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元傭兵のおっさん。追放された悪役令嬢に転生したので、もっと悪逆非道に生きてみた~物語は語られない所でも動いている~  作者: ななよん
第2章 遠征編

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第五十五話 斥候部隊

※毎朝4:00頃に投稿中!

挿絵(By みてみん)

 村へ近づいてくる王国軍の斥候は約二十騎。


 トッドが確認した位置と移動速度から考えれば、到着までにはまだ時間がある。


 その間に、撤退する荷馬車を少しでも南へ進ませる。


 私たちがやることは、その時間を稼ぐことに他ならない。


 本隊の到着を少しでも遅くする為に、ここへ来た斥候を一人も帰さないことが最重要だ。


 村に残る老人たちへ事情を説明すると、意外なほどあっさりと協力を得られた。


「普段通りにしていてください。何を聞かれても、他の村人は南へ逃げたと答えてもらえれば問題ありません」


「皆さんのことは?」


「知らないで通すか、南に向かったと答えて」


「分かりました」


 老人はそれだけ答えた。


 既に残ると決めた者たちだ。


 今さら王国軍の斥候が来ると聞いたところで、騒ぐ様子もない。


「それと、兵士が村へ入っても、馬には近づかないで家の中で閉じ篭っていて」


「馬に?」


「ええ。馬の近くは危険になります」


 打ち合わせを終えると、私たちはそれぞれの位置へ移動した。


 トッドは北へ。


 斥候が来る街道から外れ、森の中を抜けて潜伏する。


 斥候隊なら、村を確認したあと本隊へ情報を持ち帰る人間を出す可能性が高い。


 その帰り道をトッドに撃たせる。


 私は村全体が見渡せる高台に伏せる。


 シフォンは村の中央を見渡せる場所に隠れ、ガイルとバルガスも別の建物へ入った。


 リリには上空から全体を見てもらう。


リリの《妖精の声》を使い、疑似的な戦術データ・リンクを構築する。

 ネットワーク中心戦というやつだ。


     ◇


『来たよ』


 頭の中へリリの声が届いた。


『二十四人。さっきトッドが言ってた人たち』


『そのまま見ていて』


『うん』


 私は高台の上から街道を見る。


 しばらくして、馬蹄の音が聞こえ始めた。


 徐々に大きくなり、やがて先頭の騎兵が村の手前で速度を落とす。


 後続もそれに続いた。


 すぐには入ってこない。


 数騎が左右へ分かれた。


 村の外周を確認するつもりらしい。


 私たちは動かなかった。


『右に三人行ったよ』


 リリから報告が入る。


『左にも三人』


『分かったわ。そのまま動きを逐一教えて』


 ここで手を出す理由はない。


 むしろ、好きなだけ調べてもらえばいい。


 荷馬車は既に出発している。


 私たちの馬も隠してある。


 村に残っているのは、逃げることを諦めた老人たちだけ。


 そう見えるようにしてある。


 外周へ散った斥候たちは、時間をかけて村の周囲を調べた。


 森の入口、畑、納屋、南へ続く街道。


 当然、荷馬車の轍には気づくだろう。


 だがそれで構わない。


 轍を消すことなど出来ないし、不自然に隠せばかえって怪しまれる。それに多くの村人が逃げた後だ、轍があっても不思議には思わないだろう。


 やがて、散っていた斥候たちが村の入口へ戻っていった。


 先頭にいた男が片手を上げる。


 騎兵たちがゆっくりと村へ入ってきた。


 老人たちは家に籠っているが、一人だけ代表役の爺さんが対応している。


「他の連中はどこへ行った?」


「南へ逃げましたよ」


「いつだ」


「さて……何日か前だったと思いますが」


 老人の答えに、兵士が苛立ったような顔をする。


「今日、ここを通った連中はいないか?」


「さあ。家に籠っておりましたので」


 嘘ではない。


 別の兵士が井戸を確認し、数人が家屋の中を覗いていく。


 それでも私たちは動かない。


 まだ早い。


 斥候たちは村の中央付近まで入ってきた。


 何人かが馬を降りる。


 それを見た別の兵士も続いた。


 水を飲ませるために馬をまとめる者。


 家の中を調べる者。


 老人から話を聞く者。


 少しずつ、兵士と馬の間に距離ができていく。


『ヴィヴィ』


 リリの声。


