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元傭兵のおっさん。追放された悪役令嬢に転生したので、もっと悪逆非道に生きてみた~物語は語られない所でも動いている~  作者: ななよん
第2章 遠征編

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第五十八話 帰路へ

※毎朝4:00頃に投稿中!

挿絵(By みてみん)

 街の門が見えたとき、トッドがようやく息を吐いた。


 ここへ来るまでに何度か馬車を停め、そのたびに車輪や車軸の具合を確認していた。無事に走っているように見えても、修理した本人にしか分からない不安があったのだろう。


「これで、ちゃんと直せますね」


「ここまで持たせてくれただけで十分よ。ありがとう」


 トッドは少し照れたように笑い、最後にもう一度、回る車輪へ目を落とした。


 門番へ所属と事情を伝えると、先着していたガイルたちから話が通っていたらしく、長く待たされることなく中へ入れた。


 街には、以前ここを通ったときよりも人が増えている。


 荷物を抱えて道端に座る者や、家族らしき数人で寄り添っている者もいた。北から逃れてきたのだろう。門の近くでは街の者が水を配り、到着した人々を順に案内していた。


 馬車の中から子供たちが顔を出す。


 人の声と生活の匂いに、少しは安心できただろうか。


 少なくとも今夜は、森の中で眠らずに済む。


 教えられた倉庫へ向かうと、入口で指示を出していたガイルがこちらに気づいた。


「おお!無事戻ったか」


「ええ。そちらも無事だったようね」


「おかげさまでな。馬車はどうだ?」


「トッドが何とか持たせてくれたわ。街の職人に見てもらいたいそうよ」


「そっちは手配しよう」


 ガイルはトッドを呼び、近くにいた倉庫の担当者へ紹介した。その間に、奥からシフォンが駆けてくる。


「皆さん、ご無事でよかったです」


 私たちを見渡したあと、馬車の中へ目を向ける。その視線を追って、私も子供たちを振り返った。


「この子たちを預けられる場所はある?」


「はい。ガイルさんが相談してくださって、受け入れてもらえることになっています」


 私は頷いた。


 ガイルたちを先へ行かせて正解だった。物資だけでなく、こちらが到着したあとのことまで整えてくれている。


「助かるわ。まず、この子たちを連れていきましょう」


 保護先は、街が借り上げた建物だった。


 北から逃れてきた人々を受け入れており、親を失った子供たちについても、世話をする者を置いているという。


 シフォンの案内で向かうと、入口で待っていた女性が馬車へ近づいてきた。


 私は子供たちを降ろす前に、寝る場所や食事、それから今後の世話について確認した。ここへ来たあと、またすぐ別の場所へ移されるのかも尋ねる。


 女性は一つずつ答えてくれた。


 十分な余裕があるわけではない。それでも、誰がこの子たちを見るのか、その相手の顔を確かめられただけで、私としては随分と気分が違う。


 馬車から降りた年長の子が、幼い子供たちを順に並ばせていた。


 人数を数え、荷物を確かめ、遅れて降りようとする子へ手を差し出す。ここまで来ても、まだ自分が面倒を見なければと思っているのだろう。


「その荷物、持ちましょうか」


 女性が声をかけると、その子は首を振った。


「僕が持てるから」


「そう。じゃあ、一緒に運んでくれる?」


 断られた女性は無理に取り上げず、小さな子の荷物だけを受け取った。


 それから建物の中を指し、まずは皆で寝床を選ぼうと話す。年長の子は戸惑いながらも、手をつないだ幼い子を連れて歩き始めた。


 途中で何度かこちらを振り返る。


 私はそのたびに、黙って頷いた。


 最後まで入口に残っていた小さな子が、私へ手を振った。


 飴をくれた子だった。


 私も手を振り返すと、隣にいた子供に手を引かれ、ようやく中へ入っていった。


 姿が見えなくなってから、バルガスが肩を回した。


「これで、ひとまず大丈夫か」


「そうね。寂しい?」


「馬鹿言え。少しだけだ」

 少しは寂しいのか、この大男は。意外と素直な所があるやつだ。


 ここから先は、街の者たちの仕事になる。


 私たちがずっとついているわけにはいかない。だからこそ、渡す相手だけは確かめておきたかった。


 倉庫へ戻ると、ガイルが物資の一覧を広げていた。


 その隣には、街の担当者も座っている。


 魔国軍の参戦については、すでに街へ情報が届いていた。ただ、私たちが本隊を見た場所や進軍の方向については知らず、担当者は話を聞きながら地図へ印をつけていった。


「このまま北へ運ぶ予定だったが、状況が変わった」


 ガイルが一覧へ指を置いた。


「物資はここで引き渡す。街の方でも、今後の配分をまとめる準備に入っているそうだ」


 私は担当者へ目を向けた。


 魔国軍が動けば、王国軍の配置も変わる。救援を受ける街だけでなく、逃れてくる人々の数や、必要とする物資も変わるだろう。


 最初の予定だけを頼りに、私たちが個別に運び続ける段階ではなくなったということだ。


「そうね。ここからは全体を見て配ってもらう方がいいわ」


 食料だけでなく、衣類や薬品もある。


 一つの街へ急いで届けることが、ほかの場所で不足を起こすかもしれない。必要な量を集め、優先順位を決めて動かすには、私たちの見える範囲では足りなかった。


