国へ差し向ける兵は、およそ五万。


 対する倭国軍は、各地の守備兵まで集めても、その半数ほどしか用意できない。


 兵を集めるよう命じてから、既に数日が過ぎていた。いつ王国軍が国境を越えてもおかしくない。


「鷹継様。本日もお元気そうで……何よりです」


 若い参謀の庵が、最後に小さくため息をついた。


 鷹継が顔を上げる。


「庵よ。少しは謀反っ気を隠す努力を致せ」


「隠しております。今のため息にも、普段の一割ほどしか気持ちを込めておりません」


「一割だけでも十分に不敬だぞ」


 二人のやり取りを聞いていた玄斎が、深く息を吐いた。


「殿。庵の不敬はひとまず置くとして、本当に御自ら出陣なさるおつもりですか」


「無論だ」


 鷹継は迷わず答えた。


「予想では王国軍五万が相手だ。ならば、わしが先頭に立たねばなるまい」


「殿は倭国の国主でございますぞ。御身に何かあれば、どなたがこの国を継ぐとお思いです」


「そのために、お前たちがおるのだろう?」


「我らは殿の代わりではございません!」


 玄斎が声を荒らげた。


 鷹継には妻も子もいない。国主である彼が戦場で命を落とせば、倭国は王国軍を退けたとしても、次の国主を巡って揺れることになる。


「戦に勝てば良いという話でも、ございません!」


「戦場に、よい出会いがあるかもしれぬだろうが!」


「戦場に恋愛を求めないでいただきたい!」


「では、どこへ行けば出会えるのだ」


「まずは城下へお出になり、年頃の女性と普通に話すところから始めてください」


 庵が真顔で答えた。


「庵。そなたは、わしを何だと思っておる?」


「武術と政には優れておりますが、女性との接し方だけを、お生まれの際に母上の胎内へ置き忘れた国主かと」


「口を慎め!」


 玄斎に叱られ、庵は静かに頭を下げた。


「精一杯慎んでおります。今も九割は申しておりませぬ。ご希望であれば、残りも申し上げますが?」


「いや、わしの心が持たぬゆえ、やめておこう……」


 そのとき、廊下を走る足音が近づいてきた。


「申し上げます!」


 入室を許された男が、その場で片膝をつく。


「サイゾウ様より、急ぎの知らせが届きました!」


 差し出された書状を、鷹継は自ら受け取った。


 封には、《忍》の頭領だけが用いる印が押されている。


 鷹継とサイゾウは、幼い頃から互いを知っていた。


 一人は、国主の跡継ぎとして剣と政を学んだ。


 もう一人は、《忍》の頭領となるため、素性を隠して生きる術を学んだ。


 進む道は違っても、二人は遠慮なく言葉を交わせる友だった。


「無事でおったか」


 鷹継は僅かに表情を緩め、書状を開いた。


「サイゾウは、何と?」


 玄斎が尋ねる。


「現在、七都市同盟が編成した特殊部隊に参加しておるらしい。ヴィヴィという娘の指揮下で、王国軍の後方攪乱に入っている」


「ヴィヴィ……ヴィオレッタ・ヴァレンシュタインですか」


 庵がすぐに名を挙げた。


「知っておるのか?」


「元は王国の公爵令嬢。最も次代の妃に近かった者ではありませんか」


 玄斎も思い出したように頷く。


「聖女によって罪を暴かれ、国外追放となった娘ですな」


「国外追放となった元公爵令嬢が、なぜ七都市同盟の特殊部隊を指揮しておる」


「そこまでは存じません。ただ、最近は各地から届く報告の中で、よく目にする名でございます」


 鷹継は先を読み進めた。


 サイゾウの書状には、王国軍の動向だけでなく、ヴィヴィが既に実行している策も書かれていた。


「王国軍は当初、五万の兵を倭国へ向ける予定だったようだ」


「予定だった、ということは変わったのですか」


「三万まで減ったと書かれておる」


 玄斎と庵が同時に地図へ目を落とした。


「魔国、北方のドワーフ国、そして七都市同盟。王国を囲む各国へ、国境付近で兵を動かすよう要請したらしい。どこも王国へ攻め込んではおらぬが、王国は守備兵を残さざるを得なくなった」


