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元傭兵のおっさん。追放された悪役令嬢に転生したので、もっと悪逆非道に生きてみた~物語は語られない所でも動いている~  作者: ななよん
第2章 遠征編

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第五十九話 帰る場所

※毎朝4:00頃に投稿中!

挿絵(By みてみん)

 ラディアを発ってから四日目の昼過ぎ、トラペジアの城壁が見えてきた。


 見慣れた街並みに、皆の空気が緩む。


「ようやく帰ってきたな」


 バルガスが馬上で大きく伸びをした。


「門をくぐって報告を終えるまでが任務だ。気を抜くなよ」


 ガイルが釘を刺す。


「分かってるって。少しくらい帰ってきた気分に浸らせろよ」


「お前の少しは戻ってこないだろ?」


「隊長は相変わらず細けえな」


 言い返す声にも、疲労より安堵の方が強く表れていた。


 私も同じ気持ちだった。


 物資を運び、途中の村を回る。それだけの任務だったはずが、王国軍の斥候を全滅させ、一万を超える本隊を確認し、避難する子供たちを連れて撤退することになった。


 最後には魔国軍とまで交渉している。


 それでも私たちは、一人も欠けることなく帰ってきた。


 門番へ所属を告げると、こちらの顔を知っている男が目を丸くした。


「おお、遊撃隊の連中じゃないか。無事だったのか!」


「ええ。今戻ったところよ」


「ミエリッキが大変なことになってたって聞いてるぞ。早くギルドへ行ってやれ。毎日、何か知らせが来てないかって聞きに来る奴がいたからな」


 誰のことかは、聞かなくても分かった。


 門を抜け、そのまま冒険者ギルドへ向かう。


 大通りへ入った頃には、腕の中で眠っていたモカも目を覚ましていた。毛布の隙間から顔を出し、初めて見る街を忙しなく眺めている。


 リリは私の肩へ座り、おいしそうな店を見つけるたびに指を差した。


「ヴィヴィ、帰ってきたねー!」


「そうね」


 ギルドの扉を開ける。


 昼を過ぎたギルド内はそれなりに混み合っていたが、私たちが入った途端、受付にいたミラが顔を上げた。


「ヴィヴィさん!」


 仕事を放り出すような勢いで、受付から飛び出してくる。


「ただいま、ミラ」


「ご無事で……本当に、よかったです……!」


 私の両手を握り、今にも泣きそうな顔で見上げてくる。


 背後からは、ミラを追いかけてきた女性職員たちが、シフォンへ次々に声をかけていた。どうやら親衛隊同士の再会も始まったらしい。


「皆さんも、お帰りなさい。お怪我はありませんか?」


「全員無事よ。いろいろあったけれどね」


「いろいろ、ですか?」


「報告は長くなると思うわ」


 私の言葉を聞き、ミラの顔へ心配が戻る。


 そのとき、腕の中のモカが小さく鳴いた。


「んなぁ」


 ミラが瞬きをする。


「……ヴィヴィさん。その子は?」


「モカよ。途中で拾ったの」


 毛布の間から覗く小さな顔を見た途端、ミラの目が輝いた。


「可愛い……!」


 伸びてきた手に警戒し、モカが耳を伏せる。


「シャーッ!」


「ひゃっ!」


 ミラが手を引っ込めた。


「モカ、ミラだよー」


 リリが私の肩から飛び、モカの目の前へ回り込む。


「ヴィヴィのことが、すっごく大好きなひとー!」


「リリ。それ説明に必要?」


「必要です!」


 ミラが即答した。


 モカは私とミラを交互に見たあと、鼻を鳴らして毛布の中へ潜っていった。


「嫌われてしまったのでしょうか……」


「会ったばかりでしょう。そのうち慣れるわ」


「頑張ります」


 何を頑張るつもりなのかは分からないが、放っておこう。


「いつまで入口で騒いでいる」


 聞き慣れた太い声が飛んでくる。


 奥を見ると、ダン=ドンが腕を組んで立っていた。その隣では、クリス=タリスが眼鏡を押し上げている。


「全員揃っているな。なら、上へ来い。話を聞かせてもらうぞ」


             ◆


 報告は、思った以上に長くなった。


 遊撃隊長であるガイルが、出発してからの経緯を順に説明していく。


 途中で立ち寄った村の状況。襲撃を受けた集落。王国軍斥候二十四名との交戦と、その全滅。さらに北へ進んだ先で確認した約一万二千の本隊。


 私は必要に応じて、敵の装備や動き、魔国軍第3大隊副長ダーツとの会話を補足した。


 保護した子供たちは、物資を預けた街へ無事に送り届けた。馬車に積んでいた食料や薬品についても、戦況の変化を踏まえ、今後の配分を管理する者へ正式に引き渡している。


 ガイルが証明書を机へ置くと、クリス=タリスが内容を確認した。


「数量にも問題はありません。現地判断として妥当でしょう」


「魔国軍の本隊が北へ向かったのを、実際に見たんだな?」


 ダン=ドンの問いに、ガイルが頷く。


「ああ。斥候や先遣隊という数じゃない。ダーツという副長も、北の商業都市へ救援に向かうと言っていた」


「王国軍も、これで好き勝手には動けねえか」


「少なくとも、私たちを追い回している余裕はなくなったでしょうね」


「それで全員、生きて帰ってきたと」


 ダン=ドンが私たちを見渡す。


「ああ」


「結構。上出来だ」


 短い言葉だった。


 しかし、その声には普段の冗談めいた調子がなかった。


「最初の遠征で、随分と面倒なものに当たったな。だが、遊撃隊が必要だって証明にはなった。お前らが行かなければ、王国軍の規模も進路も、魔国の参戦についても知るのに時間がかかっただろう」


