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元傭兵のおっさん。追放された悪役令嬢に転生したので、もっと悪逆非道に生きてみた~物語は語られない所でも動いている~  作者: ななよん
第2章 遠征編

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第六十六話 《忍》

※毎朝4:00頃に投稿中!

挿絵(By みてみん)

 新設した六小隊を送り出した翌日、私はリリとモカを連れて街へ出た。


 補給に必要な品を見て回っていると、通りの出店から男に声をかけられた。


「お嬢さん、ちょいと見ていかへんか。倭国から持ってきた品もあるで」


 人懐っこい笑顔をした商人だった。店先には布や小物が並んでいる。


 足を止めたのは、品物に興味を引かれたからではない。


 モカが男を睨んでいた。


「クロロロロ……」


 低い唸り声が響く。モカは身体を沈め、男の動きを見つめていた。


「ちょ、待ってーな。こんな大きな魔獣に睨まれたら、ちびってまうわ」


「マテよ、モカ」


 私が言うと、モカは飛びかかる姿勢を解いた。だが、男から目は逸らさない。


 リリはモカの頭の上に座り、面白そうに男を見ている。


「で? あなた何者?」


 男は困ったように頭を掻いた。


「こりゃ参ったわ。試したんは悪かったで。そう怒らんで欲しいわ」


 謝りながらも、まだ笑っている。


 その間に、モカが一歩進んだ。ゆったりとした足取りで、男との距離を縮めていく。


「ちょ、ちょ、ちょ、近い近い」


 男が後ずさる。モカはまた一歩進む。頭の上でリリが声を立てて笑った。


「分かった! 降参や! 詫びも入れるから、この子止めたって!」


「あら、モカ。その人と遊びたいの? 軽く遊んであげる?」


「降参言うてるやろがい!」


 男が横へ跳んだ。


 足の運びが、先ほどまでとまるで違う。荷車と隣の店との狭い隙間を抜け、モカの前から一瞬で身体を外した。


「あら、ようやっと本性が出たわね?」


 男は着地した場所で頭を掻く。


「やれやれ、なんちゅうやつらや……」


 モカは唸るのをやめ、大きな欠伸を一つした。


 最初から飛びかかる気があったのかどうか。


「ここじゃ目立ち過ぎるで。場所を変えるで?」


 男は店先の商品を片づけ始めた。


 私たちは彼について通りを歩き、近くにある彼の店へ向かった。外観はごく普通の商店だ。看板も、窓から見える商品も、街でよく見かけるものばかりだった。


 それなのに、入口の前でモカがまた足を止めた。


 私も店を見直す。


 中に人の気配がある。それ自体は商店なら当然だ。ただ、扉へ近づいたときから、こちらを意識している気配が消えない。


「まだやる気? 次は止めないわよ?」


「さっきも止めとらんかったやろがい!」


 男は私たちと店を見比べ、奥へ向かって声を上げた。


「お客様や。警戒解け。噛まれるで?」


 扉を開けると、数人の女性店員が迎えてくれた。


 誰も武器を見せていない。立ち姿も接客のそれだ。


 だが、全員が手練れだった。互いの位置を塞がず、店内のどこへでも動けるように立っている。


 モカが店員の一人へ向かって歩き出す。


 まだ若い女性だ。彼女はモカが近づくにつれ、笑顔を強張らせた。


「あ、あの?」


「クロロロ……」


 モカは急がない。ゆったり歩きながら、彼女を棚の前まで追い詰めた。


 男がため息をつく。


「だから、噛まれる言うたやろが。武装解除せえ」


「こっわ。街中にこんなでっかい魔獣とか、こっわ」


 女性は軽口を叩きながら、袖に隠していたナイフを床へ落とした。


 モカはそれを見届けても、まだ彼女の前から動かなかった。


「モカ」


 私が呼ぶと、ようやくこちらを振り向く。


 そのとき、別の店員が私に近づいてきた。


「ご案内いたします」


 丁寧な声だった。


 だが、私の脇を通って先に立つには、近づき方が深すぎる。


 差し出された手を取り、身体を入れ替える。次の瞬間には、彼女の腕を背中へ回し、床へ押さえつけていた。


「やから、噛まれる言うてんのに」


 男が呆れた声を出す。


「噛まれるって言われたら、普通そっちの魔獣警戒するに決まってるでしょ!」


 制圧された店員が言い返した。


「あなた達、なんなの?」


 私は腕を押さえたまま男を見た。


 男は両手を上げる。


「まずは謝罪やな。色々、ホントすまんかった」


 ほかの店員たちも頭を下げた。私が腕を放すと、床にいた女性は起き上がり、改めて謝る。


「噂のヴィヴィはんが、噂通りなのか試させてもらいましてん」


「それで、店員まで巻き込んだの?」


「そこは、ほんまに悪かった」


 男はもう一度頭を下げた。


「わしら、倭国所属の《忍》言う組織の人間です」


 忍。


 偽物臭い関西弁で話す男が、そう名乗った。


 倭国は、日本と何か繋がりがあるのかしら。


 一瞬そんな考えが頭をよぎる。だが、今聞くべきことは別にある。


「私を試した理由は?」


「王国がうちらの国に戦争しかけるって言うんで、七都市同盟はん達はどう動くんかなって見張ってましてん」


「あら? 私達も倭国は助けて欲しいのか気になってたところなのよ」と言って、ニッコリと笑ってみせた。