「二万の兵を、戦う前に倭国から遠ざけたのですか」


 玄斎が驚きを隠さずに言った。


 庵は地図上の王国を見つめたまま、僅かに口元を緩めた。


「素晴らしい戦略眼の持ち主ですな。兵を率いる前から、既に王国軍を削り始めております」


「まだあるぞ」


 王国内では、倭国で風土病が流行しているという噂が広がっている。


 吐き気や微熱から始まり、酷くなれば咳が出る。咳に含まれる悪いものが空気を通して人から人へ感染する。


 そのような病が、実際に流行しているわけではない。


 王国内で活動するサイゾウの配下が、商人を通じて広めた偽りの噂だった。


「行軍中に体調を崩す兵は必ず現れます。そのたびに、周囲の兵は噂を思い出すでしょうな」


 庵が言った。


「倭国の水や食料まで疑えば、現地での補給も難しくなる。病など、実在する必要すらないということですか」


「その娘、王国軍の兵たちを、戦場へ着く前から精神的に疲れさせるつもりらしいな」


 さらにヴィヴィは、進軍中の馬を狙っていた。


 妖精が夜ごと馬を驚かせ、眠らせない。馬が騒げば、周囲の馬も休めなくなる。


 騎兵の馬だけではない。荷車を引く馬が弱れば兵糧が遅れ、伝令の馬が弱れば命令も届かない。


 人間を直接襲わず、王国軍全体の移動を遅らせる策だった。


「敵兵を大勢倒さずとも、五万を三万へ減らし、その三万から機動力と補給を奪うか」


 鷹継は笑った。


「面白い娘だ」


「そうですな。優秀な外部の人間に助けられたお陰で、今のところ我が国の被害も少なくなっております」


 庵の言葉に、鷹継の笑みが止まる。


「なぜ、そなたは素直に褒めるだけで終われぬのだ」


「事実を申し上げたまでです。まあ、私が国主であったなら、そもそもこのような事態にはなっておりませんが」


「口を慎め!」


 再び玄斎に叱られ、庵は頭を下げる。


「申し訳ございません。精一杯慎んで、九割は申しておりませぬ」


「残りの九割を申したら、その場で斬るからな」


 鷹継は書状の最後に目を通した。


 ヴィヴィたちは、王国軍が通ると予測した村々を回り、村人へ山や森へ隠れるよう伝えている。


 既に王国軍は進軍を開始した。先頭が大橋付近へ到達するまで、五日とかからない見込みだという。


「地図を広げよ」


 鷹継の声から笑いが消えた。


 庵が机の上へ倭国西部の地図を広げる。


 王国軍が倭国へ侵入したあと、進める街道は限られている。三万の兵と多数の荷車が通れる道となれば、さらに少ない。


 鷹継は国境から街道を指で辿り、川の手前にある村で止めた。


「王国軍は、この村へ入る」


「理由をお聞きしても?」


「街道を進んだ先にあり、畑と家畜がある。弱った兵と馬を休ませ、食料を奪うには都合がよい。橋を渡る前に休むにも、うってつけだ」


 村の先には大きな川が流れている。


 荷車が二台並んで通れるほどの橋が架かっているが、三万の軍勢にとっては狭い。


「迎え撃つなら、ここだ」


 鷹継が大橋を指で叩いた。


「王国軍が村から出て橋へ入れば、横へ広がれぬ。三万の兵がいようと、同時に戦えるのは橋を渡り終えた者だけだ」


「橋の上へ矢を集中させますか」


「戦術弓を使う。王国の弓より我らの弓の方が、射程も威力も勝っておるでな」


 王国軍の騎士は、頑丈なプレートメイルで身を固めている。通常の矢では、鎧の表面で弾かれる可能性が高い。


 しかし、倭国軍が使う和弓には《ピアッシング》が付与されている。


 魔力を込めて放てば、分厚いプレートメイルさえ射貫ける弓だ。


「弓隊を大橋周辺の森へ潜ませる。王国軍が橋へ入ったところで、一斉に射かけるぞ」


「村人はどうなさいます」


「サイゾウの報告では、既に山へ逃げ始めておる。残っている者がいるなら、先遣隊を送って橋のこちら側へ移せ」


 鷹継は地図から顔を上げた。


「急ぎ、出立の準備をせよ。敵は五日とかからず、そこまでやってくるぞ」


「殿も行かれるおつもりですか」


 玄斎が最後の望みをかけるように尋ねた。


「当然だ」


 鷹継は即答した。


「兵の先頭に立たぬ国主に、誰が命を預けるというのだ」


 玄斎は何か言おうとしたが、口を閉じた。


 庵も今度は皮肉を口にせず、地図を畳む。


 命令を受けた者たちが、一斉に部屋を出ていった。


 出陣までに残された時間は少ない。


 それでも鷹継の顔に、迷いはなかった。


第七十一話・了

ここまで読んで頂き、ありがとうございました!


「続きが読みたい!」「面白かった!」と思っていただけたら、

ページ下部にある**【★★★★★】評価や【ブックマーク】、【いいね】**を押していただけると更新の励みになります!


特に★評価とブックマークは作品のランキングに直結するため、応援していただけると本当に嬉しいです!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。