「その上で未完了クエストの消化もいくつか達成できてますね」


 クリス=タリスが書類へ視線を落としたまま言う。


「今後も同じです。依頼を片づけるだけでなく、各地の状況を見て、必要ならば自分たちで判断してもらうことになります」


「随分と雑な命令ね」


「細かな指示を出せるなら、遊撃隊を作る必要はありませんから」


 それもそうだ。


 現場の状況が分からないから、私たちが直接見て回る。判断まで毎回持ち帰っていては、間に合わないこともある。


「その代わり、帰ったら全部報告してもらいます」


「面倒ね」


「報告書はシフォンさんが作成しています」


「なら問題ないわ」


「ヴィヴィさんも確認してくださいね?」


 横からシフォンに念を押された。


 聞こえなかったことにした。


 続いて、ラディアでドランザートから預かった書状を差し出す。


 宛先はステラたち七都市の議長だ。ダン=ドンは封を確かめるだけに留め、グランティアへ届けたのち、正式な使者を立てて各議長へ回すことになった。


 報告を終えて部屋を出ると、待っていたミラたちに囲まれた。


 怪我はないのか、食事は取れていたのか、眠れていたのかと次々に尋ねられる。私より、シフォンの方が詳しく答えていた。


 その間に、モカは毛布から再び顔を出し、ミラの指先の匂いを嗅いでいる。


 少しは警戒が解けたらしい。


 ミラがそっと顎の下を撫でると、モカは目を細めた。


「触れました……!」


「よかったわね」


「はい!」


 今日一番の笑顔だった。


             ◆


 翌日、私たちはグランティアに呼ばれた。


 ドランザートの書状は、すでに彼女の手元へ渡っている。内容を確認したグランティアは、今回の働きに改めて礼を述べた。


「危険な仕事を任せたが、よく全員揃って帰ってきたね。まずは三日、ゆっくり休みな」


「そのあとは?」


 ガイルが尋ねる。


「決まってるだろう。また働いてもらうよ」


 グランティアは笑い、机の上へ一枚の紙を置いた。


「それと、あんたたちの住む場所を用意した。出発前には間に合わなかったが、遊撃隊として動くなら、拠点が別々じゃ不便だからね」


 案内されたのは、ギルドから歩いてそれほど離れていない二階建ての建物だった。


 派手さはないが、八人が暮らすには十分な広さがある。共用の食堂と台所、装備を置ける倉庫があり、裏手には訓練に使えそうな空き地もあった。


 ガイル、トッド、シフォンは、以前から三人で組んでいた。


 私は基本的に一人で動き、必要なときに彼らと組んだことがあるだけだ。


 一方、ステラから加わったバルガス、オルド、フィナ、リリも、元はそれぞれ別々に活動していた。


 その全員が、今日から同じ場所で暮らすことになる。


「部屋は好きに選びな。揉めるなら、隊長が決めるんだね」


 グランティアがそう言い残して帰ると、バルガスが真っ先に大きな部屋を選ぼうとした。


「お前は荷物が少ないだろう」


 オルドが止める。


「身体がでかいんだから、広い部屋が必要なんだよ」


「荷の置き場に近い部屋は俺が使う。食材や道具を運ぶのに都合がいい」


「そんなの台所に置けよ」


「全部置けるわけがないだろう」


 二人が言い合っている横で、フィナは日当たりのいい小さな部屋を選んだ。シフォンとトッドも、自分たちの荷物を運び始めている。


「リリの部屋もあるわよ」


 廊下の先にある空き部屋を指す。


「いらなーい」


 リリは迷うことなく答えた。


「ヴィヴィとモカと寝るー!」


「そう」


 予想どおりだった。


 私が選んだ部屋へ入ると、リリもついてくる。腕から降ろしたモカは床の匂いを嗅いで回り、最後にはベッドへよじ登ろうと前脚をかけた。


「あなたの寝床は、あとで用意するわ」


「んなぁ」


 モカは聞いているのかいないのか、懸命に後脚を動かしている。


 抱き上げてベッドへ乗せると、満足したように毛布の上で丸くなった。


 リリもその隣へ降りる。


「ここ、ヴィヴィのお部屋?」


「今日からはね」


「リリのお部屋でもあるー?」


「そうなるみたいね」


「モカのお部屋でもあるよー」


「んなぁ」


 返事をしたのか、ただ鳴いただけなのかは分からない。


 荷物を置き終えた頃、階下からオルドの声がした。


「夕食にするぞ。手の空いた奴は運ぶのを手伝え」


 部屋を出ると、皆も廊下へ顔を出していた。


 食堂へ降り、八人で一つの卓を囲む。


 これまでも旅の途中で、何度も同じ火を囲んで食事をした。だが、今夜は野営ではない。明日の朝になっても、同じ場所にいる。


 ここから仕事へ出て、終わればここへ戻ってくる。


 それが何日続くのかは分からない。


 ただ、この日から私たちは、同じ場所で暮らしながら遊撃隊として戦っていくことになった。


第五十九話・了


ここまで読んで頂き、ありがとうございました!


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