 男は私を見て、それから店員たちへ振り向いた。


「なあ、これ会話で腹の探り合いしても勝てんのと違う? もう素直に言ってもうても良くない?」


 女性たちが揃ってため息をついた。


「隊長は、駆け引きが下手過ぎるんですよ」


「ほら、わしって素直でいい子やんか?」


 男は胸を張る。


 だが、私は警戒を解かなかった。


 前世にも、この手の男はいた。


 一見すると親しみやすく、話しやすい。気づけば余計なことまで喋っている。そういう人間が本気になったときほど、厄介な相手はいない。


「ありゃりゃ、返って警戒されてもーたわ」


 男が苦笑する。


 僅かに空気が変わった。


 私はバスタードソードの柄へ手を伸ばした。


「まっ! 待った待った! 本気で争う気は無い!」


 今度は男の顔から笑みが消えた。


 私も、柄に触れる寸前で手を止める。


「ホンマ怖い人やわ。躊躇なさ過ぎるやろ」


「先に試したのはあなたでしょう?」


「それは、そうやな」


 男は首の後ろを掻いた。


「わしは倭国の忍が一人、サイゾウ。後ろの二人は部下の月夜と睦月や。まあ、本名ちゃうけどな」


 先ほどモカに追い詰められた若い店員と、私に取り押さえられた店員が、それぞれ軽く頭を下げた。


「ヴィヴィよ。この子はモカ。そして頭の上でウトウトしてるのがリリよ」


 リリはモカの頭に伏せたまま、片手だけを上げた。


「奥で茶くらい出すで?」


「あなた達の出すお茶は、毒が入ってそうね」


「いや、たまにはやる手やけど、今はせんて」


 たまにはやるのね。


 私は返事をせず、彼らに案内されて奥の部屋へ入った。


             ◆


「粗茶ですが、どうぞ」


 睦月が茶を運んできた。私は礼を言って受け取り、一口飲む。


「なんや。警戒して飲まんかと思うたのに。せやったら高い茶出したら良かったわ」


「私の暗殺が目的なら、もっと早く仕掛けてるでしょ」


 街でも、この店に入ってからでも、機会はあった。


 それに今の時世で王国じゃない限りは私を狙う意味が無い。そして王国にこんなやつは居ない。


「で? 話は何なのかしら?」


 サイゾウが、月夜と睦月をちらりと見た。


「それなんやけどな。うちら三人も、あんたの部隊に入れて貰えんやろか?」


「倭国の忍が?」


「わしらは倭国からの指示で、七都市同盟の動きを探るのが仕事やってんけどな。今、めっちゃきな臭いやろ?」


 サイゾウは茶には手をつけず、続けた。


「ぶっちゃけ、悠長に情報収集してる暇無いねん」


 彼は、出発した六小隊のことも知っていた。


「あんたの送り出した小隊、あれはどう見ても後方撹乱を目的としての部隊やろ? うちの国、助けてくれようとしてるやんか」


 私はサイゾウの顔を見た。


 六小隊は目立たせずに送り出した。それでも、この男は人数だけでなく、何のための編成かまで読んでいる。


「あなた、馬鹿そうで、やっぱり馬鹿ね」


 後ろに立つ睦月が、お盆を持ったままうんうんと頷いた。


「ただ、嫌いじゃない馬鹿だわ」


 私は茶をもう一口飲む。


「なんやねん。わし、そんな馬鹿やないで?」


 サイゾウが腕を組んで、むうっと口を尖らせた。


 見抜いたことを黙っていれば、こちらは気づかず有利にできただろうに。それを明かしてまで部隊へ入りたいと言う。


 気を抜くとつい余計な事を話したくなる、危険な男だ。だからこそ、その言葉をどこまで信じるかは慎重に決める必要がある。


「腕はいいみたいだから、雇ってあげてもいいわ。配下は何人いるの?」


「三人言うたのに、やれやれやわ。総勢で十二人や」


 サイゾウは観念したように答えた。


「いいわ。私の部隊であなた達を使ってあげる。報酬は、倭国の勝利でどう?」


 サイゾウの表情が変わった。


「なんや、えらい破格な報酬やないけ。その条件なら言う事ないで?」


 月夜と睦月も、今度はため息をつかなかった。


「わしら三人は、あんたと一緒に動かせて貰う。行商人を装って、あんたらが護衛って感じやな」


「残りの九人は?」


「王国内で商いを行ってる。わしも王国の結構なお偉いさんとも取引しとるんやで? 例えば《聖女様》とかな?」


 そこで《聖女様》の名が出てくるとは思わなかった。


 王国の中に既に根をはっている。それだけでも価値が十分にある。サイゾウ自身が聖女と何を取引しているのかも、いずれ聞いておきたい。


「ふうん。そこまで知ってるなら、お互いメリットがありそうね」


 サイゾウはにやりと笑った。


「いいわ。上には私から話を通しておく。ただし、裏切ったら噛むわよ」


「キンタマ縮こまるわ。おお怖」


 スコーン!っと乾いた音がした。


 睦月が持っていたお盆で、サイゾウの頭をひっぱたいたのだ。


「下品ですよ、隊長」


「痛っ! もうちょい手加減してくれへん?」


 月夜は慣れた様子で、二人を見ていた。


 モカは床に伏せ、リリを頭に乗せたまま目を閉じている。


 さっきまで互いに剣とナイフを意識していた部屋が、今はずいぶん賑やかになった。


 面白い仲間が出来たと素直に喜べないが、頼りにはなりそうだ。


第六十六話・了


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