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元傭兵のおっさん。追放された悪役令嬢に転生したので、もっと悪逆非道に生きてみた~物語は語られない所でも動いている~  作者: ななよん
一章 成長編

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第六話 自由都市

※毎朝4:00頃に投稿中!

挿絵(By みてみん)


 街道が、急に良くなった。


 地面が踏み固められて、石がきちんと()けてある。荷馬車とすれ違う回数も増えてきた。


 道が良くなるのは、その先に金があるという事だ。運ぶ価値のある物が行き来する道にだけ、人は手を入れる。


 馬の背に揺られながら、俺はその理屈を裏返して考えた。ヴァルドリア王国が国境まで街道を整えているという事は、この先の街と、それだけ商売をしたいという事になる。国が頭を下げてでも物を通したい相手が、南にいる。


 悪くない情報だ。頭の隅に置いておく。


 昼過ぎに、自由都市が見えた。


 自由都市トラペジア。


 石造りの城壁が、丘の裾まで伸びている。門の前には人の列と、荷を積んだ馬車の列。想像していたより、ずっと大きい。


 列に並ぶ前に、馬を降りた。


 この馬をどうするか、先に決めておく。


 乗ってきた馬は、伯爵一行から頂戴(ちょうだい)した一頭だ。地味な見た目を選んだとはいえ、そこそこ良い馬ではある。街の中で飼えば(うまや)代がかかる。直ぐに使う当てもない。足が付く事を考慮しなくてはならないだろう。


 売る。それも、門をくぐる前に。


 門の外には、こういう時の為の馬商人が必ずいる。案の定、列の脇に一人いた。二束三文に叩かれたが、構わない。持ち歩けば「良い馬に乗った女」として記憶に残る。その記憶を消す為の値引きだ。安いものだと思っておく。


 身軽になって、列に並んだ。



             ◆



 門での手続きは、あっけないほど簡単だった。


 銀貨3枚の入市税を払う。それだけだ。名前も、出身も、聞かれない。金を払えるかどうか、それだけを見ている。


 なるほど、これが自由都市か。人が何者かより、金を持っているかを問う街。ヴァルドリアとは何もかも逆だ。あの国は、金をいくら積んでも生まれは変えられなかった。貴族の特権階級というやつだ。

 法外な金を払ったとしても名誉騎士爵で精一杯だろう。何の実も入っていない。


 門番に小銭を渡して、中へ入る。


 石畳の大通り。両側に店。人の話す言葉が、何種類も混ざって聞こえる。訛りが一つじゃない。あちこちの国から色々な人が流れ込んでいるという事だ。


 匂いも濃い。香辛料、獣脂(じゅうし)、汗、それから金物。元気に生きている街の匂いだ。


 何はともあれまずは、水だ。長旅で生水ばかり飲んで来たしな。


 通りの端に共同の水場があった。こういった場所の水も綺麗とは言い難いモノがあるが、試しに手で(すく)って飲んでみる。


 ……何ともない。


 いや、そもそもの話だ。俺はこの数日、川の生水を飲み続けてきた。一度も腹を壊していない。


 ヴィオレッタは箱入りだから生水で倒れる、とばかり思っていたが、どうやら違う。

 健康スキルの影響だ。病、毒、暑熱、寒冷に耐える。

 生水の雑菌くらい、はなから相手にしていなかったわけだ。見た目と違って丈夫な訳だ。


 初日にわざわざ吐き出したのは、何だったんだ。


 まあ、いい。分かった事が一つ増えた。


 健康スキルは、説明文どおりに働いている。という事は、頑健もタフネスも額面どおりと考えていい。毒に耐えるというのも、本当だろう。一度軽毒で試しておいてもいいかもしれない。


 毒を飲んでも平気な体、というのは覚えておく価値がある。俺が平気なものは、他人には平気じゃないかもしれないと言う事だ。使い道は、追い追い考えればいい。


 鍋も手に入った事だし、湯くらいはいつでも沸かせるが。生水で悩む必要は、最初から無かったらしい。



             ◆



 冒険者ギルドは、すぐに見つかった。


 大通りに面した、二階建ての大きな建物。剣と天秤(てんびん)の看板が下がっている。腕っぷしと、買い取り。冒険者という商売を、よく表した看板だ。


 扉を押した。


 中は酒場になっていた。まだ日も高いのに、酒の匂いが(こも)っている。奥に受付らしき窓口。手前のテーブルに、冒険者達が(たむろ)している。


 入った瞬間、視線が集まった。


 ……まあ、そうなるか。


 女が一人で入ってきた。しかも、体つきは細く、服はぶかぶかの男物。誰がどう見ても、場違いだ。

 先に服を買って着替えるべきだったと、少し後悔した。


 値踏みされているのが分かる。品定めの目、面倒事を持ち込むなという目、それから――


 装備の良い連中が固まっている一角に、一人だけ、こちらへ笑いかけてくる男がいた。


 身なりがいい。剣も安物じゃない。だが軽薄そうな顔で、俺と目が合うと、片眉を上げて会釈(えしゃく)のような仕草をよこした。


 ……面倒なのに気に入られたな。


 まあいい。ああいう手合いは、使える。情報屋をやってたやつもあんな感じだった。

 だが今は無視しておく。

 


 俺は視線を全部受け流して、まっすぐ受付へ向かった。


 受付には、若い女がいた。俺と同じか、少し下くらいだろう。制服を着て、帳簿を前にしている。


「登録を、お願いしたいのですけれど」


「は、はい。冒険者登録ですね。ええと、お名前を」


「ヴィヴィ」


「……ヴィヴィ様。姓は」


「無いの。それだけよ」


 受付嬢は少し戸惑ったが、すぐに書き込んだ。この街では、珍しくもないのだろう。姓を持たない人間の方が、むしろ多いのかもしれない。


「登録料が、銀貨一枚になります。あと、簡単な説明を」


 俺が財布を出しかけた、その時だった‐――。


6話・了

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