『まだ馬に乗ってる人、四人』


『待って』


『うん』


 私はクロスボウを構えたまま、息を整える。


 急ぐ必要はない。


 相手はこちらの存在にまだ気が付いていない。


 クロスボウを握る手にじわっと手汗が滲む。


 さらに二人が馬を降りた。


 残る二人は村の入口付近で周囲を見ている。


 そのうち一人が、中央にいる男へ近づいた。


 短いやり取りのあと、男が何かを指示する。


『二人、動くよ』


 リリから声が届く。


 村の入口にいた二人が馬首を北へ向けた。


 予定通りの行動だ。


 二騎が村を出て、そのまま北へ走っていく。


 誰も追わない。


 誰も止めない。


 トッド、上手くやりなさいよ。


     ◇


 トッドは街道から少し離れた森の中に伏せていた。


 姿勢を低くしたまま、弓を構える。


 遠くから馬蹄の音が聞こえてきた。


 音のズレから察するに、騎馬が二頭。


 音は徐々に近づき、木々の隙間から先頭の騎兵が見えた。


 その後ろにもう一騎。


 トッドは矢を番えた。


 まだ引かない。


 二人を十分に引きつける。


 ここなら村からは見えない。


 声も届かない。


 先頭の男が射程へ入る。


 トッドが弦を引いた。


 狙いを定める。


 呼吸を止め、狙いを絞る。


 ――ヒュッ。


 矢は先頭を走る男の右目へ突き刺さった。


 男の身体が大きく仰け反り、そのまま馬上から転げ落ちた。


「なっ――」


 後ろの男が手綱を引いた。


 だが、その時には既にトッドは二本目を番えている。


 弦を引き、放つ。


 矢が男の喉へ突き刺さった。


「――ッ!」


 声にならない息を漏らし、男が喉へ手を伸ばす。


 身体が傾き、地面へ落ちた。


 二人とも動かない。


 トッドは周囲を確認してから、弓を僅かに下げた。


 主を失った二頭の馬が立ち止まり、落ち着かない様子で辺りを歩いている。


 そのまま逃がすわけにはいかなかった。


 王国軍の陣地へ戻れば、何かがあったと知らせることになる。


 トッドは再び矢を番える。


「……ごめんよ」


 弦が鳴った。


 一頭が崩れ落ちる。


 続けてもう一本。


 二頭目も地面へ倒れた。


 トッドは弓を背負うと、倒れた兵士へ近づいた。


 生死を確認する。


 二人とも死んでいる。


 これで本隊へ報告は行かない。


 トッドは全ての矢を抜き取り、村へ向けて森の中を走り出した。


     ◇


 二人が村を出てから、しばらく経った。


 残った斥候たちに変化はない。


 本隊へ向かった二人が、既に死んでいることなど知るはずもない。


『みんな馬から離れたよ』


 リリから声が届いた。


 馬は村の入口近くにまとめられている。


 斥候たちは村の中央や家々へ散らばり、誰もすぐに馬へ飛び乗れる位置にはいない。


『シフォン』


『はい』


『準備は?』


『いつでも』


 私はクロスボウを構えた。


 中央にいる男へ照準を合わせる。


 二人を北へ戻すよう指示した男だ。


 おそらく、この斥候隊の指揮官だろう。


 呼吸を整える。


 指を引き金へ掛けた。


『始めるわ』


 引き金を絞る。


 ――バシュッ!


 ボルトが男の胸へ突き刺さった。


「敵――!」


 叫び声が上がる。


 その声へ重なるように、シフォンの詠唱が響いた。


「《スリープクラウド》!」


 村の中央へ白い霧が一気に広がった。


「なんだ、これ……!」


「離れろ!」


「馬だ! 馬のところへ――」


 一人が数歩走ったところで膝をつく。


 その横でも別の兵士がふらつき、地面へ倒れた。


 霧から逃れようと兵士たちが一斉に散る。


 統制が崩れた。


 家屋の陰からガイルが飛び出す。


 反対側ではバルガスが戦槌を担いで姿を現した。


 私は次のボルトをクロスボウへ装填する。


『ヴィヴィ、右から三人!』


「分かったわ」


 霧を避けて走り出した兵士へクロスボウを向ける。


 逃げる方向は分かっている。


 馬のところへ戻るか。


 村の外へ出るか。


 どちらでも構わない。


 もう、あなた達に逃げ場は無い。


 私は二人目へ狙いを定めた。


『リリ、情報はなるべく短く、要点だけ伝えて』


『わかった!』


 引き金を絞る。


 ――バシュッ!


