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元傭兵のおっさん。追放された悪役令嬢に転生したので、もっと悪逆非道に生きてみた~物語は語られない所でも動いている~  作者: ななよん
第2章 遠征編

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第六十七話 馬鹿のサイゾウ

※毎朝4:00頃に投稿中!

挿絵(By みてみん)

 翌朝、私はサイゾウたち三人を連れてグランティアの執務室を訪れた。


 昨日、彼らを私の部隊で使うと決めた。だが、倭国の《忍》が七都市同盟内で活動するとなれば、私一人の判断で済ませるわけにはいかない。


 扉を開けると、グランティアが書類から顔を上げた。


「なんだいヴィヴィ。男を連れて挨拶たぁ、いい男でも見つけたのかい? それにしちゃ、後ろに女も二人ついてるね」


「他国の密偵を捕まえたから、連れて来たわ」


「いや、そうやけど! 言い方っちゅうもんがあるやろがい!」


 私はぽかんとした顔でサイゾウを見る。


「をい! ぽかん顔やめぇや! 誤解に拍車がかかるやないけ!」


 睦月が口元を押さえた。月夜はサイゾウからそっと目を逸らしている。


 グランティアは三人を順に眺め、眼鏡の縁をくいっと上げた。


「その話し方からすると、倭国の《忍》だね。まあ、うちで動いてたのは知ってたけどねぇ。案外、馬鹿そうで馬鹿だったねぇ」


「またそれかいな!」


「知っていたの?」


 私が聞くと、グランティアは肩をすくめた。


「倭国から来た商人が何人か、うちの街で妙に熱心に人の出入りを見ていてね。商売以外にも用がありそうだとは思ってたよ」


 サイゾウは苦笑して否定しなかった。


「それでヴィヴィ。そいつらをどうしたいんだい?」


「馬鹿っぽいけど、腕は確かよ。後ろの二人はかなり使えるわ」


「一言余計やで」


「この三人と、馬鹿の配下が王国に商人として入り込んでるらしいから、うちで雇いたいのよ」


「何回言うねん、馬鹿って!」


「配下は総勢十二人。そのうち九人は、今も王国内で商いを続けているそうよ」


 グランティアの表情が変わった。


「王国内に、すでに人がいるのかい」


「ええ。軍の動向を探るにはかなり有効でしょう?商人なら取引相手や荷の動きから調べられるでしょうし」


 先に送り出した六小隊の仕事は、国境付近と倭国側から王国軍の動きを見ることだ。王国内部での準備について調べるには危険も多くなる。


「それに、倭国へ入ってからも土地を知る人間は必要よ。村から村へ抜ける道や、荷車が通れる山道とかは、地図だけでは分からないもの」


「ふむ」


 グランティアはサイゾウたちを見た。


 月夜と睦月は静かに立っている。サイゾウも、さっきまでの抗議をやめてわざとらしくキリッとしている。


「なるほどね。ちなみに倭国は、私らの助けを必要としてるのかい?」


「それに関しちゃ間違いなく、必要と言える。このわしが保証したるわ」


 サイゾウが即答した。


 七人委員会では、倭国に使者を送り、協力を求めているか確かめることになっている。サイゾウの言葉だけで派兵を決めることはできない。


 グランティアも、それは承知していた。


「まあ、馬鹿が保証しても仕方ないけどねぇ。いいだろう。あんたの好きにやんな」


「おまんら、わしの事、馬鹿馬鹿と言い過ぎと違うか? なあ?」


 サイゾウが睦月と月夜を振り返り同意を求める。


 二人は一瞬で視線を外した。


「……おまんらまで?」


「はっはっは! なかなか笑わせてくれるじゃないかい」


 グランティアが声を上げて笑う。


「ただしヴィヴィ、あんたがこいつらの面倒を見な。何かあったらケジメつけるのもあんただよ」


「分かってるわ」


 現状で倭国と私達の目的は同じだ。


 それでも、私たちが持つ情報をすべて渡していい理由にはならない。


 グランティアはサイゾウに向き直った。


「ヴィヴィに使われるんで、構わないんだね?」


「最初からそのつもりで頼んでますわ」


「だったら話は早い」


 グランティアは笑みを残したまま、眼鏡を押し上げた。


「いいだろう、サイゾウ。七都市同盟内でのあんたの行動は、私が保証してやるよ」


 サイゾウが首を傾げた。


「わし、何を認めて貰って保証されたん?」


「ヴィヴィの部隊として、うちの街を出入りしていいってことさ。ただし、問題を起こせばあたしとヴィヴィのところへ話が来る。そしたらヴィヴィがあんたを締め上げるからね」