 一覧と現物を照合し、引き渡しの記録を作る。


 オルドも確認に加わり、保管の際に気をつける物や、傷みやすい物について担当者へ伝えていた。


 子供たちの馬車に残していた物資も降ろすと、御者が空になった荷台を見て長く息を吐く。


 ガイルは引き渡しを証明する書面を受け取り、丁寧に畳んで荷物へ収めた。


「ミエリッキの上層部には、結局会えなかったな」


「仕方ないわ。向こうも、それどころではなかったでしょう」


「そうだな。帰ったら、経緯はきちんと報告しておこう」


 私たちは街で一晩休み、翌朝、ラディアへ向けて出発した。


             ◆


 馬車に合わせていたときより、帰路は随分と身軽だった。


 それでも馬を急がせすぎず、途中で休ませながら進む。リリは私の肩とモカの側を行ったり来たりし、モカは眠くなると当然のように私へ身体を預けていた。


 ラディアの門をくぐったときには、今回の遠征を始めてから、随分長い時間が経ったような気がしていた。


 ガイルが面会を申し入れると、ドランザートは私たちを迎えてくれた。


 部屋へ入った私たちを見渡し、その竜の顔がわずかに緩む。


「無事に戻ったか。まずは座ってくれ」


 私はガイルと並んで腰を下ろした。


 報告はガイルから始めた。輸送の経緯、王国軍との遭遇、撤収と子供たちの護送。それから物資を街へ正式に引き渡したことを伝える。


 魔国軍との接触については、私が補った。


 王国軍の兵力は約一万二千。魔国軍第3大隊副長ダーツと会い、北方の商業都市が籠城していることを伝えた。ダーツは本隊へ知らせを走らせ、翌朝には北へ進む軍勢を私たちも確認している。


 ドランザートは途中で幾つか質問を挟んだが、最後まで話を聞いてから、深く頷いた。


「物資の引き渡しについては、それでよい。今は各地の状況を集め、まとめて配分する必要がある」


「当初の届け先までは運べませんでしたが」


 ガイルの言葉に、ドランザートは首を振った。


「届いた物資は必要な場所へ回せる。戦況が変わった以上、予定どおりであることだけを求めるつもりはない」


 ガイルの肩から、わずかに力が抜けた。


「魔国軍がどこまで戦うかは、まだ分からん」


 ドランザートは地図へ目を落とした。


「だが、王国軍も無視はできまい。我々に迫っていた直接の危機は、ひとまず遠のいたと言ってよいだろう」


「魔国軍も、自国の利益で動いているそうです」


「当然だ。その利益が、今は我々と重なっている」


 それ以上の期待をしている様子はなかった。


 味方と決まったわけではない。ただ、王国軍がミエリッキを押さえ、そのままこちらへ向かってくる事態は避けられる可能性が高くなったのは事実だ。


 それだけでも、ドランザートには大きな違いなのだろう。


「それに、君たちが支援物資を運び始めたのは、魔国軍が参戦する前だ。ミエリッキ側も、そのことは分かっている」


 危険が去ってから、余った物資を持ってきたわけではない。危険を冒して物資を届けたのだ。


 兵は出さないと決めた七都市同盟が、それでも援助を実行した。その事実は、今回の戦いがどう終わろうと残る。


 ドランザートはそこで私へ顔を向けた。


「兄の件についても、礼を言っておく」


「ドランジール様ですか?」


「ああ。難民側との話が、以前より通るようになった。支援の窓口がはっきりしたのは大きい」


 私は頷いた。


 兄が何を企んでいたとしても、援助を受ける側まで巻き込んで対立を深められては困る。今後はドランザートを通すと承諾した以上、少なくとも支援を利用して勝手に話を進めるのは難しくなったはずだ。


「魔国軍の参戦で、義勇軍を組織する理由も薄れた。今の兄には、動くための口実がない」


 なるほど。


 私が牽制したところへ、状況の方から蓋をしてくれたわけだ。


「それなら、少しはお役に立てたようですね」


「十分な働きだったと記憶しておく」


 短い返事だったが、出発前に会ったときより、その声には余裕があった。


 面会を終える頃、ドランザートが封をした書状を差し出した。


「ステラたちへ渡してくれ。今回の支援と、君たちの働きについて、こちらからの感謝を記してある」


 ガイルが両手で受け取る。


「承知しました。先にトラペジアへ帰還しますが、その後、確実に届けます」


「ああ、それで構わん。まずは休め」


 私はガイルの手にある封書を見た。


 行きにはステラの紹介状を携え、帰りにはドランザートの書状を持ち帰る。


 翌朝、私たちはラディアを発った。


 目指すのはステラではなく、より近いトラペジアだ。報告すべきことも、届ける書状もあるが、まずは本拠地へ戻らなければならない。


「やっと帰れるな」


 バルガスが馬上で伸びをした。


「帰ってからも報告があるぞ」


 ガイルに言われ、途端に肩を落とす。


「そいつは隊長に任せる」


「お前にも聞くことはある」


 そのやり取りを聞きながら、私はモカを抱き直した。


 腕の中では小さな腹が、ゆっくりと上下している。リリは私の肩へ座り、街の外へ続く道を眺めていた。


「帰ったら、ミラにモカ見せるー!」


「そうね」


 楽しみに待っているだろう。


 馬の歩みに合わせ、ラディアの門が背後へ遠ざかっていく。


 私は前へ向き直り、皆と一緒にトラペジアへの道を進んだ。


第五十八話・了


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