 霧から飛び出した兵士の胸へボルトが突き刺さった。


 男が倒れる。


「上だ!」


 別の兵士がこちらに気づいた。


 クロスボウを構えるのが見え、私はすぐに身を伏せる。


 ――バシュッ!


 頭上をボルトが通り過ぎた。


「狙撃兵に頭を抑えられてる!」


「こっちにもいるぞ!」


「散れ!」


 怒鳴り声が飛び交い、白い霧から逃れた兵士たちが家屋の間へ散っていく。


 敵はこちらの人数も位置も把握できていない。


 対して、こちらには上空から見ているリリがいる。


『ガイル、後ろから二人!』


「後ろ!?」


 ガイルが振り返る。


『そっちじゃない! 反対!』


「どっちだ!」


 ……なるほど。


 便利ではあるけど、いきなり上手くいくものでもないわね。


『リリ、方向じゃなくて場所で伝えて』


『場所?』


『目印になるもの』


『わかった!』


 ガイルが迫ってきた兵士の剣を盾で受け止める。


 ガァンッ!


 刃を外へ滑らせ、そのまま盾を押し込む。


 兵士が体勢を崩した。


 そこへもう一人が回り込もうとする。


『ガイル、昨日バルガスが立ちションしてた大きな木の横!』


「何で知ってんだよ!」


 バルガスの声が村中に響いた。


 だが、ガイルには伝わったらしい。


 大きな木の陰から飛び出してきた兵士を盾で受け止め、そのまま剣を突き込む。


 その横を抜けようとしたもう一人へ、バルガスが戦槌を振るった。


 ――ゴッ!


 兵士の身体が地面を転がる。


「おいリリ! 後で話があるからな!」


『今、戦ってるから後で!』


「てめぇ!覚えとけよ!」


 そう言いながら、バルガスは次の兵士へ戦槌を向けた。


 私もクロスボウへ次のボルトを装填する。


『馬のところ、三人!』


 今度は分かりやすい。


 村の入口へ視線を向ける。


 三人の兵士が、まとめてある馬へ走っていた。


 ――バシュッ!


 一人の背中を射抜く。


 残る二人は止まらない。


 馬まであと僅か。


 その時、村の北側から矢が飛んできた。


 ――ヒュッ!


「ぐあっ!」


 一人の腿へ突き刺さる。


 男が転倒した。


 続けてもう一本。


 最後の一人も地面へ倒れる。


 森の近くにトッドの姿が見えた。


 戻ったのね。


 そこから決着までは早かった。


 奇襲を受け、《スリープクラウド》で分断された斥候たちは、最後までこちらの人数も配置も掴めなかっただろう。


 ガイルとバルガスが近づく者を押さえ、距離を取れば私とトッドが狙う。


 シフォンの魔法も飛ぶ。


 そして誰かが死角へ回ろうとするたび、多少怪しいながらもリリの《妖精の声》が飛んでくる。


 やがて剣戟の音が途絶えた。


     ◇


 倒れた兵士を一人ずつ確認する。


 《スリープクラウド》で眠っていた者も含め、王国軍へ戻れる者は残さなかった。


 これで斥候部隊は全滅。


 ガイルが剣についた血を払い、鞘へ収めた。


「全員無事だな」


「ええ」


 バルガスも戦槌を肩へ担ぐ。


 そして、上空から降りてきたリリをじっと見た。


「……おい、リリ」


「なにー?」


「さっきの、何で知ってんだよ!」


「だって見てたもん」


「見てんなよ!」


「リリ、分かりやすいと思ったんだもん」


「他にあっただろ! 大きな木とか!」


「だからその大きな木だよ?」


「そういうことじゃねぇ!」


 ……まあ、目印としては確かに分かりやすかったけど。


「反省会は後にして。ここを離れるわよ」


「俺が悪いみたいに言うなよ!」


 ガイルが小さく息を吐き、南へ続く街道へ目を向けた。


「ヴィヴィの言う通りだ。撤収するぞ。支援部隊を追う」


 私たちはすぐに装備を整え、村を後にした。


五十五話・了

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