「それ、わしだけ責任が重くなっとらん?」


「最初にうちを探ってたのは、あんたらだろう?」


「そら、そうやけど……」


 サイゾウは口を尖らせた。睦月と月夜は何も言わない。


 グランティアはまた小さく笑った。


「話は済んだよ。ヴィヴィ、そいつらを連れていきな」


「ありがとう。じゃあ、行くわ」


「ひどい雇い主に当たってもうたなぁ」


 サイゾウのぼやきを背中で聞きながら、私たちは執務室を後にした。


             ◆


「グランティア様、よろしかったので?」


 四人が出ていくと、秘書が心配そうに声をかけた。


「倭国の密偵に、同盟内での行動を保証なさるとは」


「あんたやヴィヴィは知らんだろうけどね」


 グランティアは閉じた扉を見つめた。


「倭国において《サイゾウ》と言ったら、《忍》の頭領の名さ。代々襲名される、最高の忍に贈られる称号みたいなもんなのさ」


「……あの方が、頭領ですか」


「そうさ。隠す気があるなら、別の名を使ったはずさ」


 秘書は先ほどのやり取りを思い出し、困った顔をした。


「大丈夫さ。サイゾウを名乗ってせこい真似はしやしないさ。それにヴィヴィなら、使いながら見極めるだろうよ」


 グランティアがくくくと笑う。


「ヴィヴィも、面白い男を引っかけて来たね。さすが私の娘だよ」


 秘書は返事に困ったまま、机の上の書類へ目を落とした。


             ◆


 ガイルたちが集まっているところへ三人を連れていくと、全員がこちらを振り向いた。


 新しい仲間が加わることは伝えてある。


「紹介するわ。こちらから、睦月、月夜、そして馬鹿のサイゾウよ」


「ちょい待ち! なんでわしだけ説明がおかしいんや!」


 睦月と月夜が頭を下げる。サイゾウは抗議したまま立っていた。


 ガイルが感心したように頷く。


「なんだ、もう二つ名持ちなのか? 凄いな」


「そんな二つ名、丁寧に包んで送り返したるわ! 誰が馬鹿のサイゾウやねん!」


「違うのか?」


「違うに決まっとるやろ!信じるなや!真面目か!」


 ガイルは真面目な顔で私を見た。私は肩をすくめる。


「なんや、その反応!」


 トッドが吹き出した。シフォンも口元を押さえている。


「三人は倭国の《忍》よ。これから私たちと一緒に動くことになるわ。サイゾウの仲間が九人、王国内で商人として活動している。情報に関してはかなり幅広く集めれる様になったわね」


 ガイルの表情が引き締まった。


「王国内に入り込んでいるのか」


「ええ。集めた情報を私たちにも回してもらう予定よ」


 サイゾウが胸を張る。


「わしら、腕はええで。安心して使うてくれ」


「サイゾウはお話も上手だよ!」


 モカの頭の上からリリが言った。


「おっ、妖精のお嬢ちゃんは分かっとるやないか」


「ずっと喋ってるもん」


「せやで、話しとらんと息が吸えないからな!ってそんな訳あるかい!」


 今度はバルガスまで笑った。


 睦月と月夜は、サイゾウの後ろでほくほくした顔をしている。隊長がからかわれるたび、二人の機嫌がよくなっているようだった。


 オルドが前へ出て、サイゾウに手を差し出す。


「よろしくな、馬鹿のサイゾウ!」


「おまえらなぁ!」


 サイゾウは文句を言いながらも、その手を握った。


 ガイルたちも順に三人へ声をかける。月夜と睦月は笑顔で挨拶を返した。サイゾウだけは、名前を呼ばれるたびに身構えている。


 倭国の密偵が加わると聞けば、もっと堅苦しい顔合わせになると思っていた。


 どうやら、その心配は要らなかったらしい。


 面白いやつが来たもんだな。


第六十七